ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【統計数値】難波先生より

2012-11-21 02:47:56 | 難波紘二先生
【統計数値】日経プレジデント-ONLINEがこんな記事を載せている。
<全比較!年収「1500万vs400万」の日常習慣【2】
 相手の時間の使い方、意味のあるムダ、高年収者に共通する3つの特徴――。アンケートで明らかになった「残念な人」を脱するヒントとは?

 調査概要/2010年12月9~11日、マクロミルを通じて、ビジネスマン(派遣、契約スタッフを除く)を対象にインターネットアンケートを実施。有効回答数は618人。うち、年収400万以上500万未満が309人、年収1500万以上が309人。

「やりたくないことリスト」をつくる

 仕事をするうえで、目標を設定することが重要なのは言うまでもないが、面白いのは、立てた目標の大小により、その後の時間の使い方まで変わってしまうということである。ソフトバンクの孫正義社長のように、会社を設立して間もないうちから、年間1兆円単位の売り上げを目標に掲げるのと、自分ひとりが食べていければいいというような目標を立てるのでは、時間の使い方が全く異なってくる。目標の大小については人それぞれであり、ここで是非を議論することはできないが、1500万円以上の年収は、大きな目標がなければ絶対に達成できない金額であることは確かである。>
 http://president.jp/articles/-/7820


 新聞やテレビの「アンケート」結果をみて、いつも思うのだが、「回答率」(回収率)、「有効回答数」だけが述べられていて、「アンケート配布数」つまり母数が明らかにされていない。
 昨今は、「コンピュータによる電話アンケート」だとか「メールによるアンケート」が目立つようになった。これだと質問元の正体がわからないので、不安になり、多くの人はアンケートに応じない。私も回答したことがない。


 で、上記の記事だが母数と回答率が書いてない。年収は自己申告と思われるから、客観的でない。有効回答数が2群で同数になるはずがないから、数字を操作していないのなら、同数になるように年収区分を2群に分けたにちがいない。よって、このようなデータは信用できない、ということになる。


 いったい、こういった記事を読むたびに思うのは、「統計学の基礎知識」がライターに欠けていることである。高校数学でも、「算術平均値」、「幾何平均値」、「中央値」、「流行値=最頻値」くらいは教える。「母集団」、「サンプル数」、「誤差」、「確率」、「信頼限界」も教える。


 ところがいま、大学入試が多様化して、「一芸入試」だの「OA(Office of Admission)入試」だのと、数学ができないでも大学生になれるようになった。今の高校は大学入試の予備校化しているから、入試科目になければ数学も生物学も勉強しない。大学でも「カリキュラムの大綱化」以来、教養教育が溶解して、「好きな科目だけ」を勉強すればよいことになった。そこで大学生は、嫌いな科目、不得意な科目は、中学レベルの知識のまま卒業していく。


 「科学立国だ」、「IT化だ」といいながら、自然科学の知識については中学生並みの国民が半数近くいる。それがビジネスをやっているのだから、驚くようなことがあるのは、驚くにあたらない。


 「文藝春秋」12月号に、「中国人労働者<賃上げ暴動>の内幕」という興味深い記事が載っている。
 中国に進出している日本企業は2万2000社、累計投資総額は850億ドル(7兆円)に及ぶという。ところが進出条件に「雇用保障と周囲環境整備」が入っており(契約念書)、いざ撤退となったら膨大な補償金を支払うか、「資産接収」されるか、選択肢がないという。


 多くは「他社が進出するから」と「連れション」型の決断で進出している。最初に進出した組は、「賃金が日本の十分の一」という低賃金の魅力だけを考えた。ここで不思議なのは、経済成長率に見合って賃金も上昇するので、GDPが年率10%上昇すれば、「年率1.1の複利計算」となり、10年後には賃金は2.6倍に上昇するという簡単な予測がどうしてつかなかったのか、という点だ。


 日本でも1970年代には、右片上がりの急成長が続き、月給が10倍以上にもアップした経験があるではないか。同じことが中国に起こらない、と考える方がおかしい。で、「北見式賃金研究所」の所長という人物が、「中国の統計はあてにならない。最低賃金、平均賃金は人集めの指標にならない」として、「中央値」を持ち出している。筆者の伊藤博之というジャーナリストが、「中央値」の補足説明を所長にさせているから、文春読者の多数がこの概念を知らないと考えていることは明白だ。


 中央値が「流行値」または「最頻値」の代用になるのは、月収が正規曲線を描く場合のみで、北見所長がいうように「中国では所得の格差が激しいため、平均値が実態よりも高くなる」状況であれば、中央値も役に立たない。「一番多い数」つまり「流行値」のみが、この場合に役に立つ数である。約1万5,000人の中国人労働者の額面給与を集計しているそうだから、中央値と流行値を比較してみればよいのに、と思う。


 彼が強調しているのは、中国人労働者は勤務時間中にめいっぱい働かないので、時間当たりの生産性を計算して、それで日本人労働者の生産性を割り、その指数を中国人の給与に掛けると、「日系企業における中国人労働者の賃金は、事務職の係長クラスで日本とほぼ同一、課長以上だと日本より多くなる」そうだ。


 もともと統計学の始まりは、17世紀にロンドンで何度もペストが流行した際に刊行され始めた「週間死亡表」にある。死亡時年齢、死因、男女別、死亡場所がわかれば、「人口統計表」ができる。これで「平均寿命」の算出もできる。これを始めたのがジョン・グラントというロンドンの商人だ。商売ではなく、趣味として始めた。友人に経済学に興味を持っていたウィリアム・ペティがいて、ここから経済統計が始まった。


 19世紀、コレラ流行の際に、ロンドンの内科医スノーが死亡表と飲料水供給源地図を組み合わせて、病因が飲料水汚染にあることを明らかにし、「疫学」が誕生した。「統計表」から「統計学」に進歩するには、数学が必要だった。統計学が本当に進歩するのは、20世紀に入り、ピアソン、フィッシャーなどが出て、サンプリング誤差の問題や統計数値の信頼限界などの問題を解明してからである。


 そういうわけで、経済学(社会科学)が使う統計学と自然科学が使う統計学は、いまではかなり異なる。統計学の入門書でも、使われている例だけでなく、用語や概念の説明まで異なっているから、本当に統計学を知ろうとしたら、両方を読んでおく必要がある。
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