【椎茸】難波先生より

【椎茸】
　民法では「眠れる権利はこれを保護しない」というのだそうだ。ある弁護士に教わった。
　自宅東側の雑木林は田中角栄「日本列島改造論」が盛んな頃、投機目的で広島市の銀行員が購入したまま、塩漬けになった。一度、「買い取りたい」と申し入れたことがあるのだが、「また土地価格が上がる」と思っているのか、売るといわなかった。20年間、本人は一度も来たことがない。
　ある日、その親類というのが訪ねてきた。「土地の位置を教えてくれ」という。なんでも本人が死んで甥だかなんだか知らないが、相続したようなことをいう。「土地の正確な地番と位置、面積は、法務局に行って土地台帳を閲覧・コピーしてくれ」といい、ついでに「所有者なら、隣地境界からすぐのところに生えている枯れ松は、台風が直撃したら倒れて、拙宅の外階段フェンスを壊す恐れがあるので、責任をもって伐採してくれ」と申し入れた。
　「あんなものは、チェーンソウで20分も作業すれば片付く」と捨て台詞のようなものを残して帰った。後日、家内に電話があって、「地元で作業する人を世話してほしい」とのこと。

　それで同じ集落のHさんが、冬の農閑期に何日か作業をして、枯れた松や伸びすぎたドングリの木を伐採して、切断した。重労働だから日当1万円ではすまないだろう。その際に、マテバシイの幹をシイタケのほだ木にしたようだが、イノシシと鹿よけに家内がぐるりをフェンスで囲ったので、すぐには中に立ち入れなくなり、「シイタケ栽培」をしているとは知らなかった。
　昨日、Hさんが訪ねてきて「大けなシイタケがえっと生えとるで、とって下さい」という。今日11/10(月)のブランチの後、登山靴をはき、大廻りして雑木林東端の「見捨てられた別荘」の側から林の中に入った。手入れしてない林間にはクモの巣が多くあり、まだジョロウグモが生きている巣もある。足下は枯れ枝や雑草で歩きにくく、バランスを崩しそうになる。登山靴は不可欠である。で、林の西端つまり我家の庭のすぐ東に、こんな光景があった。（写真３）
（写真３）
　なんと直径が20センチ近い（スケールは15cm）巨大シイタケが傘を開いている。この画面だけで５本も写っており、組んだほだ木が崩れているため、全体で何本あるか見当もつかない。ほだ木にはシイタケ菌のついた木栓が打ち込まれており、Hさんが我が家にプレゼントしてくれたのだ…と判明した。こういう「気配り」が嬉しい。
　夕日をとおしてみると、椎茸から煙が出ている。と思ったが、これは傘から胞子が微風に乗って散るところだった。眼ではよく見えるのだが、カメラでは上手く写らなかった。沢山生えているうち、一部を採取して持ち帰った。（写真４）気がつくとズボンに「ひっつき虫」が沢山くっついていた。
（写真４）
　これ（写真４）はそれを研究所
のテーブル岩に生えているスギゴケの上に置いたところ。傘表の色は、内層（暗褐色）、中層（褐色）、外層（淡褐色）と３輪になっている。傘裏には白いヒダが密に走っている。一部に褐色の斑点があるがこれは古くなったしるし。柄は充実性で根部に袋は付着していない。サイズが傘径20センチと巨大なだけで、シイタケに間違いない。
　こういう生シイタケは、傘をまるごとバター焼きして、塩胡椒で味付けし「ビフテキ」にすると美味しい。（夕食に家内が焼き肉風に調理したものを食ったら実に美味かった。塩胡椒よりポン酢がよく合い、傘２個は食った。）

　『食品成分表』を見ると、生シイタケには重量%でタンパク質3.0、脂質0.4、糖質4.9しかなく、91%が水分とある。含有ビタミンで多いのがVit.Dとナイアシン、葉酸だ。
　ナイアシンはニコチン酸の別名で、ナス科タバコ属(Nicotiana)の植物は、これを必須アミノ酸アルギニンの誘導体であるメチル・ピロリニウムと結合させ、植物アルカロイドのニコチンに変える能力を持っている。
　ニコチン酸（ナイアシン）は必須ビタミンで、これが欠乏すると「３Ｄ」症状（Dermatitis=皮膚炎、Diarrhea=下痢、Dementia=痴呆症、認知症）を主徴とするペラグラという病気が起きる。生存に不可欠なニコチン酸がニコチンになると猛毒に変わるのは、不思議としかいいようがない。
　葉酸も1番から12番まであるB群の必須ビタミンで、核酸合成に関与するので、欠乏すると致命的な巨赤芽球性貧血が起こる。
　ナイアシン(niacin)はニコチン酸(NIcotinic ACid)の略号NIACに「素、成分」を表すINを付けたもので、出典は失念したが、確かアメリカ食品業界のロビー活動で「ニコチン」の名称が悪いと、変えられたと記憶する。