MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯64 50倍返し!

2013年09月23日 | 日記・エッセイ・コラム

 日曜日、白金の外苑西通り(プラチナ通り)の歩道わきの路肩には、お店を訪れた人たちのよく磨かれたメルセデスのSLやジャガーXJ、時にはロールス・ロイスなどの高級車が何台も路上駐車されています。交通量のあまり多くない、道幅もあるきれいな道路ということで、多少料金はかかりますがこれらの車のオーナー達は好んで道端のパーキングメーターを利用しているようです。

 この状況を見ながらふと思ったのですが、「本当は駐車禁止の場所なんだけど、まあ金さえ払ってくれれば大目に見てやらないでもないぜ…」という、越後屋の袖の下を連想させるようなこのパーキングメーターという(かなり資本主義的な露骨な())システムは、いったいどういう考え方で運用されているのでしょうか。

 そもそも、一般車両の路上駐車が禁止されるのは、道路交通法の第45条及び第46条などにより、基本的に道路交通の阻害、交通渋滞、交通事故の原因となるような場所のほか、消防用設備の周辺、公共交通機関の運行の妨げとなる場所などに限定されているはずです。そんな危険な、もしくは迷惑な場所であれば本来何人であっても駐車をすべきではないはず。にもかからわず、お金を払った人には駐車を認めるというこうした運用は、法律の趣旨からいっても腑に落ちません。

 「ま、あまり危ない場所ではないし、路上駐車のニーズも高いのでお金を払った人には公有地である路上を一時占有させてあげるね…」という、お役所の温情()なのでしょうか。いわゆる路上を使った有料駐車場ということであればそれはそれで納得もいきます。皆んなが使いたいんだから、30分ずつで我慢してね…という理屈は、実際にパーキングスペースを利用している人の感覚にも近いものがあるかもしれません。

 しかし、それにしても、もともと危険などの支障が無いのであれば誰でも駐車できることにすればよいのだし、走る分には無料で使える道路という「公共スペース」を納税者が使用する(ただし、そのスペースを管理している自治体と駐車をしている人の納税先が同じとは限りませんが…)のにいちいち料金を払えというのも、随分一方的な制度のような気がします。

 さらに言えば、メーターの時間が超過した場合、車の使用者は「駐車違反」として道路交通法に基づく反則金(15,000円)の納付を求められたり、免許に対する行政罰(減点2点)などを受けることになります。駐車料金の支払いをしていないということで、例えば超過分の30分300円を追加徴収というのであればまだわかるのですが、すぐに道路交通法違反で「お縄」になるとはいったいどういうことでしょう。

 ネットでググって調べてみました。

 このパーキングメーターなるものは、アメリカのオクラホマシティで1935年にカール・マジーという人によって発明された、違法駐車による都市の渋滞を緩和しトラフィックを確保するためのかなり昔からあるシステムなのだそうです。日本でも戦後、道路交通法第49条により「時間制限駐車区間における駐車の適正を確保するため」に採用されています。ちなみに、同法49条の2には「パーキングメーターが車両を感知した時又はパーキングチケット発給設備によりパーキングチケットの発給を受けた時から、それぞれ道路標識等により表示されている時間を超えて引き続き駐車してはならない」と定められています。

 ここであることが分かります。つまり、道路交通法にパーキングメーター(あるいはパーキングチケット)そのものが明記されており、パーキングメータの表示を超えて駐車する行為自体がそのまま道路交通法の規定に違反することになる…ということです。要するに、パーキングメーターは交通信号機と同様に「交通ルール」の基準のとして法律に定められており、「信号赤だけど車が来ないから渡っちゃえ」というのが許されないのと同じように、パーキングメーターの表示を超えた駐車は許されない、それ自体が「違反行為」となる…というのがひとつの結論になります。

 さらにネット上で調べると、もとよりパーキングメーターが設置されている時間制限駐車区域は無秩序な路上駐車を抑制し、交通の安全と円滑化を図る目的で設置されたものであり、一台の車両が長時間そのスペースを占有することによって他の車両の短時間の駐車需要を満たすことができなくなる。そしてそのことが違法駐車を誘発、助長することになる。だからパーキングメーターの指示に従う必要がある…というのが、警察当局の一つの見解のようです。

(1) 駐車を一定の時間内に制限する必要がある場所を時間制限駐車区域としていること。

(2) 駐車時間を確認するためにパーキングメーターというものを設置していること。

(3)パーキングメータの表示時間を超える駐車は道路交通法で禁止されていること。

(4) 従ってこれ違反すると罰則の対象となること。

というシンプルな理論構成になります。

 そこで最後の疑問となります。それでは、何故、そのパーキングメータのある場所に駐車するためには「お金」を払わなければならないのでしょうか。

 この件については、警視庁のホームページ内(「パーキングメーターに関するQ&A」)において警視庁自らが回答していました。そのまま引用しますと…

「Q:パーキングメーターに入れるお金は、駐車場料金とは違うのですか?」

「A:駐車場料金ではありません。パーキング・メーター等の維持管理に必要な費用を、利用される方から「手数料」として納めていただくものです。」

 つまり、です。パーキングスペースの使用者がパーキングメーターに投げ込んでいるコインは30分間駐車するための「料金」などではなくて、あくまで警察が「パーキングメーターという機械を維持・管理していくための経費」をメーター使用者から頂戴しているに過ぎないという話です。例えて言うなら、自動販売機に100円入れたら缶コーヒーが出てきたけれど、その100円はコーヒーの値段ではなくて(コーヒー自体はタダ)、あくまで自動販売機の電気代だった…というような話のようです。

 であれば、わざわざお金を払ってまでパーキングメータを使わなくっても、自分で駐車している時間が証明できればいいじゃないか…という人が出てきそうな気もするのですが、道路交通法がパーキングメーター以外の方法を認めていない以上、なかなかそれもハードルが高いのでしょう。

 「30分300円の施設管理費を払わなかった人には罰金15000円」という、「50倍返しッ!」みたいな、このパーキングメーターというシステム。結果としては同じことかもしれませんが、少なくとも理論構成で言えば、「金さえ出せば見逃す」というような前時代的なシステムではない…ということになっています。それにしてもお役所というのは、いろいろな理屈を考えるものですね。本当に勉強になります。



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