【LNT仮説】大阪のT先生から、低線量被爆の問題についてお尋ねをいただいた。
<原発の事故に絡んで,被曝量と癌の発生率との関係でのLNT理論(閾値なしの直線関係)について,先生はどのようにお考えですか。
特に低線量被曝についての専門家からの話が全く聞こえて来ず,皆さん勝手なことを書いたり述べたり,大きな社会的混乱のもとになっているように思えます。
原爆の開発から広島と長崎での原爆の投下以来,こうした問題には多くの研究の蓄積があって,専門家はなんらかの見解を出される責任があるように思えるのですが,先生はどのようにお考えですか。
何かの機会に書かれたものがありましたら,お送り頂けたら幸いです。>
まず私は「放射線影響研究所」の学術顧問をしていますが、それは専門の「血液病理学」の知識をかわれてのことであり、私自身は放射線の研究をしたことがありません。従って放射線学について書いた論文、科学随筆などはありません。
次ぎに、放射線の生物体への影響の原理について述べます。
空港で手荷物のX線検査があります。あれは中に入れたペットボトルのお茶をふくめ、非生命体には何の影響も与えません。
核兵器に「中性子爆弾」があります。これは「もっとも資本主義的爆弾」といわれ、戦車や都市などはまったく破壊せず、生きものだけを殺します。無人の敵都市を占領したら、すぐに活用できるわけです。つまり放射線は、細菌を含め生物だけに害があるのです。
「LNT(Linear Non-Threshold)仮説」とは、放射線の害作用が、生物に対して「閾値なしの直線的量的比例」関係をなすというものです。
私はこの説は微視(ミクロ)的にはその通りだと考えます。
なぜかというと、放射線(実体は高エネルギー微粒子)の作用は、その電離作用にありますが、これは水分子をヒットした場合に、-OH(水酸基)を生じ、これが他の分子に結合することで有害作用を生じるからです。
静止期の細胞核内にあるDNAは二重鎖でかつヒストンというタンパク質で保護されていますが、DNA合成期や分裂期においては、非常に不安定で容易に複製ミスを生じます。突然変異は常時注いでいる宇宙線によるもので、これがなければ生物の進化は起こりません。
だから放射線はシングル・ヒットでも、突然変異を生じさせることができます。これが私がLNT仮説を認める理由です。
しかし経験的事実として以下のことは確かです。
1)ラジウム、ラドンなどの天然放射線を出す温泉は古くから利用されており、その地域の住民に健康被害は出ていない。
2)広島・長崎の被曝者の「吸収線量」に基づき、LNT仮説で予測した死亡率曲線と実測死亡率曲線を比較すると、解離があり、白血病、白血病以外ともに、非被爆者に比べて、ある線量までは死亡率の上昇が認められない。つまりLNT仮説に現実が一致しない。
このことは、きわめて低線量の被曝があった場合に、体内でそれを修復する機構が作動していることを意味していると思われます。
その機構にはいくつかあり、
1)損傷したDNAを修復する酵素が働く。(損傷した枕木の取り替え作業のようなもの)
2)致命的損傷を負った細胞を自殺させる機構が働き、健康な細胞だけが生き残る。
3)細胞のがん化が起こるが、ごく初期の段階で免疫作用により取り除かれる。
などが考えられています。
11/9(金)の「中国」に共同通信配信の「チェルノブイリ作業員に低線量被爆で、白血病リスク」という記事が載っていますが、11万人を20年間追跡して137人に発生。うち79人は慢性リンパ性白血病。全例、原発から30キロ以内で作業というものです。被曝線量は積算で200mSv未満です。(8割が100mSv未満)
このデータをどう解釈するかですが、まず人口10万人当たり普通でも年に10人程度の白血病が発生しますから、20年間に220人は出ても不思議でありません。うち19人が「被曝の影響で発症」と結論したのですから、19/137=13.9%ということになります。年率、人口10万人当たり年間0.86人です。
この程度の数値なら、草津温泉でも道後温泉でも、発生していても検知されません。つまり誤差範囲ということです。
「放射線の影響がないとはいえない」というのが、チェルノブイリ作業員についての正しい科学的言明でしょう。
発表された雑誌が報じてありませんので詳細な検討ができませんが、さし当たりこのように考えます。
ただ「累計被曝線量100mSv、半径30Km以内はレッド・ゾーンとする」という基準を設けることには、予防的見地から賛成です。とくに後者をはっきりさせれば、がれき処理地の確保もできるはずです。日本中に汚染を広めることには反対します。
福島原発の処理については、
< 福島第1原発では今年9月末までに、積算100ミリシーベルトを超えた作業員が167人、50~100ミリシーベルトは941人に上った。原子炉建屋内など線量の高いエリアはまだ手つかずで、廃炉作業が進むにつれて作業員の健康リスクはさらに高まる。>
と共同が報じており、「放射線防御耐火レンガ」の必要性がこれから高くなると思います。
<原発の事故に絡んで,被曝量と癌の発生率との関係でのLNT理論(閾値なしの直線関係)について,先生はどのようにお考えですか。
特に低線量被曝についての専門家からの話が全く聞こえて来ず,皆さん勝手なことを書いたり述べたり,大きな社会的混乱のもとになっているように思えます。
原爆の開発から広島と長崎での原爆の投下以来,こうした問題には多くの研究の蓄積があって,専門家はなんらかの見解を出される責任があるように思えるのですが,先生はどのようにお考えですか。
何かの機会に書かれたものがありましたら,お送り頂けたら幸いです。>
まず私は「放射線影響研究所」の学術顧問をしていますが、それは専門の「血液病理学」の知識をかわれてのことであり、私自身は放射線の研究をしたことがありません。従って放射線学について書いた論文、科学随筆などはありません。
次ぎに、放射線の生物体への影響の原理について述べます。
空港で手荷物のX線検査があります。あれは中に入れたペットボトルのお茶をふくめ、非生命体には何の影響も与えません。
核兵器に「中性子爆弾」があります。これは「もっとも資本主義的爆弾」といわれ、戦車や都市などはまったく破壊せず、生きものだけを殺します。無人の敵都市を占領したら、すぐに活用できるわけです。つまり放射線は、細菌を含め生物だけに害があるのです。
「LNT(Linear Non-Threshold)仮説」とは、放射線の害作用が、生物に対して「閾値なしの直線的量的比例」関係をなすというものです。
私はこの説は微視(ミクロ)的にはその通りだと考えます。
なぜかというと、放射線(実体は高エネルギー微粒子)の作用は、その電離作用にありますが、これは水分子をヒットした場合に、-OH(水酸基)を生じ、これが他の分子に結合することで有害作用を生じるからです。
静止期の細胞核内にあるDNAは二重鎖でかつヒストンというタンパク質で保護されていますが、DNA合成期や分裂期においては、非常に不安定で容易に複製ミスを生じます。突然変異は常時注いでいる宇宙線によるもので、これがなければ生物の進化は起こりません。
だから放射線はシングル・ヒットでも、突然変異を生じさせることができます。これが私がLNT仮説を認める理由です。
しかし経験的事実として以下のことは確かです。
1)ラジウム、ラドンなどの天然放射線を出す温泉は古くから利用されており、その地域の住民に健康被害は出ていない。
2)広島・長崎の被曝者の「吸収線量」に基づき、LNT仮説で予測した死亡率曲線と実測死亡率曲線を比較すると、解離があり、白血病、白血病以外ともに、非被爆者に比べて、ある線量までは死亡率の上昇が認められない。つまりLNT仮説に現実が一致しない。
このことは、きわめて低線量の被曝があった場合に、体内でそれを修復する機構が作動していることを意味していると思われます。
その機構にはいくつかあり、
1)損傷したDNAを修復する酵素が働く。(損傷した枕木の取り替え作業のようなもの)
2)致命的損傷を負った細胞を自殺させる機構が働き、健康な細胞だけが生き残る。
3)細胞のがん化が起こるが、ごく初期の段階で免疫作用により取り除かれる。
などが考えられています。
11/9(金)の「中国」に共同通信配信の「チェルノブイリ作業員に低線量被爆で、白血病リスク」という記事が載っていますが、11万人を20年間追跡して137人に発生。うち79人は慢性リンパ性白血病。全例、原発から30キロ以内で作業というものです。被曝線量は積算で200mSv未満です。(8割が100mSv未満)
このデータをどう解釈するかですが、まず人口10万人当たり普通でも年に10人程度の白血病が発生しますから、20年間に220人は出ても不思議でありません。うち19人が「被曝の影響で発症」と結論したのですから、19/137=13.9%ということになります。年率、人口10万人当たり年間0.86人です。
この程度の数値なら、草津温泉でも道後温泉でも、発生していても検知されません。つまり誤差範囲ということです。
「放射線の影響がないとはいえない」というのが、チェルノブイリ作業員についての正しい科学的言明でしょう。
発表された雑誌が報じてありませんので詳細な検討ができませんが、さし当たりこのように考えます。
ただ「累計被曝線量100mSv、半径30Km以内はレッド・ゾーンとする」という基準を設けることには、予防的見地から賛成です。とくに後者をはっきりさせれば、がれき処理地の確保もできるはずです。日本中に汚染を広めることには反対します。
福島原発の処理については、
< 福島第1原発では今年9月末までに、積算100ミリシーベルトを超えた作業員が167人、50~100ミリシーベルトは941人に上った。原子炉建屋内など線量の高いエリアはまだ手つかずで、廃炉作業が進むにつれて作業員の健康リスクはさらに高まる。>
と共同が報じており、「放射線防御耐火レンガ」の必要性がこれから高くなると思います。
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