思う・学ぶ・発達支援 心のケア サイト

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ソーシャルスキルトレーニングの基礎基本

2019年01月05日 | 教育
表情のスキルを意識し学ばせる

 発達障害のある子ども達は,体験を共有し,共感することが苦手である。「人とか
かわることも技術が必要なのだ」と考え,スキル指導から始める。

1 表情を身につけるSSTの授業

① ウォーミングアップ

― 笑う・怒る・泣く表情の練習 ―
 
  

 最初は顔の表情だけを真似る。最も情報の少ない場面からはじめる。
 続いて,動作も加えて笑う・怒る・泣くを練習を行うのである。

② ペアで体験・無表情はだめ

 話す人と聞く人に分かれる。一人は今朝,起きてからしたことを話す。一人は視線
をそらし無表情で聞く。発表では,「相手が無表情だと話すのがつらい」という意見
が出る。「無表情ではいけないのだ」ということを学ぶ。

③ スキルを教える

 相手と気持ちよく会話するときのスキルを具体的な動きに変えて教える。
 
・相手の目(眉間)を見る。
・うなずく。
・ほほえむ。
  
 実際に一つ一つ練習する。「ほほえむ」に関しては,
1.目を細める2.口を横に開く3.力を少し抜く,という具合にスモールステップで表情
を作ってみる。

④ 話すときのスキルを見つける

 ペアになり,他にどんな話すためのスキルがあるか相談する。そして,発表する。
何人か指名して黒板に書き出す。書いて活字になることで,理解する子もいる。

⑤ 様々なスキルを使って話をする

 学んだことを基に,スキルを意識してペアで話をする。
 発達障害があり,表情を読み取ることが苦手な子や,コミュニケーションの動作が
身についていない子に「共感しなさい」と言っても,理解や動作にはつながらない。
まず,人とやりとりするときに形から入る。スキルを身につけることからはじめるの
である。

2 言葉を代弁してスキルを身につける

 巡回相談活動で向かった先に,偏食の多い子がいた。隣に座り,「これもおいしい
よ,食べてみる?」と誘うが,頑として食べない。家でのことや日常の話をし,少し
盛り上がってきたところで,「これおいしんだけど,ちょっとなめてみる?」と聞く
と,そっとなめた。

 まんざらでもないようである。「ちょっとかじってみたら?」と言うと口に入れ食
べ始めた。意外においしかったようだ。そこでスキルを入れるためにダメ押しの言葉
を伝えた。

「食べてみるとおいしいことがあるんだね」

 その後も食べ続けたので,2~3度その言葉を伝えた。その子はその後,おかわり
もした。食べたことがないものはどんな味がするか分からない。むやみに食べられな
い。何となく警戒している。その子は日常,こだわり,衝動性を見せる子だった。

 しかし,「たべてみるとおいしいことがある」このことを一つ学んでくれれば,味
覚の広がりが今後も期待できる。こちらが共感し,共感する言葉を伝えることで,学
ぶことができる。

3 気持ちのズレを修正する

 広汎性発達障害のある子である。ソーシャルスキル絵カード「お見舞いに来た友達
がくれた手紙を『こんなのいらない」と放り投げてしまった』一枚の絵。この絵を見
せたとき,いけないことは理解した。しかし「どこがいけない?」と聞くと,なんと
答えたと思われるだろうか。

 「紙をゴミ箱に捨てていない。」であった。
 その状況や気持ちがうまく理解できないのに,「共感」することは難しい。その場
合には,たとえば,「お見舞いにせっかく来てくれて渡した手紙をいらないといった
ら,みんながいやな気持ちになるんだよ。」「心配して会うために来てくれたのだか
ら『ありがとう』って言うとよかったね。」と教えるのである。

 このようにソーシャルスキルカードで,一つ一つその子の理解が難しい気持ちを教
えていくことが必要である。

4 協力することでほめる体験を積む

 突然走り出して危ない。友達のことをたたきながら歩く。やりたいことを止められ
るとパンチや引っ掻きが出る。感情のコントロールがうまくできず,叱られて反発す
るなど,マイナスのかかわりばかりしてしまう子がいた。しかし,物を運んだり,雑
巾をかけたりするなど,やることがはっきりしていると,がんばる姿が見られる子だ
った。掃除の時間に,その子のクラスをのぞいた。しぶしぶのようだが,机運んでい
る。「えらいな,よく机を運んでいるね。」あたりまえのことであっても,やってい
ればたいしたものだ,と受け止めてほめる。「すごいな」「力があるな」とほめてい
くとどんどん活動した。「一緒に運ぶと楽だよ」と教えると,笑顔で運んだ。協力す
るとほめられる。一緒にやるとほめられる。

 協力することでほめられる体験を積み重ね,スキルを高めて将来の自立につなげた
い。
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感覚統合を生かした支援アプローチ

2019年01月05日 | 教育
低学年の自閉症のA男。なかなかじっとしていることが難しく,すぐに走り出して
しまう。A男に「じっとしていなさい」といってぎゅっと押さえても,すぐにまた飛
び出す。その子はなぜ走り出してしまうのか。3つの感覚にカギがあると考えた。

1 3つの感覚

3つの感覚とは,感覚統合で基本とされる感覚で,五感ではとらえられない触覚・
固有覚・前庭覚である。そのうち前庭覚の刺激にアプローチした。前庭覚には行動を
コントロールする力がある。この感覚の未発達が衝動的な動きを絶えず起こしている
のではないか。

前庭覚を刺激するもっとも簡単な方法は「揺れ刺激」である。脳に揺れ刺激を与え
ると前庭覚を刺激し,感情をコントロールする,前頭葉の成長を図ることにもつなが
る。揺れ刺激を与える方法は「回転する」「ジャンプする」「前後に揺れる」「左右
に揺れる」などである。身近な遊具でトランポリン,回転いす,前後にスライドする
遊具などがある。

2 室内アプローチ

 プレイルームでトランポリンを行う。両手を持って,初めにやさしく跳ばせるが,
表情が変わらない。しかし,強く跳ばせると笑い始めた。そこが本人の心地よい揺れ
刺激ゾーンである。絶えず動く,走り出すというのはかなり運動しないと走ったとい
う刺激が脳に届いていないと見た。また,緊張の状態も強いと考えられる。今度は回
転の木製いすである。やはり強いある速度になると笑いだす。その後,手をつないで
歩くとかなり身体の緩みを感じた。

3 外でのアプローチ

 外へ行くとすぐに走り出す。しばらく一緒に走った後,前後にスライドして大きく
揺れる木の遊具に誘う。「ゴトンゴトン,ゴトンゴトン」と電車を走らせる音を声で
出しながら,初めは緩やかに,そして強く漕いで行った。ある速さで笑い始める。そ
こで2分ほど揺らすと,「おりる」というのでゆっくりと下す。もう一度一緒に走っ
た後,またスライドする木の遊具に乗せる。「ゴトンゴトン,ゴトンゴトン」。やは
り笑い始めて,2分ほどで「おりる」というので下す。その後は手をつないで少しゆ
っくり歩き,時間が来たので「もどろう」と誘うと素直に歩いてもどった。

4 考察

 室内,外の遊具とも強い揺れ刺激を2分程度行うことで,脳に十分動いたという感
覚が伝わったと考える。その後の緩やかな行動から,微量ながら発達が促されたと思
われる。前庭覚に働きかける適度な揺れ刺激を脳に送る。よく子どもを見ながら,か
かわり方,加減の仕方を見抜くのが教師の責任である。
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その子の本質的な問題を見抜いて対処する

2019年01月05日 | 教育
自閉症スペクトラムのA男。「何話してるの!」「僕の悪口を言うな!」とかっと
なり始める。80キロ近いA男はその興奮がなかなか収まらない。今にも飛びかかりそ
うな勢いである。そのときA男に,「大丈夫だよ。悪口なんか言ってないよ。」「気
にしない,気にしない。」と言ってその場だけの対処療法では解決が望めない。A男
の抱える本質的な問題を見つけ,対処していくことが必要である。

1 WISC-Ⅲで見える心の姿

言語性に注目した場合,単語の理解が極めて不足していた。それに比べると,類似
がやや高い。A男とはある程度会話が成り立つように感じるが,実際はあまり理解し
ていないことがうかがえる。類似の力があるため,言葉と言葉,また状況を関連付け
て,何とか会話を乗り切ってきたようにも思われる。そのため,相手の話しているこ
とを正しく理解できず,自分を中傷しているようにも感じて怒り出してしまうことが
あるのだ。

知的には高い。しかし,言葉の理解がままならない。自分の言いたいことがうまく
言えない。そのフラストレーションが,かんちがい思い込みとなって,相手への攻撃
的な行動へつながるのである。

2 二次障害の疑いを考える

知的には高いが言葉の理解がままならない。小さい頃から怒ると言葉ではうまく伝
えられず,ガラスを割る物を投げる,悪口で人にかかわるということが多くあった。
当然周囲からは叱られる。怒鳴られる。そのことが間違いなく心のひずみを生み,二
次障害を引き起こしているはずである。そして,悪循環となり,強度の思い込み,か
んちがい,パニックとなって現れる。小さいうちはそれで抑えられていただろう。し
かし,今は80キロである。その場の対処だけでは到底収まらない。抑えようとすれば
大人3人がかりである。A男の心を救う対処が必要となる。

3 A男の存在感を高める

① 必要以上に叱らない,追い詰めない
② よい行動を具体的にほめる
③ 視覚的に伝える
④ リーダーとしての役割を与える


 A男に,周りからその存在を認められ,自信を持ち,安心,安定した気持ちを作るこ
とが必要である。以下,その対応と結果である。

4 具体的な対応


【必要以上に叱らない,追い詰めない】

本児が問題行動に対して強く叱られ,その指導が重なる,もしくは長引いたとき,
パニックを引き起こす場面をよく見た。A男は心理検査からも分かるとおり,言葉の
指導は入りにくい。しかし,怒り,笑いなどの感覚には,きわめて過敏に反応する。
したがって,強く叱られ続けると,言葉は入らず,怒りの感情のみが増幅し,爆発す
るととらえた。

 叱るときにはできるだけ低刺激を意識し,冷静な口調で,「○○はやってはいけま
せん。×です。」といい,にらむ程度にして,その後は通常通り接した。教師が怒り
の感情を引きずっていると,間違いなくA男の怒りを誘発する。

【よい行動を具体的にほめる】

 A男は注意を受け続けてきている。よい自分のイメージも持てず,怒りの自分だけ
が定着しているため,簡単に怒り,パニックになるということを繰り返しているよう
に感じた。したがって,掃除でがんばるところ,荷物を運んでくれるところなど,具
体的に描写しながらほめた。自閉症の場合,ただほめるだけでなく,本人がほめられ
たとわかるようにほめることが重要だといわれる。A男は,ほめられ,よい自分にな
ることで,その後,宿泊学習へ行くこと,上の学年に上がることを大きな目標にして
いた。実際のよい行動と目標となる事実を具体的につなげるようにほめた。

【視覚的に伝える】

 A男がパニックに陥りそうになったとき,言葉で強く言ったり,説明したりしても
より混乱を招く。その際は視覚で伝えるのがよい。

 ある自習の時間のことである。本児は時間をもてあまし,いらいらし始め,怒り出
した。廊下から走り出ようとした。そこで,静かな口調で,黒板の所へ誘導した。そ
の黒板に,いまやることとして,

①・プリント学習をする 
②・ビーズをやる
③・ディズニーの本を見る
④・紙に落書きをする


を本人に聞きながら書き出し,どれからやるか順番をつけさせた。
すると,落ち着いて席につき①から順にやり始めた。頭が混乱してしまった場合,言
葉で説明しても混乱はさらに増してしまう。黒板や紙,ホワイトボード等を使って,
視覚で提示し,頭の中を整理するのがよい。

【リーダーとしての役割を与える】

 A男が落ち着いてきたので,宿泊学習に向け,リーダーとしての役割を与えた。集
まったら先頭に立つ,並ばせる,人数を数える,報告するなど,やることがはっきり
している。できればそのたびに,A男をほめることができる。

 A男のエネルギーがよい方向に動きだした。クラスのリーダーとしてがんばり始め
た。ゆとりが生まれたことで友達が話している様子を見ても,先生の話を聞いても,
急に怒り出すということはなくなった。A男のかんちがい思い込み,うまくいかないと
いうことによるパニックは激減した。互いの信頼が,良い空気を学級に作り,よりA男
の安定を作る。
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