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【アイヌ語】難波先生より

2013-08-18 22:52:52 | 難波紘二先生
【アイヌ語】と縄文語はどういう関係にあるのだろうか、と時々思う。それで知里幸恵『アイヌ神謡集』(岩波文庫)を時々ひもとく。
千里は、大将11年にわずか19歳で世を去ったが、アイヌの民謡を日本語とアイヌ語(アイヌは固有文字を持たなかったので、ローマ字)で二ヶ国語表記した作品を残した。


 岩波文庫ではローマ字表記が左頁にあり、日本語対訳が右にある。見ていると差異よりも類似性の方がつよいように思う。
 例えば酒は、アイヌ語で「サケ(Sake)」という。神はカムイ(Kamui)という。銀は「シロカネ(Shirokane)」、金は「コンカネ(Konkane)」という。女は「メノコ(Menoko)」、カッコー鳥が「カッコーハウ(Kakkohau)」。


 大和語とこれだけ共通していれば、まったく別の言語と考える方が難しかろう。
 確かに、コタン(村落)、ピルカ(美しい)、チカッポ(鳥)、ウェンクール(貧しい)、アイヌ(人間)、ニシパ(人々) というような固有語はあるが、私には相違点よりも共通点の方が多いように思われる。


 ニシパは伊藤久男の「黒百合の歌」では、固有名詞として使われている。
 http://www.youtube.com/watch?v=PZh2s9Fy2fw


 これは作詞者菊田一夫の大誤解である。
 実際にはニシパには「地位のある人々、旦那」という意味だったが、「君の名は」以後の菊田一夫ブームの中、私たちはアイヌ文化を単にエグゾチックなものの一つとしてしか、受けとめていなかったので、誤解がそのままになった。「イヨマンテの夜」も同様である。
 http://www.youtube.com/watch?v=jBWSe3EGOBY


 アイヌ語で「周りに」を「ピシュカン(pishkan)」という。「しずく」を「イペ(ipe)」という。
 「銀のしずく降る降る周りに、金のしずく降る降る周りに」というアイヌ神謡は、知里によれば、
 「Shirokan-ipe ranran pishkan, kokan-ipe ranran pishkan.」となる。
 つまり「ランラン」は「降る降る」という意味だ。
 北原白秋作の童謡「アメフリ」(大正14年)では末尾のリフレインが「ピッチピッチ、チャプチャプ、ランランラン」となっている。
 この「ランランラン」が果たして日本語として説明がつくだろうか?


 寡聞にして、日本の詩歌の中で、他に「ランランラン」を雨の形容として使用した例を古今に知らない。
 恐らくこれは大正期に北海道旅行をした文化人が、アイヌ語の表現を日本に持ち込んだのだと思う。


 アイヌ語と縄文語が基本的に同じ言語だと仮定すれば、アイヌ語と日本語の間にある共通語は相互の輸入語でなく、母語だとして説明がつく。日本語から琉球語が分かれたのが、七世紀頃だと比較言語学が推定しているから、日本語とアイヌ語の分離がもっと遅かったとしても不思議はない。
 
 アイヌ語と日本語(それに琉球語)がもとは共通語となれば、これは必然的に「オーストロネシア語」に祖語を求めざるを得ず、つまりは紀元前5000年前に、台湾の原住民(高砂族)から始まったと考えるのが妥当であろう。(ジャレド・ダイアモンド「銃・病原体・鉄」)
 ただ知里のローマ字文によるアイヌ語を読んで感じるのは、どうやら語彙は共通していても、文構造がアイヌ語は「S-V-O」になっていて、今の日本語の「S-O-V」とは違う点である。この点、今の日本語は朝鮮語と似ている。


 語彙が同じで文構造だけが変化した例としては、ドイツ語と英語の場合がある。ドイツ語は「S-O-V」だが、英語は「S-V-O」に変わった。これはローマとフランスという、ラテン語圏の影響だろうと思う。
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