バブル経済まっただ中の1985年ころ。退職金としてもらった虎の子の1千万円を定期預金に預ければ、利息が年5.5%(税引後年4.4%)程度ついていたので、年に440,000円(税引後)の利息収入が得られました。これは、当時であれば十分に「家計の足し」になるもので、2年間ほど使わなければ軽自動車の一台も新車で買える金額でした。
一方、2022年現在の各銀行の預金金利は、大手銀行・地方銀行で0.002%、ネット系の銀行が0.01%~0.02%といったところ。最も条件の良いものを探しに探しても、定期預金の金利は0.1%がやっとというところです。
例えば利息が年0.025%(税引後年0.020%)のメガバンクの定期預金に1千万円預けても、この金利では年に2000円(税引後)しか利息収入が得られません。これでは孫に誕生日のプレゼントも買ってやれないと嘆くお年寄りも多いことでしょう。
でも、かといって今流行りの「投資」にはなかなか踏み切れないのも事実です。政府や日経新聞は、何かといえば「これからは投資の時代」とけしかけています。しかし、長年働いてようやく手に入れた退職金を減らしてしまっては(まさに文字通り)元も子もありません。株や先物などでパアにしてしまっては、折角、老後の面倒を見ると言ってくれている奥さんや子供にも「合わす顔」がないというものです。
折しも、期せずして始まったウクライナ危機や急激な円安によって、この日本でも物価上昇の気配が日に日に高まってきています。老後資金の必要額は2000万円と言われてからすでに2年。インフレによって貯金の価値が目減りするのであれば、せめて定期預金の金利を(10倍くらいに)上げてほしいというのが、正直、世のお年寄りたちの本音なのではないでしょうか。
そうした折、5月10日のYahoo newsに、金融アナリストの久保田博幸氏が「11兆円程度の支給を簡単に毎年捻出する方法」と題する興味深い一文を寄せていたので、参考までにその内容を紹介しておきたいと思います。
以前に政府が経済の緊急対策で国民一人あたり10万円を支給したことがあった。日本の人口が1億2500万人程度であり、単純にかけ算をすると11兆円程度を配ったことになるが、実はこの11兆円程度の支給を、簡単に、それも毎年捻出する方法が存在すると氏はこのコラムの冒頭に記しています。
それは、どういう方法なのか。日銀の資金循環統計によると、3月末時点での家計の現金・預金は1092兆円程度存在する。つまり現在ほぼ「ゼロ%」の金利を1%上昇させるだけで、そこには11兆円規模の利子が生まれるというのが氏の試算するところです。
米国の中央銀行にあたるFRBは、5月4日のFOMCで政策金利のフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標について、0.25%~0.50%から0.75%~1.00%へ引き上げることを決定した。イングランド銀行は5日の金融政策委員会で政策金利の1%への利上げを決定しており、ドイツの10年債利回りもここにきて1%台に上昇していると氏は言います。金利の1%というのは欧米では既に珍しいものではなく、米国の10年債利回りは既に3%台に上昇しているということです。
一方、消費者物価指数が低迷する日本では強力な金融緩和を続ける必要があるとして、日銀が無理矢理に長期金利を0.25%に、短期金利をマイナスに押さえ込んでいるのは国民の皆が知るところ。しかし、その消費者物価(除く生鮮)も、いよいよこの4月分で(日銀が目標とする)2%に達する可能性が出てきている。そこで、コストプッシュだろうがなんだろうが物価は上がってきているのだから、本来、我々はそれに見合った金利を得られなければならないはずだと、氏はこのコラムで指摘しています。
日本では、家計の現金・預金が1092兆円程度も存在するのだから、金利上昇による効果は大きい。たしかに、金利が1%上昇して得られるはずの11兆円相当がそのまま個人消費に繋がるというわけではないが、これは多額の費用をかけて10万円を配っても同じことだと氏は言います。
もちろん、預金は国民の間に偏在しているので必ずしも「公平に」とはならないかもしれない。しかし、費用を掛けずに同様の金額効果を引き出すこと自体は可能だということです。1万円札の流通量は100兆円を超えているとされる。そのなかにはタンス預金が多く含まれているが、もしも金利が動けば、こういったタンス預金が本当の預金に加わる可能性も出てくると氏は話しています。
さらに、金利がいざ上がるとなると、金利が低いうちに設備投資などを行うとの企業も出てくるだろう。これにより、景気への良い刺激になることも予想されるということです。
もちろん、そこには債務の多い企業や住宅ローンを抱えた個人などへの負の影響も考えられる。しかし、0%あたりから1%あたりへの金利上昇は「プラス効果」のほうが大きいはず。これによって金融機関の動きも活性化し、機能不全と化した債券市場も息を吹き返すというのが氏の予想するところです。
それでは、なぜ日銀は(他国と同様に)金融緩和の出口を示すことができないのか。実は、この政策転換にはただ一つ大きなハードルが存在していると氏はしています。それは、金利引き上げにより最もネガティブな影響を受けるのは(他でもない)巨額債務を抱える当の日本政府だということです。
借金で首が回らない財務省のプレッシャーは相当なもの。現在の日銀のスタンスを見る限り「金融緩和は止めるな」状態にあり、1%の金利上昇すら夢物語と言わざるを得ないと氏は言います。そして、こうした状況が続く限り、我々国民は(政府の借金によって)本来得られるものを奪われているとこのコラムを結ぶ久保田氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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