ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【ドラフト・チャンバー】難波先生より

2017-06-11 06:27:53 | 難波紘二先生
【ドラフト・チャンバー】茨城県の日本原子力機構「大洗研究開発センター」で使用済みプルトニウム粉末容器の爆発事故が起き、作業員5人が大量被爆するという事故が起きた。初報をTVニュースで知り、99年9月に発生した茨城県東海村の「JCO臨界事故」を思い出した。あの事故は作業員3人がウラン燃料をバケツで混ぜ合わせていて「臨界状態」に達し、高度被爆により2名が死亡、1名が重症となった事件だ。作業員はいずれも下請けだった。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9D%B1%E6%B5%B7%E6%9D%91JCO%E8%87%A8%E7%95%8C%E4%BA%8B%E6%95%85

 今度の事故は「ドラフト・チャンバー内でプルトニウム粉末を入れた容器が爆発した」とアナウンサーが説明し、ドラフト・チャンバーの映像が出たので、何な変だな?と思った。デジタル朝日と提携した6/8「ハフィントンポスト」がやや詳しい図解を載せている。
http://www.huffingtonpost.jp/2017/06/07/internal-exposure-oarai_n_16992444.html

 記事によるとプラスチック円筒に容れたプルトニウムとウラニウムなどの粉末を二重のビニール袋でくるみ、ステンレス円筒容器にいれ、その上に円形のステンレス蓋を置き、これを6本のボルトで固定していた。作業員がチャンバー内で蓋を外したら、とたんにビニール袋が破裂し粉末が周囲に四散したという。爆発はビニール袋の内圧が高くなっていたから起きたのだろう。
 ビニール袋は26年前のものだというから、経年変化で脆くなっていただろうが、プルトニウムが出すアルファ線やウランからでる中性子が、どうして内圧を高めたのか私にはわからない。

 ドラフト・チャンバーは机の高さに設置された四角い箱で、内部の空気は強力なファンにより室外に排出するよう煙突につながっている。チャンバーの前は上下スライド式の厚い枠ガラスになっており、作業に必要な時ガラスの下側から手を差し入れる。化学反応中はガラスを舌まで降ろし、チャンバーを密室にする。普通の化学実験に使うものでも、「内部は陰圧、密室」になっている。爆発が起こっても安全が保たれるようになっている。
 チャンバーの側壁にはファンと内部照明のスィッチが取り付けてある。さらに遺伝子操作実権などより高度な実験室では、部屋全体が陰圧になるように設計してある。危険な菌などが周囲に漏れるのを防ぐためだ。入口ドアも内開きになっている。

 上記ハフィントンポスト記事によると、
<6日朝、作業にあたる職員5人が分析室に直径10センチほどのステンレス製の保管容器を持ち込み、分析用の作業台に載せた。保管容器の中には、プルトニウムとウランなどの酸化物が入ったポリ容器が、二重のビニール袋に包まれて入っていた。
 午前11時15分ごろ、50代の男性職員が6本のボルトを緩めて保管容器のフタを開けると、突然、ビニール袋が破れ、中にあった放射性物質が飛び散った。>
とあるが、ドラフト・チャンバーの正しい使い方がなされていたかどうか不明だ。

 私見ではまず容器をチャンバー内に置き、右手にドラーバーをつかみ、両腕をチャンバー内に入れて作業可能な位置まで、耐圧ガラス枠を下に引き下げ、排気ファンを最強にして作業すれば、内部でたとえ爆発が起こっても、前方に被害が及ぶことは考えにくいと思う。
 作業していた「職員5人」というのは、正規の職員なのか? 仮に正規職員だったとしても26年前、金属容器にウランとプルトニウム粉末を密閉した時のことを知っている人物がいたのか?ドラフト・チャンバーや保護マスクの操作について、どの程度習熟していたのか?
 メディアはこうした核心的な情報について、きちんとした調査報道をして欲しい。

 6/8の各紙(といっても四紙だが)を読んで、さらに疑問が増えた。
 「中国」は「ドラフト・チャンバー」の代わりに「フード」という言葉を使用している。(「共同」配信記事か?)これは米俗語で正式名はドラフト・チャンバーだ。
 「毎日」と「日経」が載せているビニール袋の写真を見ると、縁にリング状の細い取っ手が付いており、密封式ではない。核物質の粉と塊300gが直接入れられていた円筒形のポリ容器にはキャップ蓋がついている。

 「毎日」は、九大核燃料工学の教授による「アルファ線はヘリウムの原子核そのものだから、長期保存によりヘリウムガスが溜まり(ビニール袋が)破裂した可能性はある」というコメントを載せている。この説明も納得がいかない。なぜなら原子量2のヘリウムは原子自体がガスで、ゴムやビニールの風船に詰めたら、分子サイズが小さいので風船の分子間をすり抜けて外に出てしまい、何日かすると風船がペチャンコになる現象を普通に経験するからだ。
 「中のビニールバッグが破裂」と「日経」「毎日」「中国」ともに書いているが、写真や図解を見るかぎり、ビニールバッグは密閉できる構造をしていなかったと思われる。仮に密閉されていたのが事実であれば、アルファ線とヘリウムガスの関係に対する、大洗研究開発センターの判断ミスだろう。

 「毎日」と「中国」が載せているドラフト・チャンバーの全景写真を見ると、形は通常のものと同じで、前面下部にはカーテンが下がっており、腰掛け作業が可能だとわかった。だが併掲のイラストを見ると、作業員は立ったままで、チャンバー前面の防御ガラスを完全に引き揚げる(「中国」)か、半分だけ引き下げた状態(「毎日」)で作業している。チャンバー天井には強力な排気ファンがついているのだから、これを廻して防御ガラスをぎりぎり下までさげ、強力な吸引流を生じさせた状態で使うのが、有毒ガスや汚染した塵を吸い込まない、チャンバーの正しい使い方だ。爆発が起こっても外に波及しないように、ドラフトは設計されている。
 要するになぜドラフト・チャンバーを使うのか?ということの基本的理解が作業員になかったのだろうと私には思われる。

 報道記事をまとめて、問題の作業手順をまとめると、
① 核燃料物質が入ったステンレス性円筒型容器を、別の場所から5人の作業員がドラフトのある部屋に搬入し、チャンバー内に置いた。
② チャンバー内でボルト締めされている筒の蓋を開けた。
③ すると突然二重のビニール袋が破裂し、蓋付きのポリ円筒容器に入っていた核燃料物質飛散した。
ということになっている。

 これが不審だ。仮にビニール袋が同時に2枚破裂したのが事実としても、ステンレス容器が直立している限り、破裂風は上に吹上る。容器の底には核物質がポリ容器に入れて蓋をしてあるので、力は上から押さえつけるように働くはずだ。
 事故は実際に起きているので、放射性物質が飛散したのは間違いないが、発表された「作業手順」と実際の爆発状況には疑問が残る。
 ステンレス容器を開封後、誤って倒したとか、蓋を取った後、核燃料物質を容れたポリ容器ごとビニール袋外につまみ出したとか、別のミスがあるように思われてならない。

 昨日、病院に行った帰り、久しぶりに芸備線沿いの県道を走った。来年から「休耕田への補助金」が廃止されるからか、自宅前の田圃にソーラーパネルを設置している家が目立った。
 そのひとつが「さらば原発」という大きな看板を県道に向けて立てていた。
 今度の事故がこうした庶民感情を増幅することは間違いないだろう。



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1 コメント

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Unknown (Unknown)
2017-06-11 12:06:13
通常のドラフトは防爆構造ではないので、爆発による急激な飛散は防止できない。今回の事故では、一気に内圧が高まったであろうから、ガラスを最小限にあけていても防げなかっただろう。逆に、通常の実験工程で単に飛散した飛沫や粉末なら、ガラスを基準となる高さまで引き上げて作業していても外に漏れることはない。

ヘリウムは、ゴムは容易に通過できるのでゴム風船ははすぐしぼんでしまう。しかし、ポリエチレンのような素材はかなり通過しにくいので風船は長持ちする。しぼむのは密封が不十分だから。

他には、崩壊の過程で生じるラドンの可能性もあると思う。
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