MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯139 OUTLIERS

2014年03月21日 | 本と雑誌

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 現在、ビジネス書の範疇で「世界で最もよく読まれている」とされるベストセラー作家に、マルコム・グラッドウェルがいます。「世界で最も影響力のある経営思想家Thinkers50(2013.May)」のベスト10にもノミネートされた彼は、「成功」というもののセオリーを追い求めるという意味で、まさしくアメリカのプラグマティズムを屈託なく体現する現代世代と言うことができるかもしれません。

 そんなグラッドウェルは「朝日新聞GLOBE」のインタビューに答え、「成功」とは次のようなものだと言っています。

 「意義ある仕事」、それこそが私の成功の定義です。複雑だが自主的に働くことができ、夢中にさせられてしまう。そして、努力に見合った報酬があるということが何より重要です。報酬の総額がいくらになるかや、どれだけ権力を持てるか、どれだけ有名になれるかは重要ではないのです。大事なのは、仕事に夢中になれるか、朝起きた時に仕事をしたいと思えるか、夜帰宅した時に自分のやったことに満足できるか。それが、「成功」なのです。

 その「成功」を得るためにはどうすればうまくいくのか。ビートルズやビル・ゲイツなど、「天才」と呼ばれ、常識では計り知れない「傑出した人々」(「outliers」=平均から大きく外れた例外的な存在)らの経験を通して「成功する法則」を見極めようというのが、マルコム・グラッドウェルの著作に底流する願望であり、彼の目論みと言えるでしょう。

 グラッドウェルは、著書「天才!成功する人々の法則」(勝間和代訳:講談社)の中で、「成功した人は生まれつき成功するための才能があったのだ」という一般的な認識を否定しています。一定水準の能力さえ備えていれば、成功は誰にも訪れる可能性がある。そして、成功するかしないかを決定づけるのは、結局、人生においてどれだけの好機に恵まれたのか。つまり「チャンスの差」でしかないというのがグラッドウェルが得た結論です。

 果たして「チャンスの差」はどこに現れるのか。グラッドウェルはそこに、「成功が予定された彼」に与えられるべき「3つの要素」を示しています。

 そのひとつは「スタートライン」です。どれほどの才能や知能指数があろうとも、そもそもの出自や生育環境、そして文化的、歴史的な背景が無いと、彼の人生は「苦渋に満ちたもの」になるばかりでなく、多くの「挫折に満ちたもの」になる可能性が高いとグラッドウェルは言います。それはいわゆる「社会的地位」というようなものばかりでなく、もっと大きな、彼自身が寄って立つアイデンティティのような存在です。彼が生来のものとして占める「ポジション」のようなものが「成功」にもたらす影響力について、グラッドウェルは決して懐疑的ではありません。

 成功をもたらす二つ目の鍵は、「トレーニングの量」だとグラッドウェルは言います。そして、様々な成功者を分析した結果~得られた成功に必要なトレーニングの量は、概ね「1万時間」であると指摘しています。1万時間のトレーニングは、1日8時間であれば3~4年、1日3時間なら概ね10年間の専念によって得られる成果です。グラッドウェルによれば、ビル・ゲイツもビートルズも、実はこうした1万時間以上のトレーニングを行う機会を(偶然にも)得られたことで、世界的な成功を手にするチャンスを得たということです。

 そして、グラッドウェルの言う、成功するための最後のポイントは「タイミング」です。歴史を彩る世界の富豪をリストアップしていくと面白いことがわかるとグラッドウェルは言います。

 クレオパトラからロックフェラーに至るまで、歴史上の「大富豪」と呼ばれる上位75人のうち、実に14人が19世紀半ばの10年間に生まれたアメリカ人であり、また、同様に、ビル・ゲイツからスティーブ・ジョブスまで、現代世界をリードしている億万長者の実に9人がI1953年から56年までの3年間というごく短い期間に生まれているという、いわば「時間軸」の存在です。

 グラッドウェルはこれらの事実から、成功するための「タイミング」を読み取ります。前者で言えば、アメリカ経済の大きな転換点に「若者」として存在し「好機」を掴み得た人々に「成功」が訪れたということであり、後者で言えば、メインフレームからパーソナルコンピューターへの転換点において、若さゆえの柔軟性により時代をリードし得た世代が、その後のIT革命を常にリードしてきたということです。

 グラッドウェルはこうした分析を踏まえ、なるべく多くの人が「意義ある仕事」を成し遂げ、その結果として「成功」が体現されるために必要な社会的原則は、「幸運」や「気まぐれな優位性」や「タイミング」のいい誕生日や「歴史の偶然」の代わりに、「全ての人間に好機(チャンス)が与えられること」だとしています。

 グラッドウェルは、「天才!」の後書きにおいて、人は「歴史」や「文化」や「遺伝子」や「偶然」から様々な「ギフト(贈り物)」を受けている…としています。

 社会にとって最も大切なのは、個人に与えられたこうした「ギフト」を活かすための「チャンス」が、人々にできるだけ平等に提供されることである。なぜなら、これこそが多くの人々に満足をもたらし、多くの人々を幸せにし、多くの人々を「成功」に導くカギであり、そしてそのことが、結果として社会全体を豊かにするからだということです。


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