ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【熱力学】難波先生より

2013-01-09 12:59:30 | 難波紘二先生
【熱力学】「熱的死」という概念は19世紀の終わりに「熱力学」が提起したものだが、「静止状態」という概念は英国のジョン・スチュワート・ミルがすでに提起していたことを初めて知った。この概念と説明は彼の「Political Economy(1848)」((経済学原理)で提出されているのだが、邦訳が岩波文庫「経済学原理(全5冊)」しかないことも、初めて知った。
 今は、新本もなく古書を求めると、1冊当たり1,500円位することも初めて知った次第。末長茂喜訳(1959)なので、今は時代遅れなのは明白。あまりにも高すぎるので、Project Gutenbergで無料の英語原本をダウンロードした。


 再版ないし復刻版が出ると、古書市場は1/3にダウンするのが常識。岩波のKさん、ぜひミル「経済学原論」の再版をしていただけませんか。というのも、他社にこの訳本がないからです。


 なぜ私が「経済学原論」に着目するかというと、この本は熱力学第二法則の発見(1850, R.クラジウスによる)より前(1848)に、「経済学的静止状態」に着目しているからです。
 ある「系」に熱(エネルギー)が投入されない限り、その系の発展はありえません。系に外部からエネルギーが投入されるかぎり、系は発展します。そのエネルギーとは、経済学の場合、「太陽エネルギー」、「化石エネルギー」もしくは「原子力エネルギー」です。
 
 ミルの時代には「エネルギー」という概念すらなかったのですが、彼は「進歩の終焉」という概念でこれを捉えています。


 ミルはこう論じています。(英語原本の意訳)
 「生産の増大が必要になるのは後進国においてであって、先進国においては経済学的に問題となるのは、よりよい分配である。…どのような労働者も、相続遺産や贈与によらずして、自己の人生において蓄積された富をもとにして、豊かな精神的、肉体的な余暇を送ることができる。それが経済の静止的状況である」と述べています。
 彼にとって、経済的成長が無限ではなく、やがて「静止する」のは当然のことだったのです。


 残念ながら、「経済学原論」は岩波文庫版しかないことは、上述の通りです・


 「熱力学的な死」とは、ある系に注がれる外部エネルギーがストップされることを意味します。人間(食物=太陽光由来)、自動車(ガソリン)、原発(ウラン燃料)とも、外からのエネルギー供給がストップすると、死滅が始まります。
 外からの注入エネルギー(Ei)と内部で消費するエネルギー(Ec)が平衡になった時点が、ミルのいう「経済学的静止状態」だろうと思います。
 つまり、
 EiーEc=がプラスの時、個人は情報や富を獲得し、リッチになれる。社会は次のレベルに発展する。
 EiーEc=が平衡の時、個人は同じレベルの生活を維持する。社会は経済学的な静止状態になる。
 EiーEc=がマイナスの時、個人は過去の生活を取り崩して暮らすか破綻する。社会は崩壊しはじめる。
ということになります。


 ミルはこの静止状態は、先進国の経済が遅かれ早かれ到達せざるをえない状態だ、と主張しています。その上で、「社会は生産量の多さを基準とするのではなく、個人への配分と個人の満足度を基準とすべきだ。静止経済状態でも、個人は幸福になれる。」と主張しています。(もともとベンサムの「最大多数の最大幸福」はブータン国王の「幸福度」概念をふくんでいた。)
 
 この主張には、今日でも十分に耳を傾ける必要がありそうです。安倍・麻生内閣は通貨供給量を増やして、2%のインフレを目標にしています。
 小泉内閣の時に「国債発行額を40兆円以内に抑え、以後毎年、減額する」という方針だった。
 2012年度の発行額は民主党内閣では「44兆円」に改められ、安倍・麻生内閣では「50兆円」に変更された。塩爺が「いまの政府支出に占める国債比率は、太平洋戦争末期の財政構造とおなじ」と昨年の秋、総選挙前に指摘しているが、まさにそのとおりだ。


 安倍首相の「大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資の引き出す成長戦略」(三本の矢)で、今のところ円安と株高が進行している。
 円安になれば、輸入物価は上がるからインフレになる。消費者はそれにどう対応するだろうか。ガソリンなどは買い控えや小型車への乗り換えなどが起こるだろう。
 しかし通貨供給と財政により、インフレを「2%」という目標値にコントロールできるだろうか。行き過ぎてハイパーインフレションになる恐れがある。敗けの込んだばくち打ちが、最後に有り金全部を賭場に放り込むような感じではないか。恐ろしい。


 ミルのいうように「後進国でないのだから、生産の増加を図るよりも、よりよい分配を図る」ことが消費を増大させると思います。


 熱力学的には、ミルの主張はまったく妥当です。化石燃料、原子力燃料ともに有限である以上、「無限の成長」などありえない。太陽エネルギーにも「単位面積当たりの照射エネルギー量は不変」という制限がある。月面に大きな反射鏡をおいて、地球に光か電磁波を送れば別だ。
 しかし、地球という生態系を温存しようとする限り、どこかで「成長の限界」は来る。


 この点で、ミルを見直す必要があるのは、「経済成長ゼロでも、人間の生活は質的に向上する」と断言した点にある。
 考えてみれば「余暇」において、金のかからない方法で、人生の質を向上する方法は山ほどある。ただ、それを知り、活用する人が少ないだけだろう。
 岩波のKSさん、よろしく。
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