MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯63 ブレイクスルー

2013年09月19日 | うんちく・小ネタ

 これまで出来なかったことがウソように出来るようになる。何かを乗り越えられたと感じる「瞬間」というのがあるようです。

 例えば、子供の頃なら「水泳」であったり「逆上がり」であったり、あるいは「楽器」であったり「スキー」や「スケート」であったり、さらには「車の運転」であったり。

 気がついたら、何の努力もなく出来るようになっている。あれほど文字を探すのに苦労していたパソコンのキーボードを、今では頭で考えるよりも早いタイミングで指がなぞっていたりします。

 自転車に初めて乗れるようになった時のことを覚えている人も多いでしょう。「あれっ」と思う間に「あ、できる!」と感じる瞬間。恐怖や戸惑いで肩に力が入りふらふらユラユラしていた子供が、次の瞬間には別人のような笑顔で自信を持ってペダルを踏んでいる。

 「感覚」と「運動」が神経で繋がるそうした瞬間を目の当たりにするにつけ、「体験」というものが人間に与える偉大な成果(これを人は「学習」と呼ぶのかもしれません)を感じずにはいられません。

 そして、乗り越えたからこそ見えてくる世界というものが、そこには在るのだと思います。こげばこぐほど後方にどんどん飛んでゆく景色や光。頬に当たる風。傾けて曲がる感覚や首や背骨にかかってくる遠心力。こうした自由な感覚は、残念ながらひとつの壁を突破した者でなければ分からない「勝者の」体験です。

 こうした経験はさらにいろいろな世界を見せてくれることがあります。

 例えば、海に何ヶ月か通ってサーフィンがある程度身についたとすれば…。そこにいる貴方は、サーフボードから何度も何度も投げ出された色白でひ弱な半年前の貴方ではありません。海辺を少し歩いただけで、海底の状況がどうなっているのか、どこにどんな潮の流れがあるのか、リップ(波頭)は巻いているのか崩れているのか、どのくらいのセットで波がきているのか…そんな波乗りに関係する様々な要素が貴方の目には見えています。

 さらには、波の下でサーファーをぐるぐる巻きにする海のパワーや、必死でパドリングする貴方を強引に沖に引っ張っていこうとする潮の流れといった自然の大きな力を、あたかも触れることができるもののようにリアルに感じられるようになっていることでしょう。

 そしてそこにある海は、かつて貴方が海岸から漠然と見ていた「海」という存在とは全く違うものになっているはずです。

 合唱や合奏などを経験していくと、実際は演奏されていない倍音やメロディがハーモニーの中から聞こえてくるのはよくあることだと言います。このような経験は感覚を豊かにし、音を細やかに聞き分けることができる能力が身につくことでそうした音が聞こえない人の何十倍も音楽を楽しむことができるのだという話を聞いたことがあります。さらに経験が積み重ねられ、五線譜に書かれた音符を目で追うだけで、頭の中にメロディが流れ美しいハーモニーが甦り、感動に涙することができる人も少なくないのかも知れません。

 ブレイクスルーとも呼ぶべきこうした体験は、「能力」や「知識」という問題ばかりではなく、その人の感性や精神にも様々な影響を与えることでしょう。

 運動会の徒競走で1着のテープを切ること、こうした誇らしさもそうでしょうし、初めて恋人が出来た時の嬉しさなどというのも、もしかしたらそういうものかもしれません。経験が精神を解放し、ひとつ上の段階にステップアップさせる。

 いずれにしても、経験してみなければわからない安心感や、経験して初めて見えてくる人の心、思いやりの気持ちなどというものもあることでしょう。

 本を読んだり話を聞いたり頭で考えたりするだけでは、「霧が晴れるように何かがはっきりわかる」という体験はなかなかできません。ブレイクスルーをひとつひとつ体験し、ステップアップを重ねること。バーチャルではない様々な体験(ブレイクスルー)を積み上げることのみが、大人の人格を形成するということではないかと思うところです。

 さてさて、人はどうしても年齢を重ねるごとに、こうしたブレイクスルーのチャンスを逃してしまいがちになるようです。何となくぼんやり過ぎていく時間が多くなったと感じたときには、つまらないことだと思っても、とりあえずは小さな小さな挑戦を繰り返し、そうしているうちに何やら視界も開けてきて、思いがけない明日がやってくるのかもしれません。

 さらに半年が過ぎ、日焼けして贅肉も落ち、海を愛する立派なサーファーに仕上がった貴方の隣には、貴方を愛するやはり日に焼けたすてきなガールフレンドがきっと寄り添っていることでしょう。

 挑戦してみて、正解でしたね。


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