珍しくおたけさんからメールが来た。仕事辞めたいと。あたしは悩んで言葉を考えた。少しでも役に立ちたくて。でもおたけさんは言った。この年で再就職口なんて無いよね、って。背筋が凍りついた。あたしあなたと同い年だけど?あたしはもう就職出来ないの?言葉を探すあたしを置き去りにして彼は何かを納得したようだった。そりゃあ、おたけさん車買ったばかりじゃん?結婚してるじゃん。仕事辞めないよね、じゃあなんであたしに相談するん?答えも聞かないのに。自分にガッカリする。不安が募る。ああ、やはりあたしの好きな人はあたしを好きではない、おたけさんは誰よりも近いようで誰よりも遠い人だ。幻滅は全てあたしに刃を向ける。母親の腫れ物に触るような視線がまた、あたしの息を止める。おたけさん、根本的に立場が変わってしまったのね、あたしは生きる意味が分からない。こんな不安だけ抱えて、心の居場所もなくてあたしはどうやって生きて行けばいいのだろう?しつこいが、もう何もいらないから仕事がほしい。体調不良は甘えなのだ。とりあえず職安に行かなくては。人間、死ぬ気ならなんでも出来るって言うけど本当かな?不安は睡眠も奪い、夏の暑さがまた容赦なくあたしの体力を奪う。神様、神様助けて下さい。これが最後の願いで構わない、あたしに仕事を下さい。誰かと過ごす未来など望みません。おたけさんも忘れます。優しい人は全て忘れます。電気屋のバイト、毎日吐き気がする。一応働いてるのにお金が足りない。バイトだからな、なのにお客にこれ、いくらになんの?と毎日値切られる。値段書いてあるじゃん。いくらになんの?っておかしくない?社員と同じ仕事をしてもなんと給料は半分以下だ。話し相手もいない。電気屋さんは、前にも書いたが、個人ノルマがあるから、ぎすぎすしている。遊ぶお金もない。ただ毎日が来るのが怖くて仕方ない。せめて1人で暮らせる働きをしなくては。まだ頑張れる?頑張らなくきゃ生きていけないよ、生きていたくもないのだけれど死ぬことも許されない。居候だからね。本当に今、人生で一番惨めだ。這い上がれるかな?まだやり直せるかな。眠いのに眠るのが怖い。自分の心臓がばくばく、うるさくてがたがた、身体が震える。やり直したい。這い上がりたい。もう毎晩泣きたくない。お願い、誰よりも遠い人は、心の箱にそっと仕舞うから。ああ、もうダメなのかな?消えたい
久しぶりに月を見た気がする。狭いベランダに丸くなって節煙していたたばこを吸い込む。頭痛は相変わらず止むことはなく、吐き気に襲われながら涙目で月を眺める。お月様の時間からすればあたしの一生など瞬きほどなんだろう。いつも月を眺めていた。友達がいた頃、1人暮らし出来ていた頃。あたしは変わってしまったのに月の光りは変わらない。月に祈る。どうか働けますように。って。最近は本当に今後が不安でパニックになりそうになる。焦って、焦って涙がとまらない。爪はもう、ない。剥がす速度に成長が追い付かない。話す相手もいない。これが孤独というものなのか。この年にして本当に追い詰められている。美しい月の光りさえまぶしい。いつだろう?幸せにお月見していた頃は?本当にあたしは馬鹿だなあ。取り返しつかないや。1人が淋しいってもっと早く気がつけば対処法もあっただろうに。いつも、いつも薄っぺらに生きて、ここまで来てしまった。誰かと月を眺めたこともあっただろうに、誰かを大切にさえ出来なかった。散々母親に迷惑かけて、でも多分母親が死んだらあたしは、もっと優しく出来なかったのか?と後悔するだろう。だから月に祈る。せめて仕事が見つかりますように。もう誰も求めません。ただ自分だけで生きていけますように。誰にも迷惑かけませんように。震える指先がまたたばこに伸びる。月を眺めながら祈る。どうか、どうか。ああ、言いたくないけど本当は淋しいんだな。変わらない月の光りが羨ましい。本当は今すぐに消えたいんだな。誰の記憶にも残らないように一瞬で。
東京に住む親友の子供が2歳になった。子供は苦手だが親友の子供は可愛い。なかなか会えないが可愛い。自分の子供ならもっと可愛いのだろうか?と考えて、むなしくなって笑った。いつのまにか回りは皆、家庭持ちだ。あたしだけ取り残された。母親と住み始めて約2ヶ月。自立していたから上手く行っていたのか同居はもはやドロ沼化している。帰る場所もないのにあたしは帰りたい、帰りたいともがいている。仕事見つかるかな?不安しかない。ここも早く出ていかなくてはならない。自分の家庭か、憧れるな、と今更ながら思う。自分のことばかり考えてなくて守るものを持ちたかった。帰る場所が欲しかった。手に入らないことばっか嘆いていないで必要とされたかった。あたしは這い上がれるだろうか?親に疎まれるのは悲しいから、ここを出ていけるだろうか?神様、どうかあたしに最後の救いを。1人で生きていける経済力をあたしに下さい。誰もいなくていい。望まないからどうか働けますように。小さな部屋を借りれますように。
もう嫌だ。もう何も考えたくない。全てにさようなら、したい。さようなら、おたけさん。さようなら、可愛いい夢。でも一番さようならしたいのはあたし自身になのだ。あたしが全て悪いからあたしは何より自分にさようなら、したい。いいなあ、あたしとさようなら、できる人。いいなあ、あたしを捨てれる人。あたしはあたしとさようなら、できない、こんなに面倒くさくてみっともないあたしとさようなら、できない。何より悲しいわ。あたしがあたしであること。夢も見れない。毎日のぼせたように暑くて頭痛がする。置き去りにされた感情とタトゥーだけが冷え冷えとしていてまた悲しい。でもあたしはあたしとさようなら、できない。なんとか仕事変えなくては。せめて誰にも迷惑かけず細々と生きて行くために。望みが、優しい終わりの迎え方、とかじゃなくただ、あたしとさようなら、したい。に変わっていく。情けない。
また震えて膝から崩れ落ちそうになる。かきむしった髪の毛は抜け落ち、自分で自分を醜くくしている。母親の視線が痛い。ごめんなさいの一言である。自分で選んだ道の過ちを知る。もっと若い内にちゃんと就職すれば良かったの?地獄の沙汰も金次第、と思いたくはないがお金は大切よね。いずれは母親の面倒もちゃんと見なければならない。今の職場に引っ越してまだ2ヶ月。甘かった。今の会社じゃ社員になれない。あああ、あたしは本当にうかつでいつも焦ってだめなんだ。ちゃんとしろ。人に頼るな、死ぬ気で仕事探せ。そしてあたしが思うほど、あたしの好きな人はあたしを好きじゃないのだから、そこは諦めなさい。無力な自分に愛想も尽きたが、なんとか這い上がるしかない。爪は全て剥がれて、まだ脱出法が分からないけど。