ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【献体】難波先生より

2017-12-31 14:40:20 | 難波紘二先生
【献体】11/27「毎日」に執筆者不明の記事<献体利用し手術訓練、厚労省、助成拡充へ>という見出しの記事が載っていた。今回は話題が多くなり恐縮だが、一言コメントしたい。

 記事によると「腹腔鏡手術を受けた患者が死亡する問題が各地で相次いでおり、外科医に局所解剖を学ばせ、手術技術の習得と医療事故の減少につなげる」のが目的だそうだ。唖然とした。
 日本移植学会などは、「小径腎がんはAIロボット<ダビンチ>で内視鏡手術ができるので、患者の腎摘出は必要ない。まして小径腎がんを切除して、腎不全患者に移植する<修復腎移植>はもってのほか」といい、未だに妨害工作をしているではないか。

 「献体」というのは患者の死後に、遺言または家族の同意に基づいて、遺体を医学教育や研究のために提供することをいう。死後の解剖には病理解剖と「系統解剖」がある。(司法解剖・行政解剖というのもあるが、これは遺族の許可を必要とせず、司法・行政が実施する。)
 献体は大学医学部や歯学部にある「解剖学講座」に遺体を預けることを一般的にそう呼んでいる。学生の解剖実習に利用させてもらうので、葬式がすんだ後で、遺体が大学の死体冷凍庫に運ばれる。実習が終わり、火葬されて遺骨が遺族に返却されるまで二年くらいかかる。

 「毎日」の記事がいい加減なのは、歯学部と医学部を同列に扱っている点にもある。
 歯学部に解剖学教室はあるが、教えているのは「口腔解剖学」だけだ。
 よって歯学部には「病理解剖」の機会がなく、「口腔病理認定医」の資格を得るために、「口腔病理」教室の歯科医師は、医学部の病理学教室に入局し、人体病理解剖の研鑽を積んでいるのが現状だ。

 生前に「献体登録」をするには、全国的組織「白菊会」に加入しておくことが必要となる。
かつては学生実習用の「系統解剖用遺体」が足りなくて、解剖学教室は困ったが、今は老人が増え、「遺体余り」現象が起こっている。
 先日、県北のある老健施設に勤める病理学の先輩から、「親が死んで息子が献体したいといっているが、何とかならないか」という相談を受けた。葬式代を節約したいという息子の側の事情はすぐにのみ込めた。
 だが、「生前予約」をしていないので、白菊会は無理。よほどの難病か奇病でないと、県北から遺体を広島市にある広島大医学部に運び、病理解剖してもらうのも無理でしょう、とお話したことがある。

 「病理解剖」は一般の人には「献体」と受けとめられていないようだが、理由は「解剖後、遺体をすぐ家族に返す」ためだと思われる。私が若い頃は「遺体保存室」がなく、臨床医の死亡判定—遺族の承諾—病理への剖検依頼—即執刀という順番で行われていたから、早ければ死後2〜3時間で、遺体は家族のもとに返却されていた。
 ご遺体を返却するのは早いが、その後に全臓器を肉眼観察し写真を撮影し、さらに各臓器から合計約50枚の顕微鏡標本を作製し詳しく調べるのだから、解剖後、「最終診断」を下すまでに、ずいぶん時間がかかる。
 私は「肉眼病理診断報告書」と最終的な「病理解剖診断報告書」という2通の書類を作成し、写しを主治医と院長に送っていた。
 前者は1週間以内、後者は4ヶ月以内を目途としていたが、日本で報告のない病気となると、海外文献を取りよせないといけず、年度内報告(病理学会の「年報(「剖検輯報」)の締め切りに間に合わすのがやっと、ということもあった。

 病理解剖には臨床研修医の見学も多々あった。また「局所解剖をやらせてくれ」という若い外科医もいた。いちいち遺族の承認をえていないが、私は「病理解剖の承認」のなかに、これらも含まれており「病理医の裁量権」の範囲内にあると考え、時間が長引かないかぎり、それらを認めてきた。

 「毎日」記事では「日本外科学会と日本解剖学会が2012年に<外科トレーニング>のガイドラインを公表。「献体」を外科医のトレーニング(局所解剖をする)に、献体登録者と家族の承認を得て、実施することにした。厚労省は来年度概算要求に5億円を計上し、このプログラムを実施する大学医学部・歯学部に助成金を出す」となっている。

 群馬大病院、千葉県立がんセンターで相次いだ、腹腔鏡手術後の患者死亡を考えれば、外科医に局所解剖の知識と技量が足りないのは明白だ。その意味で、厚労省の新政策に賛成だ。
 さらに死因解明に最も有効な病理解剖とその機会を利用して病理医と臨床医を訓練することも重要だと思う。いま病理解剖の件数は大学病院でも公的総合病院でも非常に減少している。
一部に「画像診断が普及したから、病理解剖は不要だ」という意見もあるが、画像診断はしょせん「影」を見ているに過ぎない。
 早い話、「置き忘れたガーゼ」はCTでもMRIでも見つからない。病理解剖には「開けてびっくり」という話が山ほどある。私は「膣がふたつある女性遺体」を解剖したことがある。それでも正常に出産した経歴があった。
 これは「医学的奇形・珍例集」という英語の厚い本にも載っていなかった。


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