ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【やらせ?】難波先生より

2015-05-12 15:10:12 | 難波紘二先生
【やらせ?】
 5/5「産経」に「小島新一」という署名入りで、「出色の朝日新聞論」と題して、元朝日記者で『ブンヤ暮らし三十六年、回想の朝日新聞』(草思社)を書いた永栄潔の、「正論」(産経新聞社)6月号掲載、インタビュー記事の内容を絶賛した紹介評論が載っていた。
 朝日の「偏向」の内幕暴露ものなのだが、なぜか「後藤田正晴の意外な経歴も明らかにされている」という一文にひっかかりを覚えた。
  日を置かず、5/6「産経」に「戦後70年、安保改訂の真実3」という大型の企画記事(無署名)が1, 3面に掲載された。そこに1957年頃、当時ソ連KGBの日本駐在員(約30名)の尾行を続けていた警視庁外事課の佐々淳行の証言が載っている。彼の部下が都内の神社でKGB要員が「シベリア抑留歴のある元陸軍将校と接触するのを確認した。元将校は後に大企業のトップに上り詰め、強い影響力を有するようになった」というのである。
 これに該当する元将校は、私の知識では、伊藤忠の瀬島隆三元陸軍参謀しかいない。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%80%AC%E5%B3%B6%E9%BE%8D%E4%B8%89#.E3.82.BD.E9.80.A3.E5.B7.A5.E4.BD.9C.E5.93.A1.E7.96.91.E6.83.91
山崎豊子『不毛地帯』の主人公「壱岐正元帝国陸軍中佐」のモデルとする考え方もある。

 うかつにも私は、5/5記事の「インタビューでは多岐にわたる内容すべてを語ってもらうことはできなかったが、」という部分を読み飛ばしていて、この記事の筆者が企画記事の筆者、論説委員(だと思う)と同一人物だと思いこんでしまった。この前、本屋に寄った時「正論」6月号はまだ入荷していなくて買いもらしたので、他の買物もあり、西高屋のSCにさっそく出かけた。
 本屋で、
 ヨナス・ヨナソン:『窓から逃げた100歳老人』(西村書店, 2014/7)
 清武英利:『しんがり:山一証券、最後の12人』(講談社, 2013/11)
 大塚邦明:『時間医学』(ミシマ社, 2007)
 と「正論」6月号を買い、公園のテーブルに就いて、問題の記事、永栄潔「OBが明かす朝日新聞ウラ・オモテ」というインタビュー記事を読んだ。

 なんとこのインタビュアーが上記の小島新一で、「正論」編集長だった。
 小島は「私が(永栄本で)注目したのは瀬島隆三さんです。弊誌で(かつて)佐々淳行(初代内閣安全保障室長)さんが、瀬島さんを<ソ連の協力者=誓約引き揚げ者>と断じました>と水を向けたのに、永栄は肯定も否定もせず、「後藤田がいつも瀬島をかばう立場に立っていた。後藤田は戦後、内務省職員組合の委員長をしていた。それがよく警察庁長官になったと思う」と淡々と事実関係の指摘に留まっている。
 後藤田に「産経よりも右だよ」と揶揄されながら、定年まで朝日に留まり得たのも、自然科学者のような態度で、あるがままの事実を報じるというブンヤ精神に徹した、永栄の生き方のおかげであろう。

 それで小島新一は、産経記事では自分の「瀬島スパイ説」は述べず、巧妙な手法で読者が「正論」6月号に注目するように、文を書いていたのだな、と得心が行った。
 「後藤田正晴の意外な一面」というのは、永栄が元KGB中佐のインタビューでモスクワに行った時に、その中佐から「旧KGBの日本関係資料を1億円で買わないか」という話を持ちかけられ、政治部記者の紹介で後藤田内閣官房長官に話を持って行ったら、言下に「そんなものはいらない。朝日で買え」と言われたという一件を指している。
 つまり、後藤田にも「対ソ協力者として宣誓書を書き、早期帰国後、政財界の要所にもぐり込んだ旧軍人や官僚に関するKGB資料」が日本に持ち込まれ、公開されると困る事情がいろいろとあったのでは…、と小島らは推測しているのだ。
 だが、5/6「産経」企画記事には、「誓約引き揚げ者は社会党や労組などに相当数が浸透していた」という佐々淳行のコメントを引いているものの、瀬島隆三や後藤田正晴の名前は出て来ない。

 朝日の本田勝一らによる企画報道も禍根を残したが、無署名の企画記事で、こういう「陰謀史観」を書かれると困るなあ。陰謀史観は結果から原因を説明するもので、歴史を一見もっとも単純明快に説明できる。だが実際の歴史は複雑系の一つのプロセスで、結果をもたらすのは「多変量」である。
 陰謀史観の流行は右傾化だけでなく、ものの見方の単純化とひいては信奉者の思考の劣化をもたらすのが、歴史が教える教訓だろう。「産経」記事は「やらせ」の一種で、これではNHKを批判する資格はないだろう。

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