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ほめることで「信頼」「安心感」を作り「授業のしつけ」をする

2019年01月04日 | 教育
4月は激変のときである。環境が大きく変わる。特に自閉症の子ども達にとっては,
脅威となっている場合さえある。そのスタートを,できるだけ安定した状態で進めて
いくためにはほめることで「信頼」と「安心」を作ることが大切である。

1.一つ一つの行為をほめる。

特別支援学校小学部の新学年。何人か,どうしてもマンツーマン的につかなければ
ならない子を迎えに行く。子ども達が登校してくる。まず,「おはよう」とあいさつ
をする。そこでその子があいさつを返せば,「すごい。元気なあいさつができるね」
と笑顔でほめる。第一印象のつかみが大切である。

そして昇降口に行く。次に靴の着脱がどの程度できるかを見る。靴を脱ぐ,そろえ
て入れる,上履きを履く。「靴を下駄箱に入れるまではできるか」「靴をそろえよう
とするまではできるか」「上履きを左右間違えずはけるのか」その一つ一つを注意深
く見ながら,丁寧にほめていく。少しがんばればできそうなところは「もう少し揃え
られるかな」とたずね,そこでできれば力強く思い切りほめるのである。この時点か
ら子どもを一歩でも育てるかかわりが始まる。

 階段を上り,教室へついた。かばんの整理が始まる。机の場所やロッカーの位置を
教える。そして,自分の座席に座れば,「自分の場所がわかったね。すごい」とほめ
ロッカーにかばんを入れれば「そう,それでいいんだよ」と声をかける。

 新しい出会いでは,一つ一つの行為を見ながら丹念にほめ,成功体験に変え,積み
重ねていく。そのために評価と評定を意識し,「できたこと」をきちんと確認しなが
ら,ほめていくことで関係が作られていく。

2.やろうとする行為をほめる

中学部の新学年。特に環境の変化,学年の変化に弱い生徒を迎えた。スクールバス
で登校してくる。排泄の失敗をしていた。すぐにシャワー室に行く。きれいにおしり
を洗い,着替えを済ませた。次の日,また朝バスを降りると排泄の失敗をしている。

そのことが毎日続く。はじめは注意をする。叱る。しかし,いっこうになくならな
い。むしろ,叱れば叱るほど状況はますます悪くなっていった。「叱ることには意味
がないのではないか」と考え,今度は本人の乱れた行動を淡々と受け止め,一切気に
する表情を見せず,穏やかな口調で「靴下を履きなさい」「ズボンをはきなさい」と
指示を出した。わずかでもよい行動を取ろうとしたらほめた。そこから調子が戻り始
め,その後,一週間で落ち着きを取り戻した。

 ゴールデンウィーク明け,また崩れる。前回と同様に本人の乱れた行動を淡々と受
け止め,一切気にする表情を見せず,穏やかな口調で指示を出し,少しでもよい行動
をとろうとしたらほめた。やはり一週間で元に戻っていった。

 ここから得た教訓は,「叱ることは無駄である」ということである。この場合,叱
ればしかるほど,その子の不安感を掻き立て,安定した状態に戻れない。はじめから
その子に存在する不安を,叱ることによって2次的に増徴させていたに過ぎない。そ
の状況を打開するすべは,「ほめる」ことであった。ほめることだけがその子を変え
た。

3.安心感の原則

 ほめることが,4月に抱える不安定な気持ちを取り除いていく。以下のステップで
ある。

①一つ一つの行為をほめる
②心地よい感覚を伝える。
③心地よい感覚が安心感に変わる
④心の距離が近づく
⑤信頼と安心を生む。


 「叱る」ということが伝わるのは,遠城寺式・乳幼児分析的発達検査で9ヶ月程度
である。叱っている言葉の理解はできなくても,相手の怒っている感情は十分に読み
取ることができるということである。したがって,知的に重度であり,言葉もほとん
ど持たない場合であっても,怒っている感情,喜んでいる感情は十分に伝わる。その
行為は確実に相手にとって意味を成すのである。

4.3日間でほめること

 1日目は先にも述べたとおり,一つ一つの行為を丁寧にほめることである。まず,
第一歩として安心感を作り上げる。

 2日目は積極的な姿勢を認めるためにほめる。係活動決め当番決めがある。積極的
に意見を出す子,係を進んで行う子,そのような子をすかさずほめ,盛り立てていき
たい。その際,多少間違ったこと,ずれたことを言っていても,かまわず,その行為
を遠慮なくほめることである。みんなの前でほめることで積極的な姿勢がよいのだ,
ということをはっきりとまわりへも認識させたい。

 3日目は授業のしつけをするためにほめる。目標を決め,授業も始まる。一つ一つ
の授業の中での行為をほめていく。指されたときに「はい」と元気に返事ができるこ
と,発言するときの手をピンと上げていること,立ったときにきちんとイスを入れて
いることなど,はじめに徹底しておきたいことは多くある。それらをやらせてほめな
がら身につけさせていくのである。ここでもいくら叱っても身につかない。むしろ,
学級の空気を険悪なものにしていくばかりである。

 将来,社会に出て行く上で,どうしても必要となることがある。それは基本的な生
活習慣で身辺の自立に向けたこと,あいさつ,返事をしっかりすること,自分から進
んでできること,丁寧に取り組めることなどである。それらを学年最初の段階で逃さ
ず指導し,身につけていく。そのためには「ほめる」という行為が欠かせないのであ
る。
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