【暗黙知】
5/28「毎日」、青野由利編集委員が「サイクルと暗黙知」と題するコラムで、マイケル・ポランニーの「暗黙知の次元(The Tacit Dimension)」を取り上げていて興味深く読んだ。
文科省の「有識者検討会」が「核燃料サイクル」の中核をなす、高速増殖炉「もんじゅ」について、新たな運営主体を示すことができないまま、「存続」という答申をまとめたことを批判したものだ。
http://mainichi.jp/auth/guide.php?url=%2Farticles%2F20160528%2Fddm%2F008%2F070%2F031000c
私は報告書を読んでいないが、青野コラムによれば、同書には「保守管理などの<暗黙知>をデータベース化することも必要」という一文があるという。ハンガリー生まれの科学哲学者マイケル・ポランニー(1891-1976)の造語による「暗黙知(Tacit knowledge)」とは、「言語化(記号化)できない知識」を意味するから、記号化できないアナログ知識を「記号化する」データベースの構築など不可能であり、論理矛盾でさえあると思う。
「暗黙知(Tacit knowledge)」はポランニーが、著書「Personal Knowledge」(1958,Chicago UP)で最初に用いた用語である。
日本語でひろく読まれている高橋勇夫訳「暗黙知の次元(The Tacit Dimension)」(1966、邦訳:ちくま学芸文庫, 2003)の「解説」によれば、「暗黙知の次元」の最初の邦訳は「佐藤敬造、紀伊國屋書店、1980」とある。だが「暗黙知」という言葉を広めたのは「経済人類学者」栗本慎一郎、とある。彼は「新人類」という造語もしているし、造語の達人だ。
私が最初に読んだ栗本の本は「パンツをはいたサル:人間は、どういう生物か」(カッパブックス、1981/4)だが、いま開いて見ると、彼は、経済人類学の開拓者でマイケルの兄、カール・ポランニーの著作を通じて、M.ポランニーの哲学を知るようになったらしい。栗本の著書では「Tacit Knowledge」は「内知」「深層の知」「暗黙の知」などと多様な用語に訳されている。
「岩波・広辞苑第六版」(2008)を見ると、「暗黙知」という語があり、「M.ポランニーの用語」としておよそ上記のような説明がある。「同書・第三版」(1982)にはこの語が収録されていない。
英語のTacitの語源はラテン語のTacitus(沈黙の、暗黙の)だから、Tacit Knowledgeを「暗黙知」と邦訳したのは間違いではないと思う。
今回、久しぶりに高橋勇夫訳「暗黙知の次元(The Tacit Dimension)」(ちくま学芸文庫, 2003)を開いて見て、巻末の文献リストに著者名がないのに気づいた。驚いて英語版を見たが、やはり同じだった。
https://monoskop.org/File:Polanyi_Michael_The_Tacit_Dimension.pdf
原著は1958年刊だが、訳者は少なくとも引用文献と著者との対応を調べて訳出すべきだったと思う。
それとM.ポランニーはプラトンの「メノン」を対象にして、「記憶と想起」についての過去の認識を批判しているが、プラトン説を批判したアリストテレス「形而上学」には、まったく触れていない。アリストテレスは知識にはいろいろなレベルがあり、そこには「経験知」も「暗黙知(わかっているが説明できない知識)」もあることをすでに論じている。
この二つの点から、ポランニーの「知的誠実さ」について、若干の疑念を抱いた。
栗本慎一郎について調べていて、今話題の舛添要一とかつて北海道知事の座を争った経緯があることを知った。
小保方晴子の指導者で東京女子医大TWINsの大和雅之教授
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E5%92%8C%E9%9B%85%E4%B9%8B#.E6.A0.97.E6.9C.AC.E6.85.8E.E4.B8.80.E9.83.8E.E3.81.A8.E3.81.AE.E9.96.A2.E4.BF.82
と栗本との間にも、学問的な「師弟関係」があるのを知った。
栗本には以下の著書があり、「暗黙知」という言葉の普及に貢献した。
栗本慎一郎「意味と生命-暗黙知理論から生命の量子論へ」(青土社、1988)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A0%97%E6%9C%AC%E6%85%8E%E4%B8%80%E9%83%8E#.E8.91.97.E6.9B.B8
(この本は残念ながら未読だ。)
5/28「毎日」、青野由利編集委員が「サイクルと暗黙知」と題するコラムで、マイケル・ポランニーの「暗黙知の次元(The Tacit Dimension)」を取り上げていて興味深く読んだ。
文科省の「有識者検討会」が「核燃料サイクル」の中核をなす、高速増殖炉「もんじゅ」について、新たな運営主体を示すことができないまま、「存続」という答申をまとめたことを批判したものだ。
http://mainichi.jp/auth/guide.php?url=%2Farticles%2F20160528%2Fddm%2F008%2F070%2F031000c
私は報告書を読んでいないが、青野コラムによれば、同書には「保守管理などの<暗黙知>をデータベース化することも必要」という一文があるという。ハンガリー生まれの科学哲学者マイケル・ポランニー(1891-1976)の造語による「暗黙知(Tacit knowledge)」とは、「言語化(記号化)できない知識」を意味するから、記号化できないアナログ知識を「記号化する」データベースの構築など不可能であり、論理矛盾でさえあると思う。
「暗黙知(Tacit knowledge)」はポランニーが、著書「Personal Knowledge」(1958,Chicago UP)で最初に用いた用語である。
日本語でひろく読まれている高橋勇夫訳「暗黙知の次元(The Tacit Dimension)」(1966、邦訳:ちくま学芸文庫, 2003)の「解説」によれば、「暗黙知の次元」の最初の邦訳は「佐藤敬造、紀伊國屋書店、1980」とある。だが「暗黙知」という言葉を広めたのは「経済人類学者」栗本慎一郎、とある。彼は「新人類」という造語もしているし、造語の達人だ。
私が最初に読んだ栗本の本は「パンツをはいたサル:人間は、どういう生物か」(カッパブックス、1981/4)だが、いま開いて見ると、彼は、経済人類学の開拓者でマイケルの兄、カール・ポランニーの著作を通じて、M.ポランニーの哲学を知るようになったらしい。栗本の著書では「Tacit Knowledge」は「内知」「深層の知」「暗黙の知」などと多様な用語に訳されている。
「岩波・広辞苑第六版」(2008)を見ると、「暗黙知」という語があり、「M.ポランニーの用語」としておよそ上記のような説明がある。「同書・第三版」(1982)にはこの語が収録されていない。
英語のTacitの語源はラテン語のTacitus(沈黙の、暗黙の)だから、Tacit Knowledgeを「暗黙知」と邦訳したのは間違いではないと思う。
今回、久しぶりに高橋勇夫訳「暗黙知の次元(The Tacit Dimension)」(ちくま学芸文庫, 2003)を開いて見て、巻末の文献リストに著者名がないのに気づいた。驚いて英語版を見たが、やはり同じだった。
https://monoskop.org/File:Polanyi_Michael_The_Tacit_Dimension.pdf
原著は1958年刊だが、訳者は少なくとも引用文献と著者との対応を調べて訳出すべきだったと思う。
それとM.ポランニーはプラトンの「メノン」を対象にして、「記憶と想起」についての過去の認識を批判しているが、プラトン説を批判したアリストテレス「形而上学」には、まったく触れていない。アリストテレスは知識にはいろいろなレベルがあり、そこには「経験知」も「暗黙知(わかっているが説明できない知識)」もあることをすでに論じている。
この二つの点から、ポランニーの「知的誠実さ」について、若干の疑念を抱いた。
栗本慎一郎について調べていて、今話題の舛添要一とかつて北海道知事の座を争った経緯があることを知った。
小保方晴子の指導者で東京女子医大TWINsの大和雅之教授
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%A4%A7%E5%92%8C%E9%9B%85%E4%B9%8B#.E6.A0.97.E6.9C.AC.E6.85.8E.E4.B8.80.E9.83.8E.E3.81.A8.E3.81.AE.E9.96.A2.E4.BF.82
と栗本との間にも、学問的な「師弟関係」があるのを知った。
栗本には以下の著書があり、「暗黙知」という言葉の普及に貢献した。
栗本慎一郎「意味と生命-暗黙知理論から生命の量子論へ」(青土社、1988)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A0%97%E6%9C%AC%E6%85%8E%E4%B8%80%E9%83%8E#.E8.91.97.E6.9B.B8
(この本は残念ながら未読だ。)
ある先端工業分野に身を置いておりましたが、そのような世界にすら「暗黙知」を重視すべきとされる方がおられました。
しかし「暗黙知」の重視は、他人が理解できる形での説明が出来ない無能エンジニアの無能隠しや、無能な方が立場を維持するための知識の囲い込みを後押しするものとしか映りませんでした。
難波様は「暗黙知」を尊重すべきとお考えでしょうか。