【ロシアvs.トルコ】
ロシア軍のスホイ戦闘爆撃機をトルコ軍が「領空侵犯」として撃墜したとメディアが報じている。NHK、日経、産経、毎日、中国と見たが、この機が出撃途中だったのか、任務を終えて帰還途中だったのか報じられていない。出撃基地も陸上だったのか空母だったのか書いてない。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/0f/2e/2486f043f7eedd92f502ea480ea24f6e_s.jpg)
(Fig.1.ラタキアとISの「首都」ラッカ市の位置)
「ラタキアないしその郊外の村に墜落した」というのは、各紙とも報じており、日経は「ロシアはシリアのラタキア近郊に戦略爆撃機とミサイルの基地を持つ」と報じている。それならシリアのアサド政権が許可した基地で、ラッカからアレッポにかけて拡がるISの支配範囲を爆撃するのなら、トルコ領空を侵犯するとは思えない。(ただ、ラタキア北東30キロのところに、半島状に突き出したトルコ領があり、意図しないでこの上空を飛行することは起こりえると思う。但し、ロシア軍事基地の位置はGoogle Mapでも不明。)
ロシアは地政学的に黒海を挟んでトルコと隣り合っており、地中海への通路、ボスポラス海峡とダーダネルス海峡はトルコ領内にある。オスマントルコ帝国の時代からトルコとロシアは敵同士だった。この敵対関係は、シリア内戦においてアサド独裁政権をプーチン独裁政権が支持し、NATOにすでに加盟し次はEU加盟を目標とするトルコのエルドアン政権がシリア反体制派を支持する、という構図になるのはごく自然だろう。
これに「IS」という超過激派が加わって、シリアは政府軍、反政府軍、ISという三つの武装勢力が三つどもえの内戦を行っている。
今までのところ、トルコはロシアによる領空侵犯の確かな証拠も、ロシアの戦闘爆撃機がシリアのトルコ系住民を爆撃したという確かな証拠を提出できていない。したがって現地軍の暴発である可能性が高いと思う。エルドアン・トルコ大統領はロシアに「経済封鎖」を突きつけられる前に、さっさと謝罪した方が賢明だったと思う。
さて「ISのテロ」だが、テロという呼称はともかく自死覚悟でやる政治目的での暗殺は古代からあった。有名なものでは紀元1世紀にパレスチナのユダヤ人がローマ帝国の支配に反抗した「ゼロテ党」の反乱がある。最後は「マサダの砦」に立て籠もって全員が自殺した。これは結局、ユダヤ人が亡国の民となり世界に散らばる「ディアスポラ」を招いただけだった。
その次に有名なのは中世、十字軍の時代にイスラム教シーア派の分派「ニザリ派」が創設したイラン北部の「暗殺者教団」だろう。(岩村忍「暗殺者教国ーイスラム異端派の歴史」,ちくま学芸文庫,2001/7)この教団は暗殺者の洗脳に大麻(ハシシュHashish)を用いた。暗殺者のことをアッサッシン(Assassin)というのは、これに由来するといわれている。
この教団は1256年、モンゴル族の元がペルシアを攻めた際に住民と山塞にこもった戦士ともども皆殺しにされた。(ドーソン:「モンゴル帝国史4」,東洋文庫,1973/6)
私の知るかぎり、「組織化されたテロ」はこれで一旦世界史から姿を消し、復活するのは19世紀後半、帝政ロシアの専政下においてである。農奴制を前提とした土地分配の不公正への改革要求が高まり、まず「無政府主義」(アナーキズム)が興った。その分派が「ナロードニキ」であり、その分派の「戦闘団」が数多くのテロを実行に移した。(サヴィンコフ, ボリス:「テロリスト群像(上・下)」,岩波現代文庫, 2007/3)その中には皇帝アレクサンドル2世を手投げ爆弾で暗殺したものもある。レーニンの実兄もテロリストとして死刑になっている。
テロリストの総指揮官サヴィンコフの回想録によると、ロシア政府の秘密警察は「戦闘団」に二重スパイを送り込み、その一人アゼフは指導部に出世し1881年、首脳部の総逮捕に持ち込んだ。ロシアにマルクス主義を紹介したプレハーノフは「テロで歴史を変えることはできない」と主張して、ナロードニキのテロを批判した。(G.V.プレハーノフ「歴史における個人の役割」(岩波文庫,1958/10)
「ナロードニキ」はテロ至上主義の可否をめぐって分裂し、マルクス主義的な「労働解放団」(1883)が結成され、それが後に「社会民主労働党」(1898)、「社会革命党(エスエル)」(1901)」を生む。社会民主労働党は多数派(ボルシェビキ)と少数派(メンシェビキ)に分裂し、1905年ロシアが日露戦争に敗北し、帝政支配がゆらぐと、議会主義のメンシェビキが影響を発揮して、1914年第一次大戦が始まると1917年に「2月革命」が起こった。ボルシェビキが「暴力革命」を準備し、同じ年に「10月革命」が起こり、彼らが武力を背景に全権力を掌握した。
レーニンの「民主集中制」の「ソビエト統治」はまもなくスターリンの独裁体制に移行した。しかしこのシステムはたった70年で崩壊した。
皮肉なことにロシア帝国内のテロは「クリミア戦争」(1853-1856)でロシアがトルコ・英・仏の連合軍に敗北し、帝政が揺らぎ始めた時から始まっている。ロシアのテロリストたちはその主観的予測とは異なり、西欧型民主主義国家を実現するのではなく、「一党独裁体制」という史上最悪の政体を実現する下地をつくっただけだった。
いま起こっているのは、19世紀末の帝政ロシアの状況とそっくりだと思う。これが最終的にどう落ちつくかは予測できない。当時ロシアはクリミア戦争の敗北から、近代工業化を急ぎ、鉄道と電信機の普及によりテロリストの移動も自由になっていた。これが技術的背景としてある。いまアラブのテロリストはインターネットを利用してプロパガンダを行っているが、テロリストの側でもそれを壊滅させようとする側でも、無人機やドローンを利用するようになるだろう。IOT(もののインターネット:Internet Of Things)の技術が悪用されると何が起こるか分からない。
テロは病理学的に見ると「社会的感染症」である。レトロウイルスの感染様式とそっくりだ。
レトロウイルス(テロリスト指導者)は自分では手を下さず、逆転写酵素(洗脳)という手段を用いて、相手のDNA(テロ実行者)にもぐり込む。DNAからウイルス特異のmRNAが作られそれがタンパク質に翻訳される時期(テロ実行期日)は別に指令しない。HTLV-1のように発病まで40年くらいかかるものもあり、HIVのように潜伏期が短いものもある。
12/1は「世界エイズデー」だそうだ。1980年代の初めアメリカの男性同性愛者に最初のエイズ患者が見つかり、最初は「対岸の火事」と見ていた日本も1986/11に松本市でフィリピンからの出稼ぎ「風俗嬢」がHIV抗体陽性だったことが判明し、翌年1月に神戸市福原の日本人女性がエイズ患者だと報道されるとメディアが「大騒動」を初め、今にも人類がエイズで絶滅するかのようなテレビ、新聞、週刊誌報道があふれた。世にいう「エイズ・パニック」だ。
最盛期には世界で年間500万人の死者を出したエイズも、2014年には120万人に減少しマラリアなみとなった(「日経」11/26記事)。感染予防と感染後の発症抑制剤が普及したためだ。
テロを予防する方法も、原理的にはエイズの対策法と同じだと私は思う。
ロシア軍のスホイ戦闘爆撃機をトルコ軍が「領空侵犯」として撃墜したとメディアが報じている。NHK、日経、産経、毎日、中国と見たが、この機が出撃途中だったのか、任務を終えて帰還途中だったのか報じられていない。出撃基地も陸上だったのか空母だったのか書いてない。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/0f/2e/2486f043f7eedd92f502ea480ea24f6e_s.jpg)
(Fig.1.ラタキアとISの「首都」ラッカ市の位置)
「ラタキアないしその郊外の村に墜落した」というのは、各紙とも報じており、日経は「ロシアはシリアのラタキア近郊に戦略爆撃機とミサイルの基地を持つ」と報じている。それならシリアのアサド政権が許可した基地で、ラッカからアレッポにかけて拡がるISの支配範囲を爆撃するのなら、トルコ領空を侵犯するとは思えない。(ただ、ラタキア北東30キロのところに、半島状に突き出したトルコ領があり、意図しないでこの上空を飛行することは起こりえると思う。但し、ロシア軍事基地の位置はGoogle Mapでも不明。)
ロシアは地政学的に黒海を挟んでトルコと隣り合っており、地中海への通路、ボスポラス海峡とダーダネルス海峡はトルコ領内にある。オスマントルコ帝国の時代からトルコとロシアは敵同士だった。この敵対関係は、シリア内戦においてアサド独裁政権をプーチン独裁政権が支持し、NATOにすでに加盟し次はEU加盟を目標とするトルコのエルドアン政権がシリア反体制派を支持する、という構図になるのはごく自然だろう。
これに「IS」という超過激派が加わって、シリアは政府軍、反政府軍、ISという三つの武装勢力が三つどもえの内戦を行っている。
今までのところ、トルコはロシアによる領空侵犯の確かな証拠も、ロシアの戦闘爆撃機がシリアのトルコ系住民を爆撃したという確かな証拠を提出できていない。したがって現地軍の暴発である可能性が高いと思う。エルドアン・トルコ大統領はロシアに「経済封鎖」を突きつけられる前に、さっさと謝罪した方が賢明だったと思う。
さて「ISのテロ」だが、テロという呼称はともかく自死覚悟でやる政治目的での暗殺は古代からあった。有名なものでは紀元1世紀にパレスチナのユダヤ人がローマ帝国の支配に反抗した「ゼロテ党」の反乱がある。最後は「マサダの砦」に立て籠もって全員が自殺した。これは結局、ユダヤ人が亡国の民となり世界に散らばる「ディアスポラ」を招いただけだった。
その次に有名なのは中世、十字軍の時代にイスラム教シーア派の分派「ニザリ派」が創設したイラン北部の「暗殺者教団」だろう。(岩村忍「暗殺者教国ーイスラム異端派の歴史」,ちくま学芸文庫,2001/7)この教団は暗殺者の洗脳に大麻(ハシシュHashish)を用いた。暗殺者のことをアッサッシン(Assassin)というのは、これに由来するといわれている。
この教団は1256年、モンゴル族の元がペルシアを攻めた際に住民と山塞にこもった戦士ともども皆殺しにされた。(ドーソン:「モンゴル帝国史4」,東洋文庫,1973/6)
私の知るかぎり、「組織化されたテロ」はこれで一旦世界史から姿を消し、復活するのは19世紀後半、帝政ロシアの専政下においてである。農奴制を前提とした土地分配の不公正への改革要求が高まり、まず「無政府主義」(アナーキズム)が興った。その分派が「ナロードニキ」であり、その分派の「戦闘団」が数多くのテロを実行に移した。(サヴィンコフ, ボリス:「テロリスト群像(上・下)」,岩波現代文庫, 2007/3)その中には皇帝アレクサンドル2世を手投げ爆弾で暗殺したものもある。レーニンの実兄もテロリストとして死刑になっている。
テロリストの総指揮官サヴィンコフの回想録によると、ロシア政府の秘密警察は「戦闘団」に二重スパイを送り込み、その一人アゼフは指導部に出世し1881年、首脳部の総逮捕に持ち込んだ。ロシアにマルクス主義を紹介したプレハーノフは「テロで歴史を変えることはできない」と主張して、ナロードニキのテロを批判した。(G.V.プレハーノフ「歴史における個人の役割」(岩波文庫,1958/10)
「ナロードニキ」はテロ至上主義の可否をめぐって分裂し、マルクス主義的な「労働解放団」(1883)が結成され、それが後に「社会民主労働党」(1898)、「社会革命党(エスエル)」(1901)」を生む。社会民主労働党は多数派(ボルシェビキ)と少数派(メンシェビキ)に分裂し、1905年ロシアが日露戦争に敗北し、帝政支配がゆらぐと、議会主義のメンシェビキが影響を発揮して、1914年第一次大戦が始まると1917年に「2月革命」が起こった。ボルシェビキが「暴力革命」を準備し、同じ年に「10月革命」が起こり、彼らが武力を背景に全権力を掌握した。
レーニンの「民主集中制」の「ソビエト統治」はまもなくスターリンの独裁体制に移行した。しかしこのシステムはたった70年で崩壊した。
皮肉なことにロシア帝国内のテロは「クリミア戦争」(1853-1856)でロシアがトルコ・英・仏の連合軍に敗北し、帝政が揺らぎ始めた時から始まっている。ロシアのテロリストたちはその主観的予測とは異なり、西欧型民主主義国家を実現するのではなく、「一党独裁体制」という史上最悪の政体を実現する下地をつくっただけだった。
いま起こっているのは、19世紀末の帝政ロシアの状況とそっくりだと思う。これが最終的にどう落ちつくかは予測できない。当時ロシアはクリミア戦争の敗北から、近代工業化を急ぎ、鉄道と電信機の普及によりテロリストの移動も自由になっていた。これが技術的背景としてある。いまアラブのテロリストはインターネットを利用してプロパガンダを行っているが、テロリストの側でもそれを壊滅させようとする側でも、無人機やドローンを利用するようになるだろう。IOT(もののインターネット:Internet Of Things)の技術が悪用されると何が起こるか分からない。
テロは病理学的に見ると「社会的感染症」である。レトロウイルスの感染様式とそっくりだ。
レトロウイルス(テロリスト指導者)は自分では手を下さず、逆転写酵素(洗脳)という手段を用いて、相手のDNA(テロ実行者)にもぐり込む。DNAからウイルス特異のmRNAが作られそれがタンパク質に翻訳される時期(テロ実行期日)は別に指令しない。HTLV-1のように発病まで40年くらいかかるものもあり、HIVのように潜伏期が短いものもある。
12/1は「世界エイズデー」だそうだ。1980年代の初めアメリカの男性同性愛者に最初のエイズ患者が見つかり、最初は「対岸の火事」と見ていた日本も1986/11に松本市でフィリピンからの出稼ぎ「風俗嬢」がHIV抗体陽性だったことが判明し、翌年1月に神戸市福原の日本人女性がエイズ患者だと報道されるとメディアが「大騒動」を初め、今にも人類がエイズで絶滅するかのようなテレビ、新聞、週刊誌報道があふれた。世にいう「エイズ・パニック」だ。
最盛期には世界で年間500万人の死者を出したエイズも、2014年には120万人に減少しマラリアなみとなった(「日経」11/26記事)。感染予防と感染後の発症抑制剤が普及したためだ。
テロを予防する方法も、原理的にはエイズの対策法と同じだと私は思う。
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