MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯135 「核融合炉」実用化の可能性

2014年03月14日 | 社会・経済

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 核融合技術は、燃料となる重水素などが海水中などから無尽蔵に供給でき、発生する放射性物質も原理上コントロールしやすいことから、実用化がなれば、エネルギー問題を一気に解決する「究極のエネルギー技術」と考えられています。

 実際、エネルギーの効率で言えば、約1グラム(風船ひとつ程度)の燃料から、石油に換算すると理論上タンクローリー1台(約8トン)分の熱量を生み出すことができるということですから相当なものです(ちなみに、核分裂反応では同じカロリーを生み出すのに、ウラン約0.7トンを必要とするということです)。

 核融合炉は、稼働に当たってCO2や窒素酸化物を発生することがなく、装置の一部が帯びるとされる放射能も100年間で100分の1に減少するため、いわゆる核分裂反応を行う原子炉に比べ環境に与える負荷は格段に小さいということができます。

 核融合反応自体は平和的利用よりも一足も二足も早く、核兵器として既に現実のものとして利用されています。水素爆弾、いわゆる「水爆」は、核分裂反応による原子爆弾を起爆剤に使い爆弾内の重水素などに核融合反応を起こさせることにより、原子爆弾の数千倍という威力を実現しています。

 それでは、この「核融合」とはどのような反応のことを言うのでしょうか。

 核融合とは、水素のような軽い原子核同士が融合してヘリウムなどのより重い原子核に変わる反応を指す言葉です。例えば水素の同位体である重水素の原子核を○●(※○を陽子、●を中性子とします)、三重水素の原子核を●○●とすると、これが融合してヘリウム原子核●○○●が1個生まれ、余った中性子●1個が飛び出します。そしてその際に、その飛び出した中性子1個分のエネルギーがアインシュタインの特殊相対性理論(e=mc2)に従って熱として発生すというものです。

 ちなみに、こうした核融合反応は、太陽などの恒星が光ったり燃えたりしている姿そのものであり、私たちもその反応を日常的に目にし、地球上の生物はすべからくその恩恵を被っているということになります。実はこのように太陽が輝き続けていられるのは、恒星自体が持つ巨大な質量による引力によって高温に圧縮された重水素の原子核などが、恒星内部でバランスよく核融合を繰り返している結果であると考えられています。

 さて、原子核の反応式だけを見るとなにやら簡単そうに見えてくる核融合ですが、実際に反応を引き起こすためには二つの原子核同士を衝突させる必要があります。しかし原子核は両方とも正(+)の電荷をもっているので、相当早いスピードでぶつけないことには電荷同士の反発力で衝突せずにすれ違ってしまうのだそうです。

 原子核同士を衝突させるために必要なスピードは毎秒1000km以上ということですから、これは尋常な速さではありません。このスピードを地球上で実現させるためには、原子爆弾をすぐそばで破裂させるほかには、燃料となる原子核を核融合炉に閉じ込めそこに約2億℃という高温の環境を用意する必要があるということです。

 さらにこの反応を連続的に起こさせるためには、核融合の「燃料」となる原子核を20万気圧の高密度で長時間一定の領域に閉じ込めておく必要があるそうです。加えて現実的な規模の核融合炉では炉内燃料は数十秒で反応し尽くしてしまうということですので、閉じ込めるだけでなく、常に燃料を安定供給し続けるシステムが必要となります。

 このように、核融合による発電を実用化するには、2つの段階があると言われています。そのひとつは核融合を安定的に引き起こすことであり、そしてもう一つはそのエネルギーを日常的に運用するためのシステム作ることです。

 単に「核融合反応を起こす」ということであれば、実は比較的簡単だという指摘もあります。実際、アメリカでは、一般の素人が核融合反応を実現したとの報道もあります。2007年に米ミシガン州の高校生がホームセンターなどで購入した資材を用いて、自宅で2億℃のプラズマ発生に成功。また2010年にはニューヨークに住むフリーデザイナーがやはりオークションサイトの「ebay」で調達した資材によりプラズマ発生に成功したという報告もありました。

 しかし、核融合自体の反応条件が厳しくエネルギー管理も難しいため、核融合炉において継続的な反応を得るためのノウハウはいまだ蓄積されているとは言えません。また、一方で数億度の熱や中性子に耐え続けるだけの施設を作る必要があるなど、実験炉の運用にさえまだまだ大きな課題が残されているようです。

 あらためて、現時点における核融合炉の欠点を整理しておくと、

(1)超高温、超高真空という条件を設定するため、実験段階から実用段階のすべてが巨大施設を必要とするため莫大な費用を要すること

(2)10億度以上の高温状態では物質はプラズマ状態が常態であるため、これを封じ込め、維持していくための装置が必要となること

(3)炉壁などの放射化(高速の中性子による脆化)への対応が必要となること

などが挙げられます。

 国内においても、茨城県那珂市にある日本原子力研究開発機構の那珂核融合研究所や岐阜県土岐市にある核融合科学研究所(核融研)、青森県の六ヶ所村の国際核融合エネルギー研究センターなどにおいて、核融合炉の実用化に向けた様々な実験が行われていますが、こうした困難性もあって目立った成果はなかなか聞こえてこないのが現実です。

 先日、アメリカの研究チームが、レーザーを利用する方法により核融合反応を起こし、反応前よりも大きなエネルギーを生み出すことに初めて成功したとの報道がありました(2/13 読売新聞)。しかし、そこで生み出しされたエネルギーは、レーザー照射に使ったエネルギーの100分の1程度という内容でした。

 国内の原子力発電所の停止により電力需給がひっ迫する日本ですが、原子力発電に代わるベース電源として期待される核融合発電の実用化の道のりは、まだまだ険しいものと言わざるを得ないようです。


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