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インクルーシブ教育の方向性と評価や 到達度基準との関係

2019年01月08日 | 教育
 インクルーシブ教育。端的にいえば,普通学級の子ども達の中に障害のある子ども
達が入って一緒に学ぶ教育である。1994年のサラマンカ宣言に端を発しているが,各
国によりそのとらえ方,年代,運用は大きく違っている。特別な学校,学級を全面否
定するフル・インクルージョンの立場と教育的ニーズに応じて多様に認められるイン
クルージョンの立場に分かれて進んだ経緯もある。発展途上国と経済発展国でも意味
合いが大きく違う。

 日本では内閣が本部となり,法整備に向けた会議が,インクル―シブ教育をテーマ
に進められている。この教育の問題と評価や到達度基準とのかかわりについて述べた
い。

1 障がい者制度改革推進会議

 平成22年度の1月に第1回が行われ,38回を数えた障がい者制度改革推進会議。総理
大臣他,国務大臣が本部となり,その下で実務的な話し合いをする会議である。極め
て実行力が高い。法整備に向けて具体的な方向性が検討されているが,11項目の検討
課題の中に,「教育」の分野がある。その内容は「インクルーシブ教育」である。「
障害のある子どもが障害のない子どもと共に教育を受ける」と記されている。

 これは何を意味するのか。すなわち,極端な方向へ進めば,通常学級にすべての障
害のある子を受け入れるということである。その場合,特別支援学級,特別支援学校
は希望制となる。しかし,日本の制度,現状としてそこまでは至っていない。

2 インクルージョンの流れ

 差別のない社会と言う旗印のもと,すべての子ども達が同じ場で学ぶ。特別支援学
校や特別支援学級に措置すること自体がすでに差別なのだという考え方である。併せ
て障害者差別禁止法も検討されている。国際的な流れはインクルージョンであり,発
達障害を特別視せず,みな同じ発達線上に存在するのだ,という考えは理解できる。
しかし,どの子も発達に応じて適切に教育を受ける権利はどうなるのか。果たして保
障されるのか。

3 特別な評価や到達度基準の必要性

 ここで検討がなされなければならないものは,評価や到達度基準である。現在は,
以前行われていた相対評価から,個々の目標に準拠した評価が行われる。個々に応じ
て目指す学力に即した目標を評価基準として,子ども達はその目標に到達したのか,
しなかったのか,その結果に合わせて教師が教育活動に対して反省をし,改善をする
ことで子ども達の学力を保障する。すべての子ども達に,目標として設定された基礎
・基本の力を保障すると同時に,個々の能力に応じた達成目標の設定と評価を行うこ
とになる。

 インクルーシブ教育が推進されることによって学級の中にはより多様な学力,発達
段階の子ども達が存在することになり,個々の能力に応じた達成目標と評価は,より
幅広く,細部に渡って行われなければならないのは必至である。「発達段階に即した
指導」が強く通常学級の中で意識されなければならない。

4 アセスメントツールの導入


 IQが35付近,もしくはそれを下回る児童が在籍する場合,これまでの既存の学力
検査,テストといったものだけでは評価や到達度基準を設定することができない。そ
こでは,別なアセスメントツールを用いる必要がある。

 例えば,「太田ステージ」(太田昌孝氏編)である。これは認知発達治療法と呼ば
れ,特に自閉症の子ども達のために広く活用されている(自閉症に限らず,多くの発
達障害の子にも適用できる)。このよさは,WISC-ⅢやK-ABCといった一般
に標準化され,実施に時間のかかる検査と違い,6枚のイラスト等を使い,すぐにそ
の場で評価ができる。そこでステージⅠ~Ⅴまでの段階が評価され,そのステージご
とに必要な認知の力,教材等が書籍で示されている。学級の中の言葉のほとんど発せ
られない認知の能力の子数名はこの評価により,指導につなぐのである。

5 二層の評価・到達度基準の運用


 これまでの評価・到達度基準に合わせ,上記のような知的に重度な子に対応した評
価・到達度基準を運用する。二層の評価・到達度基準の運用がどの子にも成長を保障
するために必要であると考える。

6 さらに多様な評価・個別の指導計画活用

 学級に,発達段階的に幅広く多様な子ども達が存在する場合,もはや一律な評価・
到達度基準では難しい状況が予想される。どの子も教育的ニーズに合わせて指導し,
成長を保障するなら,個別の指導計画を一人一人に用意し評価を加え,その評価の段
階で到達度基準を盛り込むということが必要ともなってくる。二層以上にさらに細か
い設定となる。

7 すべての子ども達の成長を保障する

 30人近い子ども達を同時に指導するとき,視覚的短期記憶の弱い子,聴覚的な短期
記憶の弱い子,発達障害のある子等が学級の10%程度いるのだと考え,環境を構造化
する,一時一事の指示を心がけるといった,特別支援教育に基く学級指導は絶対条件
である。しかし,それは境界知能から軽度の遅滞の子までが可能である。IQが35を
下回る重度の知的な遅れのある子にとっては,その環境は耐えがたい苦痛となる。支
援員がついても意味を成さない。認知の働きかけに応じた特別な教育が必要なのであ
る。

 インクルーシブ教育が今後も進むなら,その枠組みの中で,どの子にも持てる能
力に見合った成長,自立を保障しなければならない。その一つは評価・到達度基準の
工夫をすることである。
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