【がんもどき】がん細胞は体細胞のクローンだとは前に書いた。組織の秩序から逸脱して、独立に成長するのが「体細胞クローン(株)」である。たいてい限局性の塊をつくる。
ほくろはメラニン細胞のクローンで立派な良性腫瘍である。皮膚のイボ(疣贅ゆうぜい)や子宮筋腫、腸のポリープもそうだ。増殖している細胞がちがうだけだ。
中村勘三郎が「がん死」したのか、それとも治療の合併症で死んだのかは、病理解剖もしていないようだし、未だにはっきりしない。いずれにせよ「医者を選ぶのも寿命のうち」だ。
「がんの原因はなんですか?」と時々聞かれることがある。「存在していることだ」と答えることにしている。
乳がんは乳腺がなければ生じないし、胃がなければ胃がんにならない。生きて存在していなければ、そもそもがんにはならない。
平均寿命が40歳くらいしかないアフリカのサハラ以南の国々では、がんで死ぬ人はまずいない。あっても白血病かバーキットリンパ腫のひとだけだ。
「がんにかかれる」ということは、長生きできたおかげなのだ。
その良性腫瘍の塊だが、それを維持するにも「幹細胞」がある。でないと死滅する細胞と補充される細胞のバランスが崩れて、消滅してしまう。疣に自然消滅するのがあるのは、このためだ。
この幹細胞が「不死化」能力を獲得すると、がん=悪性腫瘍になるが、ステップがあって一挙には悪性化しない。
これには「上皮=間葉移行説」というのがあり、最近では骨髄由来の「遊走性幹細胞」との細胞融合がからんでいるという証拠が出てきている。
血液のがんである白血病細胞や悪性リンパ腫細胞の染色体異常は単純だが、上皮系の細胞に由来するがん細胞の染色体は数が異常に多く、変異が複雑なのが特徴である。細胞融合の結果だとすると説明がつく。
いずれにせよ、「がん幹細胞」の出現により、がんは悪性度をまし、周囲に浸潤し、他の部位への転移を始める。
治療して「完全寛解です」といわれても、このがん幹細胞がスリープ状態で残っていれば、再発が起こる。乳がんでは10年以上なんともなくて、ある日突然に再発に気づくこともある。
小さながんは幹細胞が「浸潤・転移」能力を獲得していないので、「がんもどき」だというのが慶応大病院放射線科の近藤誠氏の説。外科医がとかく切りたがるのを戒める説だと私は理解している。彼の活躍のおかげで乳がんの「ハルステッド手術」という残酷な治療法は姿を消し、「乳房温存療法」が主流になった。
そういうことに真っ向から反対した(移植)外科医が、小径腎がんの部分切除(腎温存療法)を主張して、「修復腎移植」に反対している。まっことおかしい。
家内の「黄斑円孔」について書いたら、いくつか関連したメールがあった。二人とも前立腺の病気だ。
一人はPSA値が急増し手術を勧められているが、「放射線治療」を考えたいとのこと。
もう一人は、前立腺肥大がひどくなり、HoLAP(Holmium Laser Ablation Procedure)というのを受けたそうだ。この「ホルミウム・レーザー焼灼技法」というのは初耳だが、レア・アースであるホルミウムの発するレーザー光を用いて、患部を切除するのだろう。経過は順調であと1月もすれば、普通の生活に戻れると。よかった。
前立腺Prostateは膀胱とペニスの付け根の間に、尿道を取りまいてある大型の栗の実に大きさも形も似た臓器だ。
古い書物や辞典には「摂護腺せつごせん」と書いてある。鷗外の息子於兔も名を連ねている1950年初版の「解剖学:内臓」を見ると、前立腺(摂護腺)と並記してあり、確か戦後、解剖学会に「用語委員会」ができて、名称変更になったように記憶する。動物学では哺乳類以下の動物の場合、いまも「摂護腺」という用語を使うようだ。どちらもラテン語Prostataが原語である。
前立腺は精液の大部分を分泌する。精液が白いのは前立腺液のせいだ。乳腺と前立腺はどちらもミルクを分泌し、性ホルモンに支配されている。
性ホルモンはステロイド・ホルモンで、その受容体は核内にある。だから作用すると細胞分裂が起きる。
細胞が単一クローンでなく多種増加した場合は「過形成」という。肉眼的には肥大でも、多クローン性なら過形成、単一クローン性なら良性腫瘍というのが、病理学の立場だ。
女性の「乳腺症」と男性の「前立腺過形成(肥大)」は相同である。
軽度の前立腺過形成は「閉経期」を過ぎた男なら誰にも起こる。尿道の外側、前立腺から見ると内側に起こりやすく、このため尿道にカフを巻いたようになり、排尿困難が生じる。残尿感がでる。若い頃の尿中には勢いがあり、排尿に快感を伴うが、年取るとどちらもなくなる。ついでながら、去勢した宦官には前立腺肥大が起こらない。理由は明白だ。
前立腺がんは前立腺の外側に発生しやすく、これは肛門から指を入れて触診すると「堅いしこり」として触れる。いまはCT,超音波、PSA検査が普及したので「早期発見」例がふえた。
家内の眼の方はまだ放置している。私も行く度に担当医が変わり、大学院生が診療している大学病院にはいささかげんなりしている。
OCT、OCTとさかんにいうからフルスペルを聞いたら、「Optical Coherence Tomography」が答えられなかった。しかも初診で入院予約をしろという。こんなのが診療の第一線にいるんじゃね。
ほくろはメラニン細胞のクローンで立派な良性腫瘍である。皮膚のイボ(疣贅ゆうぜい)や子宮筋腫、腸のポリープもそうだ。増殖している細胞がちがうだけだ。
中村勘三郎が「がん死」したのか、それとも治療の合併症で死んだのかは、病理解剖もしていないようだし、未だにはっきりしない。いずれにせよ「医者を選ぶのも寿命のうち」だ。
「がんの原因はなんですか?」と時々聞かれることがある。「存在していることだ」と答えることにしている。
乳がんは乳腺がなければ生じないし、胃がなければ胃がんにならない。生きて存在していなければ、そもそもがんにはならない。
平均寿命が40歳くらいしかないアフリカのサハラ以南の国々では、がんで死ぬ人はまずいない。あっても白血病かバーキットリンパ腫のひとだけだ。
「がんにかかれる」ということは、長生きできたおかげなのだ。
その良性腫瘍の塊だが、それを維持するにも「幹細胞」がある。でないと死滅する細胞と補充される細胞のバランスが崩れて、消滅してしまう。疣に自然消滅するのがあるのは、このためだ。
この幹細胞が「不死化」能力を獲得すると、がん=悪性腫瘍になるが、ステップがあって一挙には悪性化しない。
これには「上皮=間葉移行説」というのがあり、最近では骨髄由来の「遊走性幹細胞」との細胞融合がからんでいるという証拠が出てきている。
血液のがんである白血病細胞や悪性リンパ腫細胞の染色体異常は単純だが、上皮系の細胞に由来するがん細胞の染色体は数が異常に多く、変異が複雑なのが特徴である。細胞融合の結果だとすると説明がつく。
いずれにせよ、「がん幹細胞」の出現により、がんは悪性度をまし、周囲に浸潤し、他の部位への転移を始める。
治療して「完全寛解です」といわれても、このがん幹細胞がスリープ状態で残っていれば、再発が起こる。乳がんでは10年以上なんともなくて、ある日突然に再発に気づくこともある。
小さながんは幹細胞が「浸潤・転移」能力を獲得していないので、「がんもどき」だというのが慶応大病院放射線科の近藤誠氏の説。外科医がとかく切りたがるのを戒める説だと私は理解している。彼の活躍のおかげで乳がんの「ハルステッド手術」という残酷な治療法は姿を消し、「乳房温存療法」が主流になった。
そういうことに真っ向から反対した(移植)外科医が、小径腎がんの部分切除(腎温存療法)を主張して、「修復腎移植」に反対している。まっことおかしい。
家内の「黄斑円孔」について書いたら、いくつか関連したメールがあった。二人とも前立腺の病気だ。
一人はPSA値が急増し手術を勧められているが、「放射線治療」を考えたいとのこと。
もう一人は、前立腺肥大がひどくなり、HoLAP(Holmium Laser Ablation Procedure)というのを受けたそうだ。この「ホルミウム・レーザー焼灼技法」というのは初耳だが、レア・アースであるホルミウムの発するレーザー光を用いて、患部を切除するのだろう。経過は順調であと1月もすれば、普通の生活に戻れると。よかった。
前立腺Prostateは膀胱とペニスの付け根の間に、尿道を取りまいてある大型の栗の実に大きさも形も似た臓器だ。
古い書物や辞典には「摂護腺せつごせん」と書いてある。鷗外の息子於兔も名を連ねている1950年初版の「解剖学:内臓」を見ると、前立腺(摂護腺)と並記してあり、確か戦後、解剖学会に「用語委員会」ができて、名称変更になったように記憶する。動物学では哺乳類以下の動物の場合、いまも「摂護腺」という用語を使うようだ。どちらもラテン語Prostataが原語である。
前立腺は精液の大部分を分泌する。精液が白いのは前立腺液のせいだ。乳腺と前立腺はどちらもミルクを分泌し、性ホルモンに支配されている。
性ホルモンはステロイド・ホルモンで、その受容体は核内にある。だから作用すると細胞分裂が起きる。
細胞が単一クローンでなく多種増加した場合は「過形成」という。肉眼的には肥大でも、多クローン性なら過形成、単一クローン性なら良性腫瘍というのが、病理学の立場だ。
女性の「乳腺症」と男性の「前立腺過形成(肥大)」は相同である。
軽度の前立腺過形成は「閉経期」を過ぎた男なら誰にも起こる。尿道の外側、前立腺から見ると内側に起こりやすく、このため尿道にカフを巻いたようになり、排尿困難が生じる。残尿感がでる。若い頃の尿中には勢いがあり、排尿に快感を伴うが、年取るとどちらもなくなる。ついでながら、去勢した宦官には前立腺肥大が起こらない。理由は明白だ。
前立腺がんは前立腺の外側に発生しやすく、これは肛門から指を入れて触診すると「堅いしこり」として触れる。いまはCT,超音波、PSA検査が普及したので「早期発見」例がふえた。
家内の眼の方はまだ放置している。私も行く度に担当医が変わり、大学院生が診療している大学病院にはいささかげんなりしている。
OCT、OCTとさかんにいうからフルスペルを聞いたら、「Optical Coherence Tomography」が答えられなかった。しかも初診で入院予約をしろという。こんなのが診療の第一線にいるんじゃね。
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