「買いたい新書」書評で「田中角栄:100の言葉」(宝島社, 2015)を取り上げ、
「戦争を知っている世代が社会の中核にある間はいいが,戦争を知らない世代ばかりになると日本は怖いことになる」
という言葉を紹介した。
今まさに、そうなろうとしている。安倍政権の中枢にある人たちは1955年以後の生まれの人たちで、「戦争を知らない世代」ばかりだ。
「憲法解釈」を閣議で変更して、集団的自衛権行使のための法案を国会で成立させようというのだから、これは一種の「独裁体制」である。
ドイツの場合は、「全権委任法」によりヒトラー首相に議会が立法の全権を譲り渡した。以後、ヒトラーが全権を掌握し、1945/5月総統官邸地下壕で自殺するまで、ドイツは戦い続けた。
日本では「解釈改憲はもう無理だ」と中曽根内閣の後あたりから言われてきた。与党が選んだ3名の識者はそれを知っているから、「集団的自衛権を行使するための法案は意見だ」と全員が述べた。
それを閣議決定で押しきろうというのだから、「全権委任」されたも同然だろう。
これはオーウェル「1984年」が描いた「ニュースピーク」の世界である。
「真理省」は偉大な指導者ビッグ・ブラザーの言動に合わせて、過去の記録を遡って修正し、「ビッグ・ブラザー」に誤りはないことを示すのが目的の省である。ニュースピークでは「平和」が戦争を意味している。
「天が下、新しきことなし」と旧約聖書にも英詩人ロバート・ブラウニングの詩にもある。「原爆の落ちた日」(半藤一利・湯川豊著、PHP文庫)を読んでいて、似たような状況が1945年の日本にもあったことを知った。
同年5月9日のドイツ降伏を受けて、日本は単独で戦わざるを得なくなった。敗戦は時間の問題である。しかし「本土決戦」を呼号してきた陸軍は何とか責任を免れようとする。
本土決戦には「明治憲法」第31条の規程による「天皇の非常大権」の発動か、同第4条の規程による「戒厳令」の発動が必要となる。同日、陸軍省で開かれた「部課長合同」会議では、第31条発動では責任が天皇と政府に及ぶとして、4条発動では、全責任が陸軍に及ぶとして結論がでなかったという。
代わりに採用されたのが、内閣が「戦時緊急措置法」と「国民義勇兵役法」を国会に提出して、議会に可決させるという案である。
「戦時緊急措置法」はわずか5条の法案だが、実質「戒厳令」であったことは第1条を見れば明らかだ。
<第1条=大東亜戦争に際し国家の危急を克服するため緊急の必要あるときは、政府は他の法令の規定にかかわらず、左の各号に掲げる事項に関し応機の措置を講じるため、必要な命令を発し、または処分をなすことを得。…>
「他の法令の規定にかかわらず」という文言で、この措置法は憲法を超えたのである。
「国民義勇兵役法」は15歳から60歳までの男子と、17歳から40歳までの女子、合わせて2800万人が「義勇戦闘隊」に召集されることを規定していた。
映画「日本のいちばん長い日」で阿南陸将(三船敏郎)が「あと1000万人特攻を出せば、日本は絶対勝てる!」と叫ぶ場面が出て来る。2800万人という恐るべき徴兵数のことを当時、私は知らなかった。
それはともかく、この2法案は、国民に詳細を知らせることなく、6月22日国会で承認され、翌23日に施行されている。2個の原爆投下がなく、予定通り本土決戦になったら、ドイツと同じく首都攻防戦が展開されていただろう。ドイツ降伏後、速やかにソ連が参戦することは「ヤルタ会談」で決まっていたから、北海道や東北までソ連に占領されていたかもしれない。
「戦後レジームの精算」を唱えた安倍内閣は、「戦中レジーム」に復帰しようとしていると思えてならない。閣議決定で「黒を白と解釈」し、法案提出で国会の議決を得て正当化するというのは、どう見ても「憲政の邪道」だと思う。
いささか全文が長くなったが、今号では、
1.【書評など】
1) エフロブ「買いたい新書」No..278:アレックス・カー「「ニッポン景観論」.
2)献本お礼「医薬経済」7/15号の高橋幸春「恥ずべきは<学会の身内びいき>、生体肝移植事件で露呈した数々の矛盾」と題する4頁にわたるレポートが読み甲斐があった
2.【訂正】「日本のいちばん長い日」の著者の誤記について、
3.【ヒート・ショック】
4.【移植ネットワーク】
5.【ヤモリの捕食】
という5つの話題を取り上げました。
「戦争を知っている世代が社会の中核にある間はいいが,戦争を知らない世代ばかりになると日本は怖いことになる」
という言葉を紹介した。
今まさに、そうなろうとしている。安倍政権の中枢にある人たちは1955年以後の生まれの人たちで、「戦争を知らない世代」ばかりだ。
「憲法解釈」を閣議で変更して、集団的自衛権行使のための法案を国会で成立させようというのだから、これは一種の「独裁体制」である。
ドイツの場合は、「全権委任法」によりヒトラー首相に議会が立法の全権を譲り渡した。以後、ヒトラーが全権を掌握し、1945/5月総統官邸地下壕で自殺するまで、ドイツは戦い続けた。
日本では「解釈改憲はもう無理だ」と中曽根内閣の後あたりから言われてきた。与党が選んだ3名の識者はそれを知っているから、「集団的自衛権を行使するための法案は意見だ」と全員が述べた。
それを閣議決定で押しきろうというのだから、「全権委任」されたも同然だろう。
これはオーウェル「1984年」が描いた「ニュースピーク」の世界である。
「真理省」は偉大な指導者ビッグ・ブラザーの言動に合わせて、過去の記録を遡って修正し、「ビッグ・ブラザー」に誤りはないことを示すのが目的の省である。ニュースピークでは「平和」が戦争を意味している。
「天が下、新しきことなし」と旧約聖書にも英詩人ロバート・ブラウニングの詩にもある。「原爆の落ちた日」(半藤一利・湯川豊著、PHP文庫)を読んでいて、似たような状況が1945年の日本にもあったことを知った。
同年5月9日のドイツ降伏を受けて、日本は単独で戦わざるを得なくなった。敗戦は時間の問題である。しかし「本土決戦」を呼号してきた陸軍は何とか責任を免れようとする。
本土決戦には「明治憲法」第31条の規程による「天皇の非常大権」の発動か、同第4条の規程による「戒厳令」の発動が必要となる。同日、陸軍省で開かれた「部課長合同」会議では、第31条発動では責任が天皇と政府に及ぶとして、4条発動では、全責任が陸軍に及ぶとして結論がでなかったという。
代わりに採用されたのが、内閣が「戦時緊急措置法」と「国民義勇兵役法」を国会に提出して、議会に可決させるという案である。
「戦時緊急措置法」はわずか5条の法案だが、実質「戒厳令」であったことは第1条を見れば明らかだ。
<第1条=大東亜戦争に際し国家の危急を克服するため緊急の必要あるときは、政府は他の法令の規定にかかわらず、左の各号に掲げる事項に関し応機の措置を講じるため、必要な命令を発し、または処分をなすことを得。…>
「他の法令の規定にかかわらず」という文言で、この措置法は憲法を超えたのである。
「国民義勇兵役法」は15歳から60歳までの男子と、17歳から40歳までの女子、合わせて2800万人が「義勇戦闘隊」に召集されることを規定していた。
映画「日本のいちばん長い日」で阿南陸将(三船敏郎)が「あと1000万人特攻を出せば、日本は絶対勝てる!」と叫ぶ場面が出て来る。2800万人という恐るべき徴兵数のことを当時、私は知らなかった。
それはともかく、この2法案は、国民に詳細を知らせることなく、6月22日国会で承認され、翌23日に施行されている。2個の原爆投下がなく、予定通り本土決戦になったら、ドイツと同じく首都攻防戦が展開されていただろう。ドイツ降伏後、速やかにソ連が参戦することは「ヤルタ会談」で決まっていたから、北海道や東北までソ連に占領されていたかもしれない。
「戦後レジームの精算」を唱えた安倍内閣は、「戦中レジーム」に復帰しようとしていると思えてならない。閣議決定で「黒を白と解釈」し、法案提出で国会の議決を得て正当化するというのは、どう見ても「憲政の邪道」だと思う。
いささか全文が長くなったが、今号では、
1.【書評など】
1) エフロブ「買いたい新書」No..278:アレックス・カー「「ニッポン景観論」.
2)献本お礼「医薬経済」7/15号の高橋幸春「恥ずべきは<学会の身内びいき>、生体肝移植事件で露呈した数々の矛盾」と題する4頁にわたるレポートが読み甲斐があった
2.【訂正】「日本のいちばん長い日」の著者の誤記について、
3.【ヒート・ショック】
4.【移植ネットワーク】
5.【ヤモリの捕食】
という5つの話題を取り上げました。
備えあれば憂いなしなんですよ。
それが判っていない国民が多すぎる。