民主主義の社会では普通に考えればあり得ないロシアによる一方的な軍事侵攻は、米国がイニシアチブをとる国際安全保障体制に慣れ切った(私たち)西側諸国の住人に、大きな衝撃をもって受け止められました。
拒否権を持つ国連の常任理事国による主権国家に対する(まさに)あからさまな侵略行為は、第2次大戦後、そして冷戦終結後に築かれた国際秩序の基盤を根底から揺るがすものとなりました。国際法規などは関係ない。軍事力を背景に、「力こそが正義」として世界大戦の可能性を人質に西側民主主義諸国に挑戦するプーチン大統領の姿に、強権的な政治体制の危険性をリアルに感じている人も多いのではないでしょうか。
思えば、現在のウクライナの状況は、単に欧州だけの問題ではありません。ひとたび力による主張がまかり通れば、今後の国際社会がなし崩し的にルールを無視した強権的な行動へと傾斜していく可能性も否定できません。ロシアばかりでなく、東アジアにおける中国の台頭や中東におけるアラブ諸国の動き、ヨーロッパや南米の国々の右傾化なども懸念されるところです。
こうして時代の大きな曲がり角を迎えている世界の情勢ですが、実際、国際社会を構成する国々の国家体制は、現在どういった状況にあるのか。3月8日のYahoo newsに、ジャーナリストの西岡省二氏が「世界人口の71%が独裁に分類される国に住むという衝撃」と題する論考を寄せていたので、参考までに内容を残しておきたいと思います。
強権国家による民主主義体制への圧迫が続くが、国際社会を大きく「民主主義」対「独裁」の構図で見た場合、人口の合計はそれぞれ「23億人」対「55.6億人」となり、世界の多くが「独裁」側に住んでいるという現実があると、西岡氏はこの論考に記しています。
英オックスフォード大の研究チームが運営する国際統計サイト「Our World in Data」の分類によれば、2021年時点の「自由民主主義国家」は34カ国・地域とされる。そこに、自由や人権の保障などは完全ではなくても(とりあえず)「選挙による民主主義」が保証されている国が56カ国。つまり、「意味のある」選挙を実施している国は、合わせて90カ国・地域となるということです。
一方で(同サイトでは)、「選挙による独裁」は63カ国、「閉鎖型独裁」は46カ国・地域で、合わせて109カ国・地域が「権威主義的な政府」と分類されていると氏はしています。面積的にも広く、地図に落とせば、民主主義国家よりも権威主義的な国の方が多いのは一目瞭然だということです。
さらに、人口で見ても、民主主義を享受する割合は2017年の50%を頂点に下落を始めており、2021年では世界人口(78.6億人)のうち、23億人(29%)に下がっていると氏は説明しています。現在では、(人口大国中国も含め)世界人口の71%に相当する55.6億人が、本当の意味での「投票権」の保障を十分に享受していないのが現実だというのが氏の見解です。
新型コロナウイルスが世界規模で広がり、中国や北朝鮮などの専制的な政治体制を持つ国家では、有無をも言わさず都市封鎖や国境封鎖など強力な防疫措置をとったのは記憶に新しいところです。
新型コロナ感染の世界的拡大が始まった2020年の春頃、強権国家で採られた迅速・強力な対応の“効率”の良さが強調される一方で、民主主義が根付いている国では国と市民の間でしばしば対立が起き、政治不信に陥るところも少なくなかったと氏は指摘しています。自由主義の先頭に立つ米国においてすら、「自由」と「効率」の狭間で、コロナ危機が「第二次世界大戦のように、世界秩序にとって重要な屈折点となる」という指摘さえあった(米紙ワシントン・ポスト2020年3月19日付論文)ということです。
世界の総人口の約3割が(いわゆる)民主主義国家に暮らし、民主的な政治体制を享受しているとされるが、理論的に民主主義国家に分類されることと、有権者が感じる社会への「満足度」はまた別物だというのが氏の認識です・
状況によっては、これが選挙に対する不信感、民主主義的手法に対する不満につながりかねない。トランプ大統領を支持したアメリカ国民が「リベラル」な政権に大きな不満をため込んでいたように、自由と平等(公平)とを両立させるのは困難で、民主主義とポピュリズムは紙一重、強いリーダーシップは権力の集中と隣り合わせだということでしょうか。
そこで言えるのは、(いずれにしても)完成した民主主義体制というものは存在しない。民主主義の困難はえてして、新しい民主主義の発想が生まれるきっかけでもあった(あるはずだ)と西岡氏はこの論考に綴っています。
それは言い換えれば、「民主主義の危機は民主主義によって克服されてきた」(「現代民主主義」山本圭著、中公新書)ということ。強権国家の脅威が深刻化するなかで、自由と民主主義の価値観をいかに広げていくのか。大きく動く世界は今、正念場を迎えているように思えるとこの論考を結ぶ氏の指摘を、私も興味深く受け止めたところです。
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