ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【万波病:予言の的中】難波先生より

2018-10-24 15:30:05 | 難波紘二先生
【万波病:予言の的中】
 2008年3月「医学のあゆみ」224(10):801-812に載った
難波紘二、堤寛:再考レストア腎移植(1)、レストア腎の移植に関する日本の実態」という論文で以下のことを指摘した。
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 これは市立宇和島病院で3例、宇和島徳州会病院で1例、計4例の重症ネフローゼ(成人)から両側腎を摘出し、他のHLAが合う腎不全患者に8人に移植したものだ。これは世界的にも前例がない。

 ネフローゼ症候群というのは、分子量5万程度のアルブミンというタンパク質分子が尿中に出ることをいう。糖尿病でも少し進行すると微量アルブミン尿がでるが、この時は尿糖も陽性となる。
 だが普通のネフローゼでは1日に3.8g/day程度の量のアルブミン・タンパクしかでないのに対して、重症ネフローゼでは20g/day以上のアルブミンが出る。
 ドナー4例は、2007年の調査時点では3/4人が、レシピエントは5/8人が生存中であり、他のレストア腎(修復腎)移植に比べて成績が特に悪いとはいえない。

 ところが他のレストア腎移植と比べて大きく違う点が二つある。
第一。レシピエントは1例を除きいずれも愛媛県出身である。
第二。8例中2例に、「血液のがん」(悪性リンパ腫とMDS=骨髄異形成症候群)が発生し、これが直接死因となったこと。
 神戸西宮病院の岸川医師らは285例の腎移植例で、レシピエント3例(約1%)に「血液がん」の発生が見られ、うち2例はHTLV-1が陽性だったと報告している。

 縄文系である沖縄、南九州、宇和島、和歌山県山間部、佐渡、東北沿岸部、北海道のアイヌにはこのウイルス感染者が多い。感染経路は母児感染(母乳)・輸血(感染T細胞)である。
 「成人T細胞白血病(ATL)」という疾患概念は京大内科講師時代の高月清さん(後、熊本大教授)が、関西の地で生みだした。彼は血液標本上で特徴がある白血病患者の姓が、畿内に多い姓と違うことに気付き、出身地を聞いたのである。それで本病の特異な地理学的分布が明らかになった。当初は「高月病」と呼ばれていた。

 宇和島のネフローゼ例ではHTLV-1の検査が行われていないが、西宮病院からの報告をみれば、市立宇和島病院の2例も同じウイルスに感染していた可能性がある。あるいはドナーもウイルス陽性だったかも知れない。

 ネフローゼとは、「糸球体」(毛細血管の糸玉)の外壁にある基底膜と 糸球体を外から取り巻くタコ足細胞がつくる穴を塞いでいる「スリット膜」という、2枚の半透膜があるのだが、血液中のタンパク質がこれらを通り抜けて尿細管にこぼれ出る病態をいう。
 タンパク分子は糖や電解質と異なり、尿細管で再吸収されないから、全部膀胱に入りタンパク尿症(ネフローゼ)になる。
 糸球体の毛細血管はコラゲン分子の4型で、ラミニンという膜タンパクを作る。これが基底膜の主成分である。他方、スリット半透膜はネフリンというタンパク質からなり、タコ足細胞が作る。

 4型コラゲン遺伝子の異常で起きるのが「アルポート症候群」であり、ネフリン遺伝子の異常では重症のネフローゼ「フィンランド型ネフローゼ」が発症する。

 フィンランドで子供に多発するこのネフローゼに「血液がん」が合併しやすいという報告はなく、あるいは日本の成人型重症ネフローゼ患者か、もしくはその腎臓レシピエントがHTLV-1など免疫系に関与する因子に感染していて、それがネフローゼの重症化、腎レシピエントの「血液がん」の発症に関与しているのではあるまいか。
よって今後の研究が必要である。当面はこれを「万波病」と読んでおこう。
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これを発表したのが11年前だ。2018/8/31「東京新聞」が時事発の以下の記事を載せていた。
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IPSで小児腎臓病を再現:難病治療薬に応用期待、熊本大など
記事の要約:熊本大の西中村隆一教授らの研究チームが、ネフリン遺伝子の配列に1箇所だけ異常があるために「先天性ネフローゼ症候群」になっている患者の皮膚からiPS細胞を作り、実験的に初期糸球体を形成、沪過膜(スリット膜?)が異常であることを確認した。
 ついでゲノム編集によりネフリン遺伝子を正常化したところ、沪過膜の形成が認められた。
ネフリン異常による「先天性ネフローゼ症候群」はフィンランドで多く、8,200人に1人見られる。
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「重症型ネフローゼ症候群」にネフリン遺伝子の異常があることは、11年前にすでに報告されていた。熊大の報告の新味は、患者の体細胞を使い糸球体を再現し、実際のスリット膜の欠損を確認後、同じ細胞のゲノム編集により、遺伝子を正常化するとスリット膜が形成されることを確認した点にある。(「時事」の情報はこの点が不正確である。)
 
  熊本市とその周辺はHTLV-1の感染率の高い地域である。成人の「重症ネフローゼ」にこのウイルス感染者がどれだけいるのか?また腎移植を受けたHTLV-1陽性者に、造血器悪性腫瘍の発症者がどの程度見られるのか、知りたいものだ。
 そういうデータが蓄積されると「万波病」の謎が解けるだろう。
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