【証言1:高原報告の疑惑】=この項、拡散希望=
2月初め以来のSTAP騒動に相当の時間が取られたので、肝心な「修復腎移植」問題への取り組みがおろそかになった。これも6月には最終公判を迎え、9月には判決が出る見通しだ。裁判長が和解を勧告するかどうかはわからない。
ここに3月18日に松山地裁で行われた裁判で、原告(患者側)の証人として私が行った陳述を、各種書面と記憶に基づいて再現する。この日は午前中に大島伸一被告(元日本移植学会副理事長)、午後に光畑直喜医師(泌尿器科部長、呉共済病院副院長)と私の証言が行われた。この日は被告高原史阪大教授(日本移植学会現理事長)が初めて法廷に姿を見せ、被告席に着席した。腰巾着の吉田克法奈良医大教授は傍聴席の後に、隠れるようにして坐っていた。「弁護人1」は岡山市の光成卓明弁護士である。
この連載では、2006年当時の日本移植学会の予断と偏見により、一方的なメディア・バッシングが行われ、日本の移植医療を改善するよい機会が失われたことを、完膚無きまでに明らかにする予定である。弁護士の先生方、法廷闘争の障害になるのであれば、ご一報下さい。
<1.病腎移植との関わり>
弁護士1:「証人は新聞記事を見るまで、修復腎移植との関わりはなかったのですね」
難波:「おっしゃるとおりです。2006年11月6日の新聞に大々的に報じられたので、びっくり仰天いたしました」
弁護士1:「では第三者として純粋に医学的な関心から、調査や論評をしてこられたとお聞きしてよろしいですか」
難波:「はい、私はそう考えています」
弁護士1:「文献検索をいろいろされた旨の記述がありますが、これはどういう方法でされたのですか」
難波:「2段階でやりました。第1段は、米NIHのパブメド(PubMed)というネットで公開されている医学データベースをパソコンで検索して、「病気の腎臓を使った腎移植」に関する世界各国語の最新の文献を入手しました。全部英訳されているので、少なくともタイトルと抄録は読めます。コピーを入手してまずそれを読みました」
弁護士1:「それが第1段目の検索ですか」
難波:「ええ、新しいものを集めるのが第1段です。論文を読むと病気腎移植のことが書いてあれば、必ず引用文献番号をつけて論文末に引用文献が書いてあります。1つの論文に関連する症例が5例なり10例なりあるとすると、その報告論文が引用文献に書いてありますので、それらを取り寄せ、また引用文献をチェックします。それをまた過去に遡って文献請求します。これが第2段階です。
取り寄せた過去の論文を読み同じ作業を繰り返すと、網をかけるように過去の「病腎移植」例が発掘できます。これは「芋ずる検索」といい、コンピュータでは一つの言葉でしかデータ検索ができませんから「あいまい検索」ができないのです。人間の眼で読みながらたどっていくと、ああ、言葉は違うけどこの症例とこの症例は同じ病気について言っているんだな、ということが分かります。そうやって1950年頃まで遡って、400くらいの文献を集め、ひとつひとつ吟味しました」…
<2.高原報告の疑惑>
弁護士1:「これは『国外における病腎移植の研究に関する調査』で、高原さんによる厚労省への研究報告書ですが、ご覧になりましたか」
難波:「ええ読んでおります」
弁護士1:「これは高原さん、湯澤さんがトランスプランテーション・プロシーディングスという雑誌に寄稿された論文ですが、これも読まれていますね」
難波:「はい、市立宇和島病院の病気腎移植25例の予後が悪いという趣旨の論文です」
弁護士1:「この厚労省に対する報告書、それからこの雑誌論文を読まれて、報告あるいは解析そのものではなく、論文自体の問題もあるとお考えですか」
難波:「はい、そう思います。2007年度の報告書で、提出日は08年5月です。問題の英語論文は報告書にはin press(印刷中)となっています。常識的に考えて2008年のうちに雑誌掲載となるはずです。ところが08年末にネットでデータ検索したときには見つけられませんでした。09年にも見つからなかった。見つけたのは2012年の7月頃です。取りよせて見ると、08年に印刷中だったものが、2010年にやっと出版されているので驚いたのです。普通そんなことないです。in pressというと受理されて印刷中という意味です。そうじゃなくて投稿中ならsubmittedと書きます。投稿準備中ならin preparationと書くものです。それがサイエンスの常識です」
弁護士1:「それ以外に、市立宇和島病院のデータだけを用いた理由についての論文の説明に疑念を表明されていますね」
難波:「英語論文にはいくつかのウソがあります。一つは市立宇和島病院、宇和島徳洲会病院、呉共済病院の3病院で病腎移植が行われたが、市立宇和島病院だけがカルテ(医療記録)の保存が完璧で、他の病院では破棄されていたと書いている点です。事実は逆で2病院ではカルテの保存が完璧だったのに、市立宇和島ではほとんどが廃棄されていたのです。
二つ目は倫理委員会のことで、他の2病院にはこれがなかったとありますが、呉共済にはちゃんとありました。だからデータがなかったから使えなかったという英語論文の記載は虚偽だと私は思います」
弁護士1:「高原さんが07年3月に発表した解析結果と論文報告での数値が違うんじゃないか、と言っておられますが」
難波:「はい。07年3月30日に行われた厚労省での高原発表については、翌日の各紙が報道していますが、一番数値が分かりやすかったのは読売の記事です。それに報じられた患者の生存率などの数値と2010年の英文論文の数値は明らかにちがいます」
弁護士1:「数値が違っていて、そのことの説明がないということですか」
難波:「生存率についていうと、高原発表の時点(2007/3)から論文発表(2010/1)まで3年くらい経っています。その間に新たに独自の追跡調査をされたのであれば、数値が変わることがあってもおかしくないのですが、そのことは論文に書いてありません。ですから元データを英語に直しただけだというふうに解釈するのが普通です。しかし、それだと数値が違うことの説明がつかない。元データは同じで解析法が変わったのか、あるいは数値そのものが変えられたのか、そこは私も…、」
弁護士1:「その点も問題だとお考えですか」
難波:「そのような状況で、どうやってあの調査報告やその数値が出てきたのか、そこが私には理解できません。私は病腎移植にからんだ患者の全員について、いろんな先生や看護師、技師さんの協力を得て、患者の生存、死亡、現在の体調などのデータを持っていました。手術室とか病理の受付台帳は永久保存で、破棄されません。メインのカルテが破棄されていても、これらが残っているということを知っている人は、病院の中でも少ないはずです。そこまでして調査をおやりになったのかどうか、その辺がさっぱり分かりません」
弁護士1:「病腎移植の成績を健康な生体腎の移植成績と比較することについては、どう思われますか」
難波:「まあ、全く健康な腎臓を移植しているわけじゃないですから。病腎移植はもともとの発想が健康な腎臓ドナーが足りないのを補うために第3の移植として、質は落ちても病気の腎臓が使えるんじゃないか、という発想でやられているんだから…。だから代用品が本物より悪いという比較をしても意味がないですね。
弁護士1:「比較するとしたら」
難波:「それは、欲しくても手に入らない死体腎との生存率曲線を比較するのが妥当だと思います」
弁護士1:「この高原さんがされた解析の、科学的な価値についてはどうお考えですか」
難波:「ほとんど価値がないです。現にこの論文を引用した他の論文は、現在のところ一つも見つかりません。世界中から無視されています。
25件のうち悪性腫瘍は11例しかありません。しかも、それは1年や2年で行われたんじゃなくて、市立宇和島病院では1993年から11年掛かってやっているわけです。その間にも、医療をサポートする技術はどんどん進歩しています。これだけ期間が長いと、多数の症例を扱うのなら意味がありますが、非常に少数の症例を比較しても、科学的にはほとんど意味がないですね。研究初期の医療環境と末期のそれが大きく違いますから、統計処理にも無理があります」
弁護士1:「成績を解析するにはどうするべきだったと思われますか」
難波:「できるだけ症例数を増やすことですね。1991年から2006年までに少なくとも42件が行われたことは、はっきりしているんだから、プールというか母数を増やすべきだったと思います」
弁護士1:「高原さんの解析というのは、腎移植移植の禁止という意味から言えば、どういう意味をもつものだったとお考えですか」
難波:「それは、どなたもお分かりのように、日本移植学会にスケジュールがあって、3月31日の年度内に4学会か5学会の共同声明を発表して、それで、午前中の大島証人がお認めになりましたように、厚労省の外口健康局長とタイアップして禁止する方向に進んだわけですから。一応、その前に厚労省で記者会見をして、翌31日に四学会のお墨付きの共同声明を出して、それを受けて厚労省が動くというシナリオがあったんでしょうね。だから、ご本人を前にして失礼ですけど、高原先生はまあ露払いというか、そういう役をなさったんじゃないですか」
弁護士1:「腎移植移植の成績という意味で言えば、それを否定する根拠になっていると」
難波:「ああ、もちろんそうですね。悪い医療だということが証明されたものとして、科学的な演出をしたんじゃないですか」
弁護士1:「客観的には高原さんの解析というのは、修復腎移植の成績が悪いという点で、学会声明を支える根拠になるわけですか」
難波:「おっしゃるとおりです。わざわざ一日前に、記者会見をやったというのは、学会声明との論理的整合性を持たすような、根拠となるデータが必要だったからだと思います」
弁護士1:「高原さんの解析結果を根拠として学会の声明が出され、それを基にして厚労省の禁止措置がとられたということですか」
難波:「はい、そういうことです」
2月初め以来のSTAP騒動に相当の時間が取られたので、肝心な「修復腎移植」問題への取り組みがおろそかになった。これも6月には最終公判を迎え、9月には判決が出る見通しだ。裁判長が和解を勧告するかどうかはわからない。
ここに3月18日に松山地裁で行われた裁判で、原告(患者側)の証人として私が行った陳述を、各種書面と記憶に基づいて再現する。この日は午前中に大島伸一被告(元日本移植学会副理事長)、午後に光畑直喜医師(泌尿器科部長、呉共済病院副院長)と私の証言が行われた。この日は被告高原史阪大教授(日本移植学会現理事長)が初めて法廷に姿を見せ、被告席に着席した。腰巾着の吉田克法奈良医大教授は傍聴席の後に、隠れるようにして坐っていた。「弁護人1」は岡山市の光成卓明弁護士である。
この連載では、2006年当時の日本移植学会の予断と偏見により、一方的なメディア・バッシングが行われ、日本の移植医療を改善するよい機会が失われたことを、完膚無きまでに明らかにする予定である。弁護士の先生方、法廷闘争の障害になるのであれば、ご一報下さい。
<1.病腎移植との関わり>
弁護士1:「証人は新聞記事を見るまで、修復腎移植との関わりはなかったのですね」
難波:「おっしゃるとおりです。2006年11月6日の新聞に大々的に報じられたので、びっくり仰天いたしました」
弁護士1:「では第三者として純粋に医学的な関心から、調査や論評をしてこられたとお聞きしてよろしいですか」
難波:「はい、私はそう考えています」
弁護士1:「文献検索をいろいろされた旨の記述がありますが、これはどういう方法でされたのですか」
難波:「2段階でやりました。第1段は、米NIHのパブメド(PubMed)というネットで公開されている医学データベースをパソコンで検索して、「病気の腎臓を使った腎移植」に関する世界各国語の最新の文献を入手しました。全部英訳されているので、少なくともタイトルと抄録は読めます。コピーを入手してまずそれを読みました」
弁護士1:「それが第1段目の検索ですか」
難波:「ええ、新しいものを集めるのが第1段です。論文を読むと病気腎移植のことが書いてあれば、必ず引用文献番号をつけて論文末に引用文献が書いてあります。1つの論文に関連する症例が5例なり10例なりあるとすると、その報告論文が引用文献に書いてありますので、それらを取り寄せ、また引用文献をチェックします。それをまた過去に遡って文献請求します。これが第2段階です。
取り寄せた過去の論文を読み同じ作業を繰り返すと、網をかけるように過去の「病腎移植」例が発掘できます。これは「芋ずる検索」といい、コンピュータでは一つの言葉でしかデータ検索ができませんから「あいまい検索」ができないのです。人間の眼で読みながらたどっていくと、ああ、言葉は違うけどこの症例とこの症例は同じ病気について言っているんだな、ということが分かります。そうやって1950年頃まで遡って、400くらいの文献を集め、ひとつひとつ吟味しました」…
<2.高原報告の疑惑>
弁護士1:「これは『国外における病腎移植の研究に関する調査』で、高原さんによる厚労省への研究報告書ですが、ご覧になりましたか」
難波:「ええ読んでおります」
弁護士1:「これは高原さん、湯澤さんがトランスプランテーション・プロシーディングスという雑誌に寄稿された論文ですが、これも読まれていますね」
難波:「はい、市立宇和島病院の病気腎移植25例の予後が悪いという趣旨の論文です」
弁護士1:「この厚労省に対する報告書、それからこの雑誌論文を読まれて、報告あるいは解析そのものではなく、論文自体の問題もあるとお考えですか」
難波:「はい、そう思います。2007年度の報告書で、提出日は08年5月です。問題の英語論文は報告書にはin press(印刷中)となっています。常識的に考えて2008年のうちに雑誌掲載となるはずです。ところが08年末にネットでデータ検索したときには見つけられませんでした。09年にも見つからなかった。見つけたのは2012年の7月頃です。取りよせて見ると、08年に印刷中だったものが、2010年にやっと出版されているので驚いたのです。普通そんなことないです。in pressというと受理されて印刷中という意味です。そうじゃなくて投稿中ならsubmittedと書きます。投稿準備中ならin preparationと書くものです。それがサイエンスの常識です」
弁護士1:「それ以外に、市立宇和島病院のデータだけを用いた理由についての論文の説明に疑念を表明されていますね」
難波:「英語論文にはいくつかのウソがあります。一つは市立宇和島病院、宇和島徳洲会病院、呉共済病院の3病院で病腎移植が行われたが、市立宇和島病院だけがカルテ(医療記録)の保存が完璧で、他の病院では破棄されていたと書いている点です。事実は逆で2病院ではカルテの保存が完璧だったのに、市立宇和島ではほとんどが廃棄されていたのです。
二つ目は倫理委員会のことで、他の2病院にはこれがなかったとありますが、呉共済にはちゃんとありました。だからデータがなかったから使えなかったという英語論文の記載は虚偽だと私は思います」
弁護士1:「高原さんが07年3月に発表した解析結果と論文報告での数値が違うんじゃないか、と言っておられますが」
難波:「はい。07年3月30日に行われた厚労省での高原発表については、翌日の各紙が報道していますが、一番数値が分かりやすかったのは読売の記事です。それに報じられた患者の生存率などの数値と2010年の英文論文の数値は明らかにちがいます」
弁護士1:「数値が違っていて、そのことの説明がないということですか」
難波:「生存率についていうと、高原発表の時点(2007/3)から論文発表(2010/1)まで3年くらい経っています。その間に新たに独自の追跡調査をされたのであれば、数値が変わることがあってもおかしくないのですが、そのことは論文に書いてありません。ですから元データを英語に直しただけだというふうに解釈するのが普通です。しかし、それだと数値が違うことの説明がつかない。元データは同じで解析法が変わったのか、あるいは数値そのものが変えられたのか、そこは私も…、」
弁護士1:「その点も問題だとお考えですか」
難波:「そのような状況で、どうやってあの調査報告やその数値が出てきたのか、そこが私には理解できません。私は病腎移植にからんだ患者の全員について、いろんな先生や看護師、技師さんの協力を得て、患者の生存、死亡、現在の体調などのデータを持っていました。手術室とか病理の受付台帳は永久保存で、破棄されません。メインのカルテが破棄されていても、これらが残っているということを知っている人は、病院の中でも少ないはずです。そこまでして調査をおやりになったのかどうか、その辺がさっぱり分かりません」
弁護士1:「病腎移植の成績を健康な生体腎の移植成績と比較することについては、どう思われますか」
難波:「まあ、全く健康な腎臓を移植しているわけじゃないですから。病腎移植はもともとの発想が健康な腎臓ドナーが足りないのを補うために第3の移植として、質は落ちても病気の腎臓が使えるんじゃないか、という発想でやられているんだから…。だから代用品が本物より悪いという比較をしても意味がないですね。
弁護士1:「比較するとしたら」
難波:「それは、欲しくても手に入らない死体腎との生存率曲線を比較するのが妥当だと思います」
弁護士1:「この高原さんがされた解析の、科学的な価値についてはどうお考えですか」
難波:「ほとんど価値がないです。現にこの論文を引用した他の論文は、現在のところ一つも見つかりません。世界中から無視されています。
25件のうち悪性腫瘍は11例しかありません。しかも、それは1年や2年で行われたんじゃなくて、市立宇和島病院では1993年から11年掛かってやっているわけです。その間にも、医療をサポートする技術はどんどん進歩しています。これだけ期間が長いと、多数の症例を扱うのなら意味がありますが、非常に少数の症例を比較しても、科学的にはほとんど意味がないですね。研究初期の医療環境と末期のそれが大きく違いますから、統計処理にも無理があります」
弁護士1:「成績を解析するにはどうするべきだったと思われますか」
難波:「できるだけ症例数を増やすことですね。1991年から2006年までに少なくとも42件が行われたことは、はっきりしているんだから、プールというか母数を増やすべきだったと思います」
弁護士1:「高原さんの解析というのは、腎移植移植の禁止という意味から言えば、どういう意味をもつものだったとお考えですか」
難波:「それは、どなたもお分かりのように、日本移植学会にスケジュールがあって、3月31日の年度内に4学会か5学会の共同声明を発表して、それで、午前中の大島証人がお認めになりましたように、厚労省の外口健康局長とタイアップして禁止する方向に進んだわけですから。一応、その前に厚労省で記者会見をして、翌31日に四学会のお墨付きの共同声明を出して、それを受けて厚労省が動くというシナリオがあったんでしょうね。だから、ご本人を前にして失礼ですけど、高原先生はまあ露払いというか、そういう役をなさったんじゃないですか」
弁護士1:「腎移植移植の成績という意味で言えば、それを否定する根拠になっていると」
難波:「ああ、もちろんそうですね。悪い医療だということが証明されたものとして、科学的な演出をしたんじゃないですか」
弁護士1:「客観的には高原さんの解析というのは、修復腎移植の成績が悪いという点で、学会声明を支える根拠になるわけですか」
難波:「おっしゃるとおりです。わざわざ一日前に、記者会見をやったというのは、学会声明との論理的整合性を持たすような、根拠となるデータが必要だったからだと思います」
弁護士1:「高原さんの解析結果を根拠として学会の声明が出され、それを基にして厚労省の禁止措置がとられたということですか」
難波:「はい、そういうことです」
2012年2月14日。