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ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【本の未来はどうなるか】難波先生より

2013-02-19 12:29:43 | 難波紘二先生
【本の未来はどうなるか】、というタイトルの中公新書(2000)を歌田明弘が出してから13年経つ。東大文学部卒で、雑誌「現代思想」という先端的雑誌の編集部、雑誌「ユリイカ」の編集長をつとめ、つねにITと書物との癒合に関心を払ってきた人物だ。
 
 彼はこの本の中で、「本の本質は記憶装置だ」といい、「紙の束」が本だという思考は間違いだと述べ、「多様な電子書籍」を未来の本だと予告している。WHOによると「厚さ40ページ以上ある印刷された紙の束で、表紙があるもの」が本だと定義されている。かつて大学の用度係が「購入した本はすべて図書館を通す」というから、「それなら電話帳も本か、図書館を通すのか。君らが使っている文科省の法令集は図書館のラベルがないではないか」とやりあったこともある。


 むかし、広島大教養部自治会が「緑の旗」という雑誌を発行していた。春に新入生用に教師の講義内容について、「紹介・採点評」を分担執筆で書いていた。英語のTという教授がその講義のお粗末ぶりを批判されたら、自治会室にやってきて「あれを取り消してもらえないか」という。「間違いがあるか?」と聞くと、「間違いはないが、何しろ活字になると影響力が大きいから…」という。かつて活字は力があった。


 活字が消えることは文字が消えることではない。プラトンはシシリア島シラクサの宮殿で、床の上に砂を撒いて、僭主ディオニシオス二世に幾何学の講義をした。(「誰がアレクサンドロスを殺したのか?」p.31)文字は砂に書かれ、粘土板に書かれ、木や竹に書かれ、パピルスに書かれ、羊皮紙に書かれ、グーテンベルグの時代にやっと紙に印刷(1450)されるようになったのだ。


 マーシャル・マクルーハンは「グーテンベルグの銀河系:活字人間の形成」(みすず書房, 1986)で、この銀河系が間もなく終わることを予言している。事態はほぼそのように進行している。


 Gmailの広告に、「自炊用裁断機」の広告が現れるようになった。「どんなに厚い本でも40秒で裁断します」とある。住宅政策のまちがいで、「大型100年住宅」を建築せずに、耐用年限30年の「ウサギ小屋」を作ったから、みな本の置き場に困っている。出版不況の一因は、場所の問題にもある。
 かつてはリビングルームのインテリアとして、40巻もある百科事典や文学全集が売れた時代もあったのだ。読むために本を買うとはかぎらない。


 紙の本は「物流」と「在庫」が伴うから、取り継ぎによる「中間搾取」と在庫スペースの確保と在庫への課税というデメリットがある。また日本では欧米の25%にくらべ、印税が10%と著者の取り分が低いし、「契約」という当然の商習慣がない。権利関係が不明のままの口約束の世界である。だから映画化や電子出版など、著作の二次利用が複雑になる。


 この点、欧米では電子出版の場合、著者の取り分は50~60%である。最近では「著者出版」という電子ブックもあるそうだ。著者が自分で売るのである。
 英国の主婦が書いた「灰色の50の色合い(Fifty Shades of Grey)」というポルノは2011年の大ベストセラーになり、「ハリー・ポッター7部作」の売り上げを超えたそうだ。
 http://en.wikipedia.org/wiki/Fifty_Shades_of_Grey
 「世はいかさま」と山本夏彦は書いたが、金もうけの種はどこにころがっているか、わからない。


 要は既成概念を打破するところ、つまりベンチャーにチャンスがあるということだろう。成功率は1%以下だが、あきらめずにやってみないとわからない。マーガレット・ミッチェルの「風と共に去りぬ」の原稿は、4箇所くらいの出版社からけられて、やっと出たら世界的ベストセラーになった。彼女が書いたのはこの一作だけだが、10年位前に他人が続編を書いたくらいだ。
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