【アダルト・チャイルド】難波先生より

【アダルト・チャイルド】
　この言葉は和製英語で1970年代に、日本の映画やテレビに子供っぽい感じの映画女優や歌手、タレントが出現してから生まれたように記憶している。「モーレツ」の山本リンダ、「私の城下町」の小柳ルミ子、童謡歌手で今は老人ホームで生活保護レベルの生活をしている◯◯、名前が思い出せないが人気映画女優の◯◯、彼女らを言った。
　下関鉄道病院の院長だった耳鼻科医の叔父は、九大の心療内科の研究生となり、池見酉二郎教授のもとで、「心療内科・精神科」を研鑽し、後に非常勤講師にもなった。病院事務部とケンカして、院長を辞めた後に広島市内で開業した。その頃は値打ちが私にはわからなかったが、「精神鑑定医」の資格も持っていた。耳鼻科医で精神鑑定医というのは、きわめて少なかろう。
　叔父は造語の名人だった。鉄道と医師をドイツ語でくっつけて、Eisenbahn-Arzt（鉄道医）とし、これを音訳して「愛銭番アールツト」と自称していた。
　その叔父坂田正から、「子供大人」のような流行りの女優・タレントをさして「アダルトチャイルド」という言葉を聞いた。（もっとも彼の唯一の著書「鳴竹庵雑想」, 溪水社, 1988,非売品、にこの言葉はない。）

　12/16「産経」の「人生相談」欄に＜娘がアダルトチルドレンの親＞からの相談が載っていて「なんじゃこりゃ？！」と思った。
　夫81歳、妻70代。 夫は認知症だが、逆に妻を認知症だと主張するという。47歳の一人暮らしの娘があるが、親の面倒見るどころか、３年ほど前から「自分はアダルトチルドレンだ」言いはじめたが、どうしたらよかろうか？という相談だ。そこで一句…。
＜１人でもチルドレンとは子はいかに＞

　1970年代の初めには「日活ロマンポルノ」というジャンルの映画があった。
　ギリシアの娼婦ポルナエ(pornae)に派生する、ポルノという言葉が大衆化しはじめていた。旧海軍では、慰安所のことを売春婦prostituteの頭文字をとって「P屋」と称していた。
　ところがビデオの急速な普及によって、同様なコンテンツでもっと過激なものが「アダルトビデオ」と称して、ビジネスホテルの客室に置かれるようになってきた。はじめコイン式、ついでフロントでの後払い制、現行のカード自販機の別売り式など、方式には変遷がある。
　「現代用語の基礎知識2015」で「アダルト」という索引語を調べると、
　1)アダルト＝
　2)アダルト・ショップ＝
　3)アダルト・グラフィック＝
　4)アダルト・チルドレン＝AC の４語が載っている。
AdultとAdult-Childrenのみが真正の英語だが、1)の意味は「ポルノ」と同義に変わっている。
Adult-Shopはポルノ商品を売る専門店、Adult-Graphicはポルノ、春画と同義である。
　東京堂「日本俗語大辞典」には、アダルト・チルドレンの略称として「アダチル」が載っていた。
　用例として、
　「私のお父さん、めっちゃ子供っぽいよ。わがまま言うし、かまってあげないと、すぐすねるし」、
　「アダチルっちゅうヤツかな？」
　が載っていた。
　これは叔父が言っていた「アダルトチャイルド」に近い。

　ところが、「産経・人生相談」での精神科専門医は、「アルコール依存症の親の元で育ち、幼少期に甚大なストレスを受けたまま成人した人々」つまり「機能不全家族で育ち大人となった人々全体を指す」と説明している。
　下重暁子「家族という病」が生んだ人々を指しているし、子が自己責任を回避し、自分を不憫に思うために自らを「アダルト・チルドレン」（１人でも）と呼ぶらしい。和製英語でも単数なら、叔父のように「アダルト・チャイルド」と呼ぶのが普通だと思うが…