(間違えてバッタの脱け殻に噛みついたオオヤマアリ)

【書評など】
1)エフロブ「買いたい新書」の書評No.270に笠井潔・白井聡「日本劣化論」(ちくま新書)を取りあげました。
<今年は「戦後70年」にあたる。1945年を起点として,70年を逆に延ばすと1875(明治8)年になる。明治8年以後,西南戦争(明治10),日清戦争(明治27),日露戦争(明治37),第一次大戦に参戦(大正3=1914),満州事変(昭和6=1931),太平洋戦争(昭和16)と,日本はほぼ10年に一度戦争を起こし,8月15日を迎えた。以後は70年間,戦争がなくひとりの戦死者も出ないという対照的な状況が続いてきた。
戦前が「正常」なら,戦後は「異常」である。
白井聡(1948生れ)は『永続敗戦論』(太田出版)で敗戦を「終戦」と言い換えたところに,「戦後レジームのまやかし」があると主張した。
「国家民営化論」で知られる,団塊の世代の笠井潔(1977年生れ)は『8・15と3・11』(NHK出版新書)で,「戦後体制が必然的に生み出したものとして,福島第一原発の悲劇がある」と主張した。本書は笠井と白井による対談本だ。>
(以下はこちらで)
http://www.frob.co.jp/kaitaishinsho/book_review.php?id=1431934281
2)「ヘルスプレス」5/13号に、「医薬経済」誌の記事を紹介した「海外人体解剖ツアー」についての拙論評が掲載された。
http://healthpress.jp/2015/05/post-1769.html
歴史的には中世から近世への移行期に、イタリア都市が人体解剖の自由を認め、むしろこれを町おこしの手段にして、パドゥア、ナポリ、ミラノなどがお互いに競って、罪人の死体解剖を有料で見せた。医学校ができて、ヨーロッパ各国から解剖を勉強するために学生がやってきたので、町は賑わった。
これが「イタリア・ルネサンス」の始まりで、やがてここから北のヨーロッパ全土・英国に波及した。
ドイツの大学町ハイデルベルグでは、「下宿屋が100軒になった」と市民が祝賀会をしたという記録がある。ハインリッヒ・マンの名作『アルト・ハイデルベルグ』に出てくる、学生たちの居酒屋「赤い雄牛(ローテオクセン)」という店は今も残っていて、娘と3人で夕食をした想い出がある。
19世紀初めの英国では、解剖用死体が不足して、墓を盗掘して得た死体を、医者は墓泥棒から買っていた。老人用木賃宿(先日、大阪の火事で生活保護の老人が焼死した宿泊所のようなもの)で、死体売却を目的とした連続殺人事件が起こり、これを契機として医学教育・研究用の死体取り扱いに関する法整備が行われた。
「死体解剖保存法」も、問題が起こる前に、見直す必要があるかもしれない。
3)献本お礼=
広島ペンクラブの例会で、上田由美子さんからエッセー集「柘榴」(No.7)の献本を受けた。お礼申し上げます。
「柘榴の会」というサークルの機関誌で、メンバーはほとんど女性だ。中に「広島土砂災害」と題する昨年8月の広島土砂災害の体験記があった。幸い、すぐ近くまで泥水があふれた程度で、直接的な被害はほとんどなかったようだが、付近の状態が記録されていて、貴重だと思った。記憶はすぐ薄れるし、時間が立つと「変容」するので、早い時期の記録が重要だ。
例の舟入高校の被爆生徒慰霊碑にあるE=mc2の式に触れた随筆は、著者が掲載を辞退されたそうだ。少し気がとがめる…。
4)訂正など=
なりすまし?:「K」という人から、「パソコンが壊れてメルマガが受信できなくなった。新にここに送ってほしい」というメールが来た。一度しか逢ったことがない人なのに、メールに姓しか書いてなく、メルマガの感想も近況も書いてない。
それに、こちらの送信記録では一度も「配信不能」になっていない。「なりすまし?」と思ったので、思い切って元のメルアドまで削除した。もし事実なら、当の本人から同じようなメールが来るだろう。
5/22「産経WEST」論説「西論」(「正論」ではない)に見られる「世界的権威に重大疑惑…移植医療には一点の曇りも許されない」のように、
http://www.sankei.com/west/news/150522/wst1505220007-n1.html
4/27「鹿鳴荘便り」の「終りの始まり」で述べた意見に共鳴する論説も現れるようになった。
全国紙の科学部あたりからも、「ネットで見た」と問い合わせの電話がある。
メルマガ本体は、「武田ブログ」で公開されているから、誰でも読めるが、掲載時期にはズレがある。配信希望の人は、自己紹介をして私に直接申し込んで欲しい。
このメルマガは前にも書いたように、「お布施」は歓迎するが、課金制ではない。ただし得体の知れない人には送れない。
訂正:ウラン質量がエネルギーの転換する時の計算について、誤りがあった。京都府の豊田先生(もと大学物理教授)からご指摘頂いたので、転載する。
<今回の先生の記述で,次の点には計算間違いがあるように思います。2乗されて
おりません。
*************************************
仮に1Kgのウラニウムが完全にエネルギーに転化するとすれば、E=1X
30万X1000=3億(ジュール/秒)の熱量に相当する。これはワットに換算すると、30
万キロワット/秒になる。
*************************************
広島の原爆は60kgのU235が連鎖反応をおこし,850gがエネルギーに変わったとい
われています。これを1kgとして,この質量がエネルギーに変わる時の計算は次
のようになります。
1kg×((3×(10の8乗))の2乗)(単位 J ジュール)=9×(10の16乗)J
1kWh=1000 J/s×60s×60m=3.6×(10の6乗)Jですので,上の値は
2.5×(10の10乗)kWhとなります。25TWhとなります。>
確かに2乗するのを忘れていました。「30万kW」という数値を見た時「ずいぶん小さいな」(小型原発の出力)と思ったのですが、単位が「ジュール/秒」なのでついそんなものか…と検算しませんでした。訂正してお詫びいたします。
ついで「大学で物理学を専攻した」という、今は情報処理をやっている方から、「mass-energy equation(質量エネルギー方程式)」という名称は存在しないというメールが来た。「ない」と言われてもコリンズの「Dictionary of Science」(2003版)に載っているのだから仕方がない。
説明は<Denoting the equivalence of mass and energy, following his special theory of relativity. In SI units, E is the energy in joules, m is the mass in kilograms and c, the speed of light in a vacuum, in metres per second. Etc.>となっている。
今気づいたが、メートルのスペルが米綴りでなく英綴りになっている。コリンズ社は英国の出版社だと気づいた次第だ。
この人は、「特殊相対性理論」、「一般相対性理論」という呼称の廃止にも反対だそうだ。
昔、岩波の「世界」にある学者が大学教授会を批判する論文を寄せ、教授会を「特殊」だと書いたことがある。これに猛反撥した解放同盟の「糾弾」を受け、岩波が雑誌回収に追いこまれるという事件があった。Spezielleを「特殊」と訳すと、そういう微妙な問題もあるのだ、という歴史をおそらくご存じないのであろう。
こういう方にうかつに返事するとエンドレスな応酬になることがあるので、ご返事に代える。
余談だが大正の中頃から昭和19年まで「相対会」という民間有志による性研究会があった。今の性科学ではなく、主に男女の性愛を研究する会だった。「相対」という会報を出している。
会員には芥川龍之介、医学史研究家の富士川游もいた。
当時はこういう問題への警察の弾圧がつよく、知名度の高い「相対性理論」をちゃっかり利用してカムフラージュしたのかもしれない。主宰者の小倉清三郎は出版法違反で起訴されてもいる。妻のミチヨは旧姓坂本、愛媛県西宇和郡川之石村の出身で、父親は愛媛初の銀行の創立メンバーだという。
「相対」はもと「あいたい」と読み、花柳界の用語であった。そこで「相対性理論」を「あいたいせい理論」と読み、男女の秘技のことと世間には誤解する向きもあった。(医史学を研究された産婦人科の故江川先生から雑誌コピーを頂いているが、研究活動は先駆的なSexology研究である。)ミチヨの手記は下川耿史編『小倉ミチヨ:相対会研究報告』(ちくま文庫)にまとめられている。

【書評など】
1)エフロブ「買いたい新書」の書評No.270に笠井潔・白井聡「日本劣化論」(ちくま新書)を取りあげました。
<今年は「戦後70年」にあたる。1945年を起点として,70年を逆に延ばすと1875(明治8)年になる。明治8年以後,西南戦争(明治10),日清戦争(明治27),日露戦争(明治37),第一次大戦に参戦(大正3=1914),満州事変(昭和6=1931),太平洋戦争(昭和16)と,日本はほぼ10年に一度戦争を起こし,8月15日を迎えた。以後は70年間,戦争がなくひとりの戦死者も出ないという対照的な状況が続いてきた。
戦前が「正常」なら,戦後は「異常」である。
白井聡(1948生れ)は『永続敗戦論』(太田出版)で敗戦を「終戦」と言い換えたところに,「戦後レジームのまやかし」があると主張した。
「国家民営化論」で知られる,団塊の世代の笠井潔(1977年生れ)は『8・15と3・11』(NHK出版新書)で,「戦後体制が必然的に生み出したものとして,福島第一原発の悲劇がある」と主張した。本書は笠井と白井による対談本だ。>
(以下はこちらで)
http://www.frob.co.jp/kaitaishinsho/book_review.php?id=1431934281
2)「ヘルスプレス」5/13号に、「医薬経済」誌の記事を紹介した「海外人体解剖ツアー」についての拙論評が掲載された。
http://healthpress.jp/2015/05/post-1769.html
歴史的には中世から近世への移行期に、イタリア都市が人体解剖の自由を認め、むしろこれを町おこしの手段にして、パドゥア、ナポリ、ミラノなどがお互いに競って、罪人の死体解剖を有料で見せた。医学校ができて、ヨーロッパ各国から解剖を勉強するために学生がやってきたので、町は賑わった。
これが「イタリア・ルネサンス」の始まりで、やがてここから北のヨーロッパ全土・英国に波及した。
ドイツの大学町ハイデルベルグでは、「下宿屋が100軒になった」と市民が祝賀会をしたという記録がある。ハインリッヒ・マンの名作『アルト・ハイデルベルグ』に出てくる、学生たちの居酒屋「赤い雄牛(ローテオクセン)」という店は今も残っていて、娘と3人で夕食をした想い出がある。
19世紀初めの英国では、解剖用死体が不足して、墓を盗掘して得た死体を、医者は墓泥棒から買っていた。老人用木賃宿(先日、大阪の火事で生活保護の老人が焼死した宿泊所のようなもの)で、死体売却を目的とした連続殺人事件が起こり、これを契機として医学教育・研究用の死体取り扱いに関する法整備が行われた。
「死体解剖保存法」も、問題が起こる前に、見直す必要があるかもしれない。
3)献本お礼=
広島ペンクラブの例会で、上田由美子さんからエッセー集「柘榴」(No.7)の献本を受けた。お礼申し上げます。
「柘榴の会」というサークルの機関誌で、メンバーはほとんど女性だ。中に「広島土砂災害」と題する昨年8月の広島土砂災害の体験記があった。幸い、すぐ近くまで泥水があふれた程度で、直接的な被害はほとんどなかったようだが、付近の状態が記録されていて、貴重だと思った。記憶はすぐ薄れるし、時間が立つと「変容」するので、早い時期の記録が重要だ。
例の舟入高校の被爆生徒慰霊碑にあるE=mc2の式に触れた随筆は、著者が掲載を辞退されたそうだ。少し気がとがめる…。
4)訂正など=
なりすまし?:「K」という人から、「パソコンが壊れてメルマガが受信できなくなった。新にここに送ってほしい」というメールが来た。一度しか逢ったことがない人なのに、メールに姓しか書いてなく、メルマガの感想も近況も書いてない。
それに、こちらの送信記録では一度も「配信不能」になっていない。「なりすまし?」と思ったので、思い切って元のメルアドまで削除した。もし事実なら、当の本人から同じようなメールが来るだろう。
5/22「産経WEST」論説「西論」(「正論」ではない)に見られる「世界的権威に重大疑惑…移植医療には一点の曇りも許されない」のように、
http://www.sankei.com/west/news/150522/wst1505220007-n1.html
4/27「鹿鳴荘便り」の「終りの始まり」で述べた意見に共鳴する論説も現れるようになった。
全国紙の科学部あたりからも、「ネットで見た」と問い合わせの電話がある。
メルマガ本体は、「武田ブログ」で公開されているから、誰でも読めるが、掲載時期にはズレがある。配信希望の人は、自己紹介をして私に直接申し込んで欲しい。
このメルマガは前にも書いたように、「お布施」は歓迎するが、課金制ではない。ただし得体の知れない人には送れない。
訂正:ウラン質量がエネルギーの転換する時の計算について、誤りがあった。京都府の豊田先生(もと大学物理教授)からご指摘頂いたので、転載する。
<今回の先生の記述で,次の点には計算間違いがあるように思います。2乗されて
おりません。
*************************************
仮に1Kgのウラニウムが完全にエネルギーに転化するとすれば、E=1X
30万X1000=3億(ジュール/秒)の熱量に相当する。これはワットに換算すると、30
万キロワット/秒になる。
*************************************
広島の原爆は60kgのU235が連鎖反応をおこし,850gがエネルギーに変わったとい
われています。これを1kgとして,この質量がエネルギーに変わる時の計算は次
のようになります。
1kg×((3×(10の8乗))の2乗)(単位 J ジュール)=9×(10の16乗)J
1kWh=1000 J/s×60s×60m=3.6×(10の6乗)Jですので,上の値は
2.5×(10の10乗)kWhとなります。25TWhとなります。>
確かに2乗するのを忘れていました。「30万kW」という数値を見た時「ずいぶん小さいな」(小型原発の出力)と思ったのですが、単位が「ジュール/秒」なのでついそんなものか…と検算しませんでした。訂正してお詫びいたします。
ついで「大学で物理学を専攻した」という、今は情報処理をやっている方から、「mass-energy equation(質量エネルギー方程式)」という名称は存在しないというメールが来た。「ない」と言われてもコリンズの「Dictionary of Science」(2003版)に載っているのだから仕方がない。
説明は<Denoting the equivalence of mass and energy, following his special theory of relativity. In SI units, E is the energy in joules, m is the mass in kilograms and c, the speed of light in a vacuum, in metres per second. Etc.>となっている。
今気づいたが、メートルのスペルが米綴りでなく英綴りになっている。コリンズ社は英国の出版社だと気づいた次第だ。
この人は、「特殊相対性理論」、「一般相対性理論」という呼称の廃止にも反対だそうだ。
昔、岩波の「世界」にある学者が大学教授会を批判する論文を寄せ、教授会を「特殊」だと書いたことがある。これに猛反撥した解放同盟の「糾弾」を受け、岩波が雑誌回収に追いこまれるという事件があった。Spezielleを「特殊」と訳すと、そういう微妙な問題もあるのだ、という歴史をおそらくご存じないのであろう。
こういう方にうかつに返事するとエンドレスな応酬になることがあるので、ご返事に代える。
余談だが大正の中頃から昭和19年まで「相対会」という民間有志による性研究会があった。今の性科学ではなく、主に男女の性愛を研究する会だった。「相対」という会報を出している。
会員には芥川龍之介、医学史研究家の富士川游もいた。
当時はこういう問題への警察の弾圧がつよく、知名度の高い「相対性理論」をちゃっかり利用してカムフラージュしたのかもしれない。主宰者の小倉清三郎は出版法違反で起訴されてもいる。妻のミチヨは旧姓坂本、愛媛県西宇和郡川之石村の出身で、父親は愛媛初の銀行の創立メンバーだという。
「相対」はもと「あいたい」と読み、花柳界の用語であった。そこで「相対性理論」を「あいたいせい理論」と読み、男女の秘技のことと世間には誤解する向きもあった。(医史学を研究された産婦人科の故江川先生から雑誌コピーを頂いているが、研究活動は先駆的なSexology研究である。)ミチヨの手記は下川耿史編『小倉ミチヨ:相対会研究報告』(ちくま文庫)にまとめられている。
でググると、英語wikiのmass–energy equivalenceを筆頭に、equivalence of mass and energy、mass-energy relation・・・と続きます(私の検索設定では)
http://en.wikipedia.org/wiki/Mass%E2%80%93energy_equivalence
では、mass-energy equation という語句は出てきません
「"mass-energy equation"」で3番目にようやく下記のサイトがヒットします(私の以下略
http://www.nrc.gov/reading-rm/basic-ref/glossary/mass-energy-equation.html
正式な用語ではなく、「いわゆるmass-energy equation」(正しくはないけどね)、という感じなのかもしれません