【歯抜けじじい】難波先生より

【歯抜けじじい】
　私は50代の半ばで総入れ歯になった。原因は口腔外科の専門医による治療を受けていたのに、一度も血糖値測定がなく、歯周囲炎のため抜歯だけが持続されたためだ。あれは「境界型Ⅱ型糖尿病」の副徴候だったのだと、今にして思う。
　同じく50代で総入れ歯になった寺田寅彦が随筆に「ピーナッツが噛めるようになったのが嬉しい」と入れ歯ができた日に書いているが、私の場合はせいぜいカシューナッツまでだった。おそらく寅彦の義歯は陶製で、私のものはプラスチックなのではなかろうか。
　「総入れ歯の老人」の話ぶりをよく「フガフガ」と書いてあるが、あれは昔のことだと思う。
　12/20(火)は朝起きてすぐに仕事場にタバコを吸いに行ったので、洗面も入れ歯も忘れた。すぐにいろいろな電話が掛かってきて、そのまま支障なく対応できた。で、入れ歯をしていないことをすっかり忘れていた。食事するのもすっかり忘れていた。「ケトン食」だから空腹感は別にない。(ケトン食だと７時間くらい食べなくても平気である。) 通常どおり仕事をして、タバコが切れたので16:00頃に隣町のコンビニに買物に行き、「ウィンストン」５箱と「トリスハイボール」５缶を買おうとして、その前にトイレに行き鏡を見て、自分が「歯抜け」であることに気づいた。
　今さらどうしようもない。これで通じるか？と実験してみた。

　ハイボールの方は、冷却棚から買いものカゴに自分で選ぶので問題はない。問題は「WINSTON ロングサイズ、タール3mg」である。これはカウンター後の棚にあるので、口頭で注文するしかないが、これも別に問題は生じなかった。つまり「フガフガ」にはならなかった。別になじみの店ではなく、自分でも理由がよくわからない
　「WINSTON」という発音は、７語中２語しか母音がなく、大部分が口唇発音だが、ひょっとするとこれが関係しているのかな、とも思う。もしそうなら、昔の「フガフガ」は「母音主体」あるいは「子音＋母音」の日本語が主体であったためにそうなったのではないか、とも思った。
　総入れ歯になって入れ歯を入れ忘れても、別にパニックになる必要はないだろう。


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