1.【宇和島市における医療監査】
06年10月24日と11月21~22日の延べ4日間にわたり, 厚労省保険局医療課,愛媛社会保険事務局,愛媛県長寿介護課は合同して,宇和島徳洲会病院に対して保険医療上の診療報酬請求に不正または不当の疑いがあるとして合同監査を行った。根拠法令は「健康保険法」78条, 「船員保険法」28-5, 「国民健康保険法」45-2, 「老人保健法」31条である。10月24日の監査は「腎臓売買」事件がらみ11月の監査は「病腎移植」がらみであった。
監査場所は宇和島徳洲会病院で,監査会場として大小2箇所の会場を用意させられ,監査対象として病院開設者,管理者,保険医その他のスタッフ全員が指定されたため,監査期間中の病院機能は麻痺した。
この時にチェックされた書類は,診療録,介護記録などである。
厚労省からは「医療指導監査室」の室長,室長補佐および3名の「特別監査官」が出席した。特別監査官の一人が住友克敏であった。奇妙なことに,この厚労省監査団には日本移植学会理事の寺岡 慧東京女子医大教授(日本臓器移植ネットワーク理事)と原史朗阪大教授(現日本移植学会理事長)が同行していた。
医師で政治学者の小久保亜早子氏が「日本医事新報」に掲載した論文で指摘しているように,日本移植学会は厚労省に政治的圧力をかけ,宇和島徳洲会病院の診療報酬請求に多くの不正を発見させることで,巨額の不正請求額返還を命令し,保険医療指定機関の取り消しと万波医師らの保険医登録の取り消しをねらったのである。
厚労省本省の立入監査はどのような法的根拠に基づいてなされたのだろうか? 関連法令は「健康保険法」,「船員保険法」,「国民健康保険法」,「老人保健法」の4つがある。
2. 【医療監査の根拠法令と監査官の権限】
「健康保険法」78条は「保険医療機関又は保険薬局の報告等」について定めたもので,
「第七十八条 厚生労働大臣は,療養の給付に関して必要があると認めるときは,保険医療機関若しくは保険薬局若しくは保険医療機関若しくは保険薬局の開設者若しくは管理者,保険医,保険薬剤師その他の従業者であった者(以下この項において「開設者であった者等」という。)に対し報告若しくは診療録その他の帳簿書類の提出若しくは提示を命じ,保険医療機関若しくは保険薬局の開設者若しくは管理者,保険医,保険薬剤師その他の従業者(開設者であった者等を含む。)に対し出頭を求め,又は当該職員に関係者に対して質問させ,若しくは保険医療機関若しくは保険薬局について設備若しくは診療録,帳簿書類その他の物件を検査させることができる。
2 第七条の三十八第二項及び第七十三条第二項の規定は前項の規定による質問又は検査について,第七条の三十八第三項の規定は前項の規定による権限について準用する。」と定めている。従ってこれは立入監査の法的根拠を正当に示しているといえる。
「船員保険法」28条は単一条文で第5項はなく,「第二十八条 厚生労働大臣は,協会に対し,厚生労働省令で定めるところにより,被保険者の資格に関する事項,標準報酬に関する事項その他協会の業務の実施に関して必要な情報の提供を行うものとする。」となっている。この「協会」とは「健康保険法」にいう「全国保険協会」をいう。同法の該当条文は,「(診療録の提示等)第四十九条 厚生労働大臣は,保険給付を行うにつき必要があると認めるときは,医師,歯科医師,薬剤師若しくは手当を行った者又はこれを使用する者に対し,その行った診療,薬剤の支給又は手当に関し,報告若しくは診療録,帳簿書類その他の物件の提示を命じ,又は当該職員に質問させることができる。」であり,正しくは「第49条」と書くべきところを「28条の5」と誤記したものである。なお49条は4項まである。
「2. 厚生労働大臣は,必要があると認めるときは,療養の給付又は入院時食事療養費,入院時生活療養費,保険外併用療養費,療養費,訪問看護療養費,家族療養費若しくは家族訪問看護療養費の支給を受けた被保険者又は被保険者であった者に対し,当該保険給付に係る診療,調剤又は指定訪問看護(健康保険法第八十八条第一項に規定する指定訪問看護をいう。以下同じ。)の内容に関し,報告を命じ,又は当該職員に質問させることができる。
3. 前二項の規定による質問を行う当該職員は,その身分を示す証明書を携帯し,かつ,関係者の請求があるときは,これを提示しなければならない。
4. 第一項及び第二項の規定による権限は,犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。」
「国民健康保険法」45条の2とは,「保険医療機関等の報告等」を定めたもので,
「第四十五条の二 厚生労働大臣又は都道府県知事は,療養の給付に関して必要があると認めるときは,保険医療機関等若しくは保険医療機関等の開設者若しくは管理者,保険医,保険薬剤師その他の従業者であつた者(以下この項において「開設者であつた者等」という。)に対し報告若しくは診療録その他の帳簿書類の提出若しくは提示を命じ,保険医療機関等の開設者若しくは管理者,保険医,保険薬剤師その他の従業者(開設者であつた者等を含む。)に対し出頭を求め,又は当該職員に関係者に対して質問させ,若しくは保険医療機関等について設備若しくは診療録,帳簿書類その他の物件を検査させることができる。
2. 前項の規定による質問又は検査を行う場合においては,当該職員は,その身分を示す証明書を携帯し,かつ,関係人の請求があるときは,これを提示しなければならない。
3. 第一項の規定による権限は,犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
4. 第四十一条第二項の規定は,第一項の規定による質問又は検査について準用する。
5. 都道府県知事は,保険医療機関等につきこの法律による療養の給付に関し健康保険法第八十条の規定による処分が行われる必要があると認めるとき,又は保険医若しくは保険薬剤師につきこの法律による診療若しくは調剤に関し健康保険法第八十一条の規定による処分が行われる必要があると認めるときは,理由を付して,その旨を厚生労働大臣に通知しなければならない。」となっており,厚労省だけでなく県にも医療機関等への立入監査権を認めたものである。
「老人保健法」31条は「保険医療機関等の報告等」を規定しており,
「第三十一条 厚生大臣又は都道府県知事は,医療に関して必要があると認めるときは,保険医療機関等若しくは保険医療機関等の開設者若しくは管理者,保険医等その他の従業者であつた者(以下この項において「開設者であつた者等」という。)に対し報告若しくは診療録その他の帳簿書類の提出若しくは提示を命じ,保険医療機関等の開設者若しくは管理者,保険医等その他の従業者(開設者であつた者等を含む。)に対し出頭を求め,又は当該職員に関係者に対して質問させ,若しくは保険医療機関等について設備若しくは診療録,帳簿書類その他の物件を検査させることができる。
2.前項の規定による質問又は検査を行う場合においては,当該職員は,その身分を示す証明書を携帯し,かつ,関係人の請求があるときは,これを提示しなければならない。
3.第一項の規定による権限は,犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
4.第二十七条第二項の規定は,第一項の規定による質問又は検査について準用する。」,
となっている。従ってこれも立入監査を合法化するものである。
これら4法のうち,大正11年成立の「健康保険法」と昭和14年成立の「船員保険法」では他の2法が「県知事」にも立入監査権を認めているのに対して,厚生労働大臣のみに監査権限を付与している。愛媛県知事が処分に反対しているなかで,宇和島徳洲会病院と修復腎移植関係医師の処分を行うには,愛媛社会保険局単独では無理で,厚労省保険局医療課指導監査室がイニシアチブを取らざるをえず,「国および愛媛県による共同監査」というかたちを取ったものと考えられる。
その他にもこれらの根拠法令には疑問点が多い。
11月の監査は「10月に中断した監査の再開」として根拠法令を再提示することなく行われている。10月の監査は「腎臓売買」事件がらみ, 11月の監査は「病腎移植」がらみであり, 監査目的も根拠法令も異なる。それを「前回の監査の再開」として行うのはおかしい。
この厚労省主導の監査においては,寺岡 慧日本移植学会理事長(当時)と原史朗同学会理事(当時)が立ち会い,修復腎移植に関して医師に対して極めて専門的な質問を行っているが,監査通知書には両人の氏名の記載がない。また両人とも自己紹介を行っていない。そもそも関係人に質問できるのは「当該職員」であることを,健康保険法,船員保険法,国民健康保険法,老人保健法ともに規定しており,東京女子医大の寺岡 慧と阪大教授の原史朗は厚労省の職員ではなく,「当該職員」にあたらない。従って彼らには立ち会う権利も質問する権利も認められない。
にもかかわらず関係医師たちは二人の質問に答えさせられ,その回答が調書として作成され,署名させられている。コピーを要求したら,拒否されたという。後日その調書を見ると,前のものと内容が変わっており,署名すべき箇所にサインのコピーが貼り付けられていた。監査室長は阿部重一という医系技官であったが,専門的質問はまったくせず,もっぱら寺岡と原が担当した。医師の「弁明調書」に改ざんが行われたとすれば,阿部にはその能力がなく,「医学医療の専門家」が関与した可能性がある。
寺岡と原の行為は「身分詐称」であり,「文書偽造」であり,ともに犯罪行為である。さらに移植学会幹部がいかに厚労省の処分担当部局と癒着していたかを物語る。「監査権は犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない」と法条文に明記してあるにもかかわらず,彼らは修復腎移植に関係した医師たちを,一種の犯罪者として見なしていたのである。
厚労省事務官が行った調書の書き換え並びに署名の捏造は,「文書偽造」であり,これも犯罪行為である。これに対しては「情報公開法」に基づき問題の調書の閲覧と写真撮影を申し立てるべきである。調書に元のサインのコピーを切り抜いて貼り,再コピーした場合は,原本への直接サインと区別しにくいが,原本を閲覧すれば一目瞭然であり,斜め方向から撮影すれば別な紙が貼り付けられている状態を写真に記録できる。
公務員による「調書」の改ざんが証明されるなら,これは重大な犯罪である。
2007年3月31日に日本移植学会など4学会が「病腎移植を全面否定する共同声明」を発表すると,厚労省はただちにこの内容を新たなガイドラインとして,局長通達を出す準備に入った。これと並行して5月17日に宇和島徳洲会病院に対して3度目の「共同監査」を行い,6月21日には4度目の共同監査を行った。この4回に渉る異例の監査には本省の住友克敏特別監査官が一貫して参加していた。「病腎移植」を禁止する改正ガイドラインが6月末にまとまり,パブリックコメントの聴取が7月末に終了すると,厚労省は8月末に宇和島徳洲会病院に対して約1億円(うち移植関係費3000万円)の返還を求める方針を明らかにした。
翌08年2月上旬には,厚労省と愛媛社会保険事務局は,同病院の保険医療機関の指定取り消し,万波医師と小島医師の保険医登録の取り消しを行うという方針を明らかにした。これをやられると,次は医師の犯罪を裁く「医道審議会」が待っており,「死刑」にあたる「医師免許抹消」につながる公算が大きい。
3.【宇和島徳洲会病院に対する聴聞会】
かくて,2008年2月25日午前,松山市の愛媛社会保険事務局の会議室で,同事務局は宇和島徳洲会病院に対する処分内容を伝える「聴聞会」を「行政手続法」第13条に基づき開催した。同法の規定によると行政上の不利益処分を科すにあたっては行政庁の主催者(主宰者)が「聴聞会」を開き,被聴聞者への説明とそれに対する質問に答えなければならないとされている。他の行政庁の職員は聴聞会に出席できない。この時点では社会保険庁はまだ存続しており,厚労省保険局とは別の行政庁であった。午後には万波医師ら2名の医師に対する聴聞会が予定されていた。
午前10時から始まった聴聞会の「主宰者」は愛媛社会保険事務局総務課長,「説明・「質問回答者」は同局保健課医療参事官2名,同局指導医療官,同局医療事務指導官2名,同局医療係長,同局医療事務専門官,同局総務課専門官(司会)の他に,厚労省本局から「保険局・医療課・医療指導監査室・特別監査官」の住友克敏がいた。06年10月から07年6月まで4度に渉り,宇和島徳洲会病院の医療監査を行った男である。
住友特別監査官は,宇和島徳洲会病院だけでなく,市立宇和島病院への医療監査も率先して行った役人で,同病院でカルテ破棄が異常に多いのを知り,「こんな病院,潰してやる!」と大声を張り上げ,同僚に宥められている。
聴聞会では司会がまず主宰者が総務課長であり,処分内容と理由の説明者が大森参事官であることを説明し,ついで被聴聞者への質問に答える担当者4名の官職・氏名を紹介したが,その際に厚労省の住友克敏の肩書と氏名を第一番に上げた。住友克敏は厚労省保険局の職員であり,「愛媛社会保険事務局」の職員ではない。このことは被聴聞者代理人に絶好の反論の機会を与えた。
住友氏は,「行政手続法」第20条にいう当該行政庁の職員でなく,従って質問に答える権限はおろか聴聞会への出席資格すらなく,聴聞会自体が違法であると,敏腕な徳洲会弁護団の光成卓明弁護士は鋭く指摘し,住友特別監査官に出席の継続を認めるかどうかで,主宰者側は大混乱に陥り,聴聞会は何度も中断された。
結局,住友克敏の退出で聴聞会は再開されたが,主宰者が「違法な聴聞会であった」ことを認めず,この論議に多くの時間が費やされ,結局聴聞会は成立せず,5月19日にあらためて開催されることになった。その際明らかになったことは,①処分の証拠書類は07年5月の3回目の病院立ち入り調査の後,5月21日と22日に大部分が作成されており,その後間もなく社会保険事務局に送付されていたということ,②愛媛社会保険事務局は08年2月4日付で宇和島徳洲会病院へ処分通知を送付したこと,③新たな聴聞会の日程について「私共としては…あんまり遅いと政府の方から…。3月中くらいに決めていただけると…。」と主宰者が発言しており,厚労省から年度内決着を迫られていたこと,という3点だった。
愛媛社会保険事務局は懲戒に関わる証拠書類を07年7月には厚労省から送達されていながら,加戸県愛媛知事が処分に猛反対していること等の事情があり,問題を先送りし,年度末を前にして厚労省本局から尻を叩かれ,やむなく聴聞会の開催に踏み切った。しかし「当該行政庁」のスタッフだけでは聴聞会が無事乗り切れるかどうか不安があり,本省からベテランの住本特別監査官の派遣という事態になったものと思われる。
こういう背景があるので,聴聞会の開催は「厚労省保険局・特別監査官」の住友克敏が不在では不可能であり,5月の聴聞会は無期延期となった。古本大典愛媛社会保険事務局長も転勤となり,社会保険庁自体も「消えた年金」問題などの不祥事が重なり,09年末で廃止された。愛媛社会保険事務局も廃止され,厚労省の地方局として「中国四国厚生局」(広島市)が設置された。このことは今後, 中国四国9県に対して同一基準による医療指導が行われることを意味する。従って法的には「無期延期」だが,松山と異なり広島では「病腎移植」に対して病院にも医師にも処分が行われておらず,実質「処分中止」と見るべきだろう。厚労省という権力を政治的に利用し,「病腎移植」を処罰しようとした移植学会理事長寺岡 慧と理事原史朗の企図は挫折したのである。
4.【下着泥棒から住友課長補佐の贈収賄事件発覚へ】
08年9月, 住友克敏特別監査官は聴聞会での失策にもかかわらず,本省の国際年金課長補佐に昇任した。
話は変わるが, 09年4月大阪で,ある中年の男が自分の所有するマンションに住む,若い女性の部屋へ下着を盗む目的で侵入し, 警察に逮捕された。男は佃 章則(55)といい(株)「シンワメディカル」というコンタクトレンズ販売会社の社長だった。住居不法侵入の疑いで家宅捜査すると,厚労省保険局・医療課幹部との関係が明らかになってきた。コンタクトレンズ販売会社の多くは眼科診療所(CL診療所)を併設している。コンタクトレンズ購入時に顧客に眼科を受診させることで,診療報酬を稼ぐことができるからである。
厚労省は06年4月CL診療所の診療報酬を改定し,基準を厳格化した。当時, 医療課・医療指導監査室・特別監査官だったこの男は,その前の2月に「シンワメディカル」の社長にメールを送り,「地方社保事務局から指導を受けたら連絡して欲しい。こちらで事務局を指導しますから」と持ちかけ,賄賂を請求するようになった。これに応じたのは佃 章則社長と弟の同社取締役佃 政弘(47)である。贈収賄の期間は佃が逮捕される10年4月までで,総金額は約3,000万円に及ぶと見られている。その他に携帯電話の貸与,タクシー券の贈与がある。この特別監査官は連日のようにタクシーで帰宅していたという。
この課長補佐は08年2~9月に「シンワCL診療所」が医療監査の対象となるのを免除させるために,便宜を図った見返りとして複数回にわたり,現金約1,000万円をシンワから受け取った容疑が固まり,大阪府警捜査2課はこの課長補佐を大阪地検に送検し、同地検は10月15日「150万円の収賄罪」で起訴した。この事典で課長補佐は起訴休職となった。同捜査2課は、男の再逮捕を10月19日にも行なった。上記3,000万円は銀行口座振込額であり,別に現金1,000万円も受け取っていたのである。容疑はこの現金約1,000万円の収賄である。
この不埒な男が06年10月から4回に渉り宇和島徳洲会病院を監査し,同病院の保険診療取り消しと万波医師ら2名の保険医指定取り消しの根拠書類を作成し,厚かましくも08年2月25日の愛媛社会保険事務所での聴聞会に出席し,弁護団の追求にあい退去せざるをえなかった住友克敏(50)である。住友は高卒で79年, 当時の社会保険庁にノンキャリとして入庁している。現時点で彼は逮捕され身柄を大阪地検に送致されており,裁判で有罪が決まったわけではないので,「推定無罪」の原則は貫かれなければならない。その後、起訴休職中の住友は2010年12月10日、厚労省を懲戒免職となった。
一方で,多くが無用な診療であるCL診療所の過剰診療に便宜を図りながら,他方では愛媛県の診療の30%を占める宇和島の二つの病院を潰そうと企図し,多くの人命を救助し,これからも助けるであろう, 有能な二人の医師を抹殺することを平然と実行しようとしていたことは,許すことができない。
最大の疑問はなぜ住友容疑者が「特別監査官」という厚労省の地位を利用して,私企業「シンワメディカル」と一種の顧問関係を結ぶに至ったかという点であるが,どのメディアもこれを調査報道していない。
天道是か非か。天網恢々疎にして漏らさず。これで厚労省保険局医療課は致命的打撃を受けた。残るは医療監査の先導役を務めた寺岡日本移植学会理事長と原史朗であろう。
最新の日本移植学会会員名簿によると田中紘一(元移植学会理事長)は評議員から姿を消しており退会したと見られる。ネット情報によると,愛人だという噂もある山田貴子と神戸の「先端医療研究所」付近に「田中クリニック」を開業し,セカンドオピニオンと移植医療機関の紹介業を始めている。これも京大教授,日本移植学会理事長,先端医療研究所所長を務めた人物としては異例である。
その後の情報によると、田中は海外の金持ちレシピエントを対象とした営利目的の「国際移植センター」を神戸市に設立しようと企図し、神戸市医師会と兵庫県医師会の猛反対を受けて計画が挫折し、ビル開業をやむなくされたという。彼もまた「言うこととやることが異なる偽善者」である。
04年に名古屋に設立された「国立長寿医療センター」の総長に就任した大島伸一(元移植学会副理事長)は,10年度4月からの独立行政法人への移行に伴い,厳しい応対を余儀なくされている。最近では、「(病腎移植騒ぎの)当時は少し感情的になっていた…」と反省の弁ももらすそうだ。
大島=外口会談の外口 崇健康局長は慶応大医卒で07年医制局長をへて09年6月に保険局長に就任しており, 将来の次官が目されるエリート技官だが,彼の身にも事件は波及するであろう。
「病腎移植」を「悪い医療」と決めつけ,行政とマスコミを利用して葬り去ろうとした関係者の未来は決して明るくない。マスコミも同様だ。昨年の千葉での「臨床腎移植学会」での光畑医師の発表に,演題とは無関係な誹謗中傷を行い名誉毀損罪で訴えられた准教授を出した岐阜大学では,今年度同学会を開催するに当たり,演題締切後,光畑医師に「演題応募」を依頼して来たという。彼のところには「病気腎(修復腎)移植」後20年にわたり生着・生存中という日本一の記録をもつ患者がいる。(2010/10/16記)
5.【移植学会の巻き返し】
「修復腎移植の臨床研究」が2011年10月5日に第10例目を終えると、徳洲会は10月末に「先進医療」としての認定を求める申請を厚労省に対して行った。全例、移植腎は即時機能しており、レシピエントは透析から離脱できている。最長22ヶ月の追跡でも拒絶は生じていない。死体腎を凌駕し、生体腎並みの効果があるのは明瞭である。しかし、これを認めたくない日本移植学会は、「好成績」を知りこのままでは認可されると知ると、悪辣な妨害手段に出た。
まず第一は、07年3月、「五学会共同声明」で足並みを揃えた日本透析学会、日本泌尿器科学会、日本腎臓学会、日本臨床腎移植学会(高橋公太理事長=新潟大学教授)に働きかけ、「修復腎移植を先進医療として認めないように」という「協同要望書」を小宮山厚労大臣宛に、2012年2月16日付で提出したのである。また、泌尿器科学会がいう「小径腎癌の標準治療は部分切除であり、全摘を前提とする修復腎移植は認められない」とする意見を支持するデータの提示を、厚労省が求めたところ、これを拒否した。(実際は存在しないから、提出できなかった。)
そこで厚労省は徳洲会の申請書を初めは3月の審議会に掛ける予定であったが、一旦差し戻し(「返戻(へんれい)」と役所用語ではいう),その間に主な国立、公立病院に独自アンケート調査を実施した。これを「戦果」と勘違いした移植学会は、第二の「深追い策」に出た。
6月30日に市立宇和島病院における「診療報酬返還金1億5,000万円」の請求時効が来るのを、政治家の圧力で何とか防ごうと、かねてから修復腎移植に反対していた「みんなの党」所属、山内康一(衆院, 当選2回)を通じて、「国会議員勉強会」を開催しアピールしようと計画したのである。
会合は6月26日、衆議院第2議員会館第8会議室で15:05~16:15の70分間開かれた。移植学会からは剣持敬理事(千葉東病院臨床研究センター)、広報委員福嶌教偉(大阪大学移植医療部, 心臓外科)、同吉田克法(奈良県立医大泌尿器科透析部)が参加した。ちょうど、国会は衆議院本会議で「消費税増税法案」の採決が行われている時期であり、議員の出席は「修復腎支持派」6名(衛藤晟一、佐藤信秋、古川俊治、阿部知子、長谷川岳、徳田毅)、反対派2名(山内康一、梅村聡)、秘書の代理出席、マスコミ関係者を含め総数22名にとどまった。
主に発言したのは移植学会からは福嶌教偉である。福嶌は「移植についての勉強会」と称しておきながら、実際には、1)市立宇和島病院は1億5,000万円の診療報酬不正請求があるにもかかわらず、厚労省は返還請求をしていない。宇和島市議会は07年度に、返還のための補正予算を可決しているのに、国はどうして請求しないのか、このままでは6月30日に時効を迎える、2)宇和島徳洲会病院でも同様な診療報酬不正請求があったが、「聴聞会」が中断したままになっている。
診療報酬の不正請求が行われた場合には、「行政処分としては保険医療の機関の指定の取消。又は保険医等の登録の取消」を行うのが当然である。処分は「不正請求に関しては医業停止3ヶ月というのが科せられるというのが常識的である」と2病院の医業停止と修復腎移植に関係した万波誠医師らの保険医登録の取消を迫ったのである。
「聴聞会中断」のいきさつを知る厚労省担当官は困り果てて、移植学会の問い合わせに対して「個別事案に関しては本省としては答えられない」と回答している。高原=福嶌は「知らぬが仏」、大阪のコンタクト眼科汚職事件の主役住友克敏がその原因だとは気づいていないのである。
この福嶌の「役人もどき」発言を聞いた長谷川議員が憤激し、「今日はこれだけの話ですか?こういう話だったら厚労省の方からレクチャーを受ければ十分にわかる話。どうも個々の病院攻撃という感はぬぐえない」と前置きして、「勉強会の趣旨から、移植医療に対する国民の不信感が増大したのはなぜか、色々考えたのですけども、移植が行われた当時、「病腎移植は医学的根拠なし。容認できない」と2007年に移植学会が声明を出しているわけです。ところが去年の11月28日に、学会から恐らく高原理事長が参加されたであろう、ブエノスアイレスでの国際臓器提供確保学会で、修復腎移植の臨床研究の演題が、学会賞を受けている。つまりこの5年のうちに、海外でこういった修復腎移植というものが、世の中の大きな世界の流れになりつつある時に、日本の移植学会が世界の流れに、全く追いつこうとしていない。その現状に国民の不信感は増大しているんだ、と私は思いますよ。だからまず世界の流れはどうか、自分たちが出した学会声明は正しかったのかどうか、それを勉強する会だと思いますよ、今日は。しかし、そういう事ではなく個別の話を出してくるというのは、全く勉強会の体をなさない。」と反論して、福嶌の態度を問題とした。
ここでレセプターのない福嶌は、さらに失策をおかした。
「高原理事長は確かにブエノスアイレスに行った。世界の潮流はむしろ小腎癌がある腎移植はやらない方向になっている。ただやっている所もあると思うが、メジャーな病院でやっているということは決してない。ブエノスアイレスでの学会には私も行きましたが、小径腎癌の移植は絶対ない。宇和島の腎臓移植をしたあとの生着率、生存率は、発表しておりますが、普通の腎がんに比べて成績がいいわけではない。腎癌が再発している例もある。事実なんです、それは。それとブエノスアイレスで賞をもらうなんて、最終的には却下されていますから、そういう事にはなってないです。」と見てきたようなウソを述べたのである。
ウソの羅列に激怒した議員たちにやり込められて、福嶌は立ち往生し、理事の剣持が平謝りに謝ってやっと会は散会した。張本人の高原理事長は欠席し、その一の子分である吉田克法准教授は終始、沈黙したままだった。
市立宇和島病院と宇和島徳洲会の医業停止処分、万波誠らの保険医資格取消処分をねらった、学者にあるまじき移植学会幹部らのもくろみは、かくして恥を残して挫折したのである。
【お願い】本文書の一部は裏付けが完全でありません。以下についてご存じの方は情報をお寄せ下さいませんか?
1. 住友暴言の日付と場所
2. 寺岡と原が関係医師に対する聞き取りを行った日付(場所は宇和島徳洲会病院と思います。)
3. 石橋宇和島市長は市立病院の開設者でありながら,「5年間の保険医療指定機関取り消し」という「病院潰し」処分になぜ断固として闘おうとしなかったのか?当時の署名活動の状況から見て,市民の圧倒的支持が予想されたにも関わらず。これは事件の七不思議のひとつです。これと闘わないから「1億5000万円」の診療報酬返還を要求されたので,算盤勘定から見ても合わない行為です。
06年10月24日と11月21~22日の延べ4日間にわたり, 厚労省保険局医療課,愛媛社会保険事務局,愛媛県長寿介護課は合同して,宇和島徳洲会病院に対して保険医療上の診療報酬請求に不正または不当の疑いがあるとして合同監査を行った。根拠法令は「健康保険法」78条, 「船員保険法」28-5, 「国民健康保険法」45-2, 「老人保健法」31条である。10月24日の監査は「腎臓売買」事件がらみ11月の監査は「病腎移植」がらみであった。
監査場所は宇和島徳洲会病院で,監査会場として大小2箇所の会場を用意させられ,監査対象として病院開設者,管理者,保険医その他のスタッフ全員が指定されたため,監査期間中の病院機能は麻痺した。
この時にチェックされた書類は,診療録,介護記録などである。
厚労省からは「医療指導監査室」の室長,室長補佐および3名の「特別監査官」が出席した。特別監査官の一人が住友克敏であった。奇妙なことに,この厚労省監査団には日本移植学会理事の寺岡 慧東京女子医大教授(日本臓器移植ネットワーク理事)と原史朗阪大教授(現日本移植学会理事長)が同行していた。
医師で政治学者の小久保亜早子氏が「日本医事新報」に掲載した論文で指摘しているように,日本移植学会は厚労省に政治的圧力をかけ,宇和島徳洲会病院の診療報酬請求に多くの不正を発見させることで,巨額の不正請求額返還を命令し,保険医療指定機関の取り消しと万波医師らの保険医登録の取り消しをねらったのである。
厚労省本省の立入監査はどのような法的根拠に基づいてなされたのだろうか? 関連法令は「健康保険法」,「船員保険法」,「国民健康保険法」,「老人保健法」の4つがある。
2. 【医療監査の根拠法令と監査官の権限】
「健康保険法」78条は「保険医療機関又は保険薬局の報告等」について定めたもので,
「第七十八条 厚生労働大臣は,療養の給付に関して必要があると認めるときは,保険医療機関若しくは保険薬局若しくは保険医療機関若しくは保険薬局の開設者若しくは管理者,保険医,保険薬剤師その他の従業者であった者(以下この項において「開設者であった者等」という。)に対し報告若しくは診療録その他の帳簿書類の提出若しくは提示を命じ,保険医療機関若しくは保険薬局の開設者若しくは管理者,保険医,保険薬剤師その他の従業者(開設者であった者等を含む。)に対し出頭を求め,又は当該職員に関係者に対して質問させ,若しくは保険医療機関若しくは保険薬局について設備若しくは診療録,帳簿書類その他の物件を検査させることができる。
2 第七条の三十八第二項及び第七十三条第二項の規定は前項の規定による質問又は検査について,第七条の三十八第三項の規定は前項の規定による権限について準用する。」と定めている。従ってこれは立入監査の法的根拠を正当に示しているといえる。
「船員保険法」28条は単一条文で第5項はなく,「第二十八条 厚生労働大臣は,協会に対し,厚生労働省令で定めるところにより,被保険者の資格に関する事項,標準報酬に関する事項その他協会の業務の実施に関して必要な情報の提供を行うものとする。」となっている。この「協会」とは「健康保険法」にいう「全国保険協会」をいう。同法の該当条文は,「(診療録の提示等)第四十九条 厚生労働大臣は,保険給付を行うにつき必要があると認めるときは,医師,歯科医師,薬剤師若しくは手当を行った者又はこれを使用する者に対し,その行った診療,薬剤の支給又は手当に関し,報告若しくは診療録,帳簿書類その他の物件の提示を命じ,又は当該職員に質問させることができる。」であり,正しくは「第49条」と書くべきところを「28条の5」と誤記したものである。なお49条は4項まである。
「2. 厚生労働大臣は,必要があると認めるときは,療養の給付又は入院時食事療養費,入院時生活療養費,保険外併用療養費,療養費,訪問看護療養費,家族療養費若しくは家族訪問看護療養費の支給を受けた被保険者又は被保険者であった者に対し,当該保険給付に係る診療,調剤又は指定訪問看護(健康保険法第八十八条第一項に規定する指定訪問看護をいう。以下同じ。)の内容に関し,報告を命じ,又は当該職員に質問させることができる。
3. 前二項の規定による質問を行う当該職員は,その身分を示す証明書を携帯し,かつ,関係者の請求があるときは,これを提示しなければならない。
4. 第一項及び第二項の規定による権限は,犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。」
「国民健康保険法」45条の2とは,「保険医療機関等の報告等」を定めたもので,
「第四十五条の二 厚生労働大臣又は都道府県知事は,療養の給付に関して必要があると認めるときは,保険医療機関等若しくは保険医療機関等の開設者若しくは管理者,保険医,保険薬剤師その他の従業者であつた者(以下この項において「開設者であつた者等」という。)に対し報告若しくは診療録その他の帳簿書類の提出若しくは提示を命じ,保険医療機関等の開設者若しくは管理者,保険医,保険薬剤師その他の従業者(開設者であつた者等を含む。)に対し出頭を求め,又は当該職員に関係者に対して質問させ,若しくは保険医療機関等について設備若しくは診療録,帳簿書類その他の物件を検査させることができる。
2. 前項の規定による質問又は検査を行う場合においては,当該職員は,その身分を示す証明書を携帯し,かつ,関係人の請求があるときは,これを提示しなければならない。
3. 第一項の規定による権限は,犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
4. 第四十一条第二項の規定は,第一項の規定による質問又は検査について準用する。
5. 都道府県知事は,保険医療機関等につきこの法律による療養の給付に関し健康保険法第八十条の規定による処分が行われる必要があると認めるとき,又は保険医若しくは保険薬剤師につきこの法律による診療若しくは調剤に関し健康保険法第八十一条の規定による処分が行われる必要があると認めるときは,理由を付して,その旨を厚生労働大臣に通知しなければならない。」となっており,厚労省だけでなく県にも医療機関等への立入監査権を認めたものである。
「老人保健法」31条は「保険医療機関等の報告等」を規定しており,
「第三十一条 厚生大臣又は都道府県知事は,医療に関して必要があると認めるときは,保険医療機関等若しくは保険医療機関等の開設者若しくは管理者,保険医等その他の従業者であつた者(以下この項において「開設者であつた者等」という。)に対し報告若しくは診療録その他の帳簿書類の提出若しくは提示を命じ,保険医療機関等の開設者若しくは管理者,保険医等その他の従業者(開設者であつた者等を含む。)に対し出頭を求め,又は当該職員に関係者に対して質問させ,若しくは保険医療機関等について設備若しくは診療録,帳簿書類その他の物件を検査させることができる。
2.前項の規定による質問又は検査を行う場合においては,当該職員は,その身分を示す証明書を携帯し,かつ,関係人の請求があるときは,これを提示しなければならない。
3.第一項の規定による権限は,犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。
4.第二十七条第二項の規定は,第一項の規定による質問又は検査について準用する。」,
となっている。従ってこれも立入監査を合法化するものである。
これら4法のうち,大正11年成立の「健康保険法」と昭和14年成立の「船員保険法」では他の2法が「県知事」にも立入監査権を認めているのに対して,厚生労働大臣のみに監査権限を付与している。愛媛県知事が処分に反対しているなかで,宇和島徳洲会病院と修復腎移植関係医師の処分を行うには,愛媛社会保険局単独では無理で,厚労省保険局医療課指導監査室がイニシアチブを取らざるをえず,「国および愛媛県による共同監査」というかたちを取ったものと考えられる。
その他にもこれらの根拠法令には疑問点が多い。
11月の監査は「10月に中断した監査の再開」として根拠法令を再提示することなく行われている。10月の監査は「腎臓売買」事件がらみ, 11月の監査は「病腎移植」がらみであり, 監査目的も根拠法令も異なる。それを「前回の監査の再開」として行うのはおかしい。
この厚労省主導の監査においては,寺岡 慧日本移植学会理事長(当時)と原史朗同学会理事(当時)が立ち会い,修復腎移植に関して医師に対して極めて専門的な質問を行っているが,監査通知書には両人の氏名の記載がない。また両人とも自己紹介を行っていない。そもそも関係人に質問できるのは「当該職員」であることを,健康保険法,船員保険法,国民健康保険法,老人保健法ともに規定しており,東京女子医大の寺岡 慧と阪大教授の原史朗は厚労省の職員ではなく,「当該職員」にあたらない。従って彼らには立ち会う権利も質問する権利も認められない。
にもかかわらず関係医師たちは二人の質問に答えさせられ,その回答が調書として作成され,署名させられている。コピーを要求したら,拒否されたという。後日その調書を見ると,前のものと内容が変わっており,署名すべき箇所にサインのコピーが貼り付けられていた。監査室長は阿部重一という医系技官であったが,専門的質問はまったくせず,もっぱら寺岡と原が担当した。医師の「弁明調書」に改ざんが行われたとすれば,阿部にはその能力がなく,「医学医療の専門家」が関与した可能性がある。
寺岡と原の行為は「身分詐称」であり,「文書偽造」であり,ともに犯罪行為である。さらに移植学会幹部がいかに厚労省の処分担当部局と癒着していたかを物語る。「監査権は犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない」と法条文に明記してあるにもかかわらず,彼らは修復腎移植に関係した医師たちを,一種の犯罪者として見なしていたのである。
厚労省事務官が行った調書の書き換え並びに署名の捏造は,「文書偽造」であり,これも犯罪行為である。これに対しては「情報公開法」に基づき問題の調書の閲覧と写真撮影を申し立てるべきである。調書に元のサインのコピーを切り抜いて貼り,再コピーした場合は,原本への直接サインと区別しにくいが,原本を閲覧すれば一目瞭然であり,斜め方向から撮影すれば別な紙が貼り付けられている状態を写真に記録できる。
公務員による「調書」の改ざんが証明されるなら,これは重大な犯罪である。
2007年3月31日に日本移植学会など4学会が「病腎移植を全面否定する共同声明」を発表すると,厚労省はただちにこの内容を新たなガイドラインとして,局長通達を出す準備に入った。これと並行して5月17日に宇和島徳洲会病院に対して3度目の「共同監査」を行い,6月21日には4度目の共同監査を行った。この4回に渉る異例の監査には本省の住友克敏特別監査官が一貫して参加していた。「病腎移植」を禁止する改正ガイドラインが6月末にまとまり,パブリックコメントの聴取が7月末に終了すると,厚労省は8月末に宇和島徳洲会病院に対して約1億円(うち移植関係費3000万円)の返還を求める方針を明らかにした。
翌08年2月上旬には,厚労省と愛媛社会保険事務局は,同病院の保険医療機関の指定取り消し,万波医師と小島医師の保険医登録の取り消しを行うという方針を明らかにした。これをやられると,次は医師の犯罪を裁く「医道審議会」が待っており,「死刑」にあたる「医師免許抹消」につながる公算が大きい。
3.【宇和島徳洲会病院に対する聴聞会】
かくて,2008年2月25日午前,松山市の愛媛社会保険事務局の会議室で,同事務局は宇和島徳洲会病院に対する処分内容を伝える「聴聞会」を「行政手続法」第13条に基づき開催した。同法の規定によると行政上の不利益処分を科すにあたっては行政庁の主催者(主宰者)が「聴聞会」を開き,被聴聞者への説明とそれに対する質問に答えなければならないとされている。他の行政庁の職員は聴聞会に出席できない。この時点では社会保険庁はまだ存続しており,厚労省保険局とは別の行政庁であった。午後には万波医師ら2名の医師に対する聴聞会が予定されていた。
午前10時から始まった聴聞会の「主宰者」は愛媛社会保険事務局総務課長,「説明・「質問回答者」は同局保健課医療参事官2名,同局指導医療官,同局医療事務指導官2名,同局医療係長,同局医療事務専門官,同局総務課専門官(司会)の他に,厚労省本局から「保険局・医療課・医療指導監査室・特別監査官」の住友克敏がいた。06年10月から07年6月まで4度に渉り,宇和島徳洲会病院の医療監査を行った男である。
住友特別監査官は,宇和島徳洲会病院だけでなく,市立宇和島病院への医療監査も率先して行った役人で,同病院でカルテ破棄が異常に多いのを知り,「こんな病院,潰してやる!」と大声を張り上げ,同僚に宥められている。
聴聞会では司会がまず主宰者が総務課長であり,処分内容と理由の説明者が大森参事官であることを説明し,ついで被聴聞者への質問に答える担当者4名の官職・氏名を紹介したが,その際に厚労省の住友克敏の肩書と氏名を第一番に上げた。住友克敏は厚労省保険局の職員であり,「愛媛社会保険事務局」の職員ではない。このことは被聴聞者代理人に絶好の反論の機会を与えた。
住友氏は,「行政手続法」第20条にいう当該行政庁の職員でなく,従って質問に答える権限はおろか聴聞会への出席資格すらなく,聴聞会自体が違法であると,敏腕な徳洲会弁護団の光成卓明弁護士は鋭く指摘し,住友特別監査官に出席の継続を認めるかどうかで,主宰者側は大混乱に陥り,聴聞会は何度も中断された。
結局,住友克敏の退出で聴聞会は再開されたが,主宰者が「違法な聴聞会であった」ことを認めず,この論議に多くの時間が費やされ,結局聴聞会は成立せず,5月19日にあらためて開催されることになった。その際明らかになったことは,①処分の証拠書類は07年5月の3回目の病院立ち入り調査の後,5月21日と22日に大部分が作成されており,その後間もなく社会保険事務局に送付されていたということ,②愛媛社会保険事務局は08年2月4日付で宇和島徳洲会病院へ処分通知を送付したこと,③新たな聴聞会の日程について「私共としては…あんまり遅いと政府の方から…。3月中くらいに決めていただけると…。」と主宰者が発言しており,厚労省から年度内決着を迫られていたこと,という3点だった。
愛媛社会保険事務局は懲戒に関わる証拠書類を07年7月には厚労省から送達されていながら,加戸県愛媛知事が処分に猛反対していること等の事情があり,問題を先送りし,年度末を前にして厚労省本局から尻を叩かれ,やむなく聴聞会の開催に踏み切った。しかし「当該行政庁」のスタッフだけでは聴聞会が無事乗り切れるかどうか不安があり,本省からベテランの住本特別監査官の派遣という事態になったものと思われる。
こういう背景があるので,聴聞会の開催は「厚労省保険局・特別監査官」の住友克敏が不在では不可能であり,5月の聴聞会は無期延期となった。古本大典愛媛社会保険事務局長も転勤となり,社会保険庁自体も「消えた年金」問題などの不祥事が重なり,09年末で廃止された。愛媛社会保険事務局も廃止され,厚労省の地方局として「中国四国厚生局」(広島市)が設置された。このことは今後, 中国四国9県に対して同一基準による医療指導が行われることを意味する。従って法的には「無期延期」だが,松山と異なり広島では「病腎移植」に対して病院にも医師にも処分が行われておらず,実質「処分中止」と見るべきだろう。厚労省という権力を政治的に利用し,「病腎移植」を処罰しようとした移植学会理事長寺岡 慧と理事原史朗の企図は挫折したのである。
4.【下着泥棒から住友課長補佐の贈収賄事件発覚へ】
08年9月, 住友克敏特別監査官は聴聞会での失策にもかかわらず,本省の国際年金課長補佐に昇任した。
話は変わるが, 09年4月大阪で,ある中年の男が自分の所有するマンションに住む,若い女性の部屋へ下着を盗む目的で侵入し, 警察に逮捕された。男は佃 章則(55)といい(株)「シンワメディカル」というコンタクトレンズ販売会社の社長だった。住居不法侵入の疑いで家宅捜査すると,厚労省保険局・医療課幹部との関係が明らかになってきた。コンタクトレンズ販売会社の多くは眼科診療所(CL診療所)を併設している。コンタクトレンズ購入時に顧客に眼科を受診させることで,診療報酬を稼ぐことができるからである。
厚労省は06年4月CL診療所の診療報酬を改定し,基準を厳格化した。当時, 医療課・医療指導監査室・特別監査官だったこの男は,その前の2月に「シンワメディカル」の社長にメールを送り,「地方社保事務局から指導を受けたら連絡して欲しい。こちらで事務局を指導しますから」と持ちかけ,賄賂を請求するようになった。これに応じたのは佃 章則社長と弟の同社取締役佃 政弘(47)である。贈収賄の期間は佃が逮捕される10年4月までで,総金額は約3,000万円に及ぶと見られている。その他に携帯電話の貸与,タクシー券の贈与がある。この特別監査官は連日のようにタクシーで帰宅していたという。
この課長補佐は08年2~9月に「シンワCL診療所」が医療監査の対象となるのを免除させるために,便宜を図った見返りとして複数回にわたり,現金約1,000万円をシンワから受け取った容疑が固まり,大阪府警捜査2課はこの課長補佐を大阪地検に送検し、同地検は10月15日「150万円の収賄罪」で起訴した。この事典で課長補佐は起訴休職となった。同捜査2課は、男の再逮捕を10月19日にも行なった。上記3,000万円は銀行口座振込額であり,別に現金1,000万円も受け取っていたのである。容疑はこの現金約1,000万円の収賄である。
この不埒な男が06年10月から4回に渉り宇和島徳洲会病院を監査し,同病院の保険診療取り消しと万波医師ら2名の保険医指定取り消しの根拠書類を作成し,厚かましくも08年2月25日の愛媛社会保険事務所での聴聞会に出席し,弁護団の追求にあい退去せざるをえなかった住友克敏(50)である。住友は高卒で79年, 当時の社会保険庁にノンキャリとして入庁している。現時点で彼は逮捕され身柄を大阪地検に送致されており,裁判で有罪が決まったわけではないので,「推定無罪」の原則は貫かれなければならない。その後、起訴休職中の住友は2010年12月10日、厚労省を懲戒免職となった。
一方で,多くが無用な診療であるCL診療所の過剰診療に便宜を図りながら,他方では愛媛県の診療の30%を占める宇和島の二つの病院を潰そうと企図し,多くの人命を救助し,これからも助けるであろう, 有能な二人の医師を抹殺することを平然と実行しようとしていたことは,許すことができない。
最大の疑問はなぜ住友容疑者が「特別監査官」という厚労省の地位を利用して,私企業「シンワメディカル」と一種の顧問関係を結ぶに至ったかという点であるが,どのメディアもこれを調査報道していない。
天道是か非か。天網恢々疎にして漏らさず。これで厚労省保険局医療課は致命的打撃を受けた。残るは医療監査の先導役を務めた寺岡日本移植学会理事長と原史朗であろう。
最新の日本移植学会会員名簿によると田中紘一(元移植学会理事長)は評議員から姿を消しており退会したと見られる。ネット情報によると,愛人だという噂もある山田貴子と神戸の「先端医療研究所」付近に「田中クリニック」を開業し,セカンドオピニオンと移植医療機関の紹介業を始めている。これも京大教授,日本移植学会理事長,先端医療研究所所長を務めた人物としては異例である。
その後の情報によると、田中は海外の金持ちレシピエントを対象とした営利目的の「国際移植センター」を神戸市に設立しようと企図し、神戸市医師会と兵庫県医師会の猛反対を受けて計画が挫折し、ビル開業をやむなくされたという。彼もまた「言うこととやることが異なる偽善者」である。
04年に名古屋に設立された「国立長寿医療センター」の総長に就任した大島伸一(元移植学会副理事長)は,10年度4月からの独立行政法人への移行に伴い,厳しい応対を余儀なくされている。最近では、「(病腎移植騒ぎの)当時は少し感情的になっていた…」と反省の弁ももらすそうだ。
大島=外口会談の外口 崇健康局長は慶応大医卒で07年医制局長をへて09年6月に保険局長に就任しており, 将来の次官が目されるエリート技官だが,彼の身にも事件は波及するであろう。
「病腎移植」を「悪い医療」と決めつけ,行政とマスコミを利用して葬り去ろうとした関係者の未来は決して明るくない。マスコミも同様だ。昨年の千葉での「臨床腎移植学会」での光畑医師の発表に,演題とは無関係な誹謗中傷を行い名誉毀損罪で訴えられた准教授を出した岐阜大学では,今年度同学会を開催するに当たり,演題締切後,光畑医師に「演題応募」を依頼して来たという。彼のところには「病気腎(修復腎)移植」後20年にわたり生着・生存中という日本一の記録をもつ患者がいる。(2010/10/16記)
5.【移植学会の巻き返し】
「修復腎移植の臨床研究」が2011年10月5日に第10例目を終えると、徳洲会は10月末に「先進医療」としての認定を求める申請を厚労省に対して行った。全例、移植腎は即時機能しており、レシピエントは透析から離脱できている。最長22ヶ月の追跡でも拒絶は生じていない。死体腎を凌駕し、生体腎並みの効果があるのは明瞭である。しかし、これを認めたくない日本移植学会は、「好成績」を知りこのままでは認可されると知ると、悪辣な妨害手段に出た。
まず第一は、07年3月、「五学会共同声明」で足並みを揃えた日本透析学会、日本泌尿器科学会、日本腎臓学会、日本臨床腎移植学会(高橋公太理事長=新潟大学教授)に働きかけ、「修復腎移植を先進医療として認めないように」という「協同要望書」を小宮山厚労大臣宛に、2012年2月16日付で提出したのである。また、泌尿器科学会がいう「小径腎癌の標準治療は部分切除であり、全摘を前提とする修復腎移植は認められない」とする意見を支持するデータの提示を、厚労省が求めたところ、これを拒否した。(実際は存在しないから、提出できなかった。)
そこで厚労省は徳洲会の申請書を初めは3月の審議会に掛ける予定であったが、一旦差し戻し(「返戻(へんれい)」と役所用語ではいう),その間に主な国立、公立病院に独自アンケート調査を実施した。これを「戦果」と勘違いした移植学会は、第二の「深追い策」に出た。
6月30日に市立宇和島病院における「診療報酬返還金1億5,000万円」の請求時効が来るのを、政治家の圧力で何とか防ごうと、かねてから修復腎移植に反対していた「みんなの党」所属、山内康一(衆院, 当選2回)を通じて、「国会議員勉強会」を開催しアピールしようと計画したのである。
会合は6月26日、衆議院第2議員会館第8会議室で15:05~16:15の70分間開かれた。移植学会からは剣持敬理事(千葉東病院臨床研究センター)、広報委員福嶌教偉(大阪大学移植医療部, 心臓外科)、同吉田克法(奈良県立医大泌尿器科透析部)が参加した。ちょうど、国会は衆議院本会議で「消費税増税法案」の採決が行われている時期であり、議員の出席は「修復腎支持派」6名(衛藤晟一、佐藤信秋、古川俊治、阿部知子、長谷川岳、徳田毅)、反対派2名(山内康一、梅村聡)、秘書の代理出席、マスコミ関係者を含め総数22名にとどまった。
主に発言したのは移植学会からは福嶌教偉である。福嶌は「移植についての勉強会」と称しておきながら、実際には、1)市立宇和島病院は1億5,000万円の診療報酬不正請求があるにもかかわらず、厚労省は返還請求をしていない。宇和島市議会は07年度に、返還のための補正予算を可決しているのに、国はどうして請求しないのか、このままでは6月30日に時効を迎える、2)宇和島徳洲会病院でも同様な診療報酬不正請求があったが、「聴聞会」が中断したままになっている。
診療報酬の不正請求が行われた場合には、「行政処分としては保険医療の機関の指定の取消。又は保険医等の登録の取消」を行うのが当然である。処分は「不正請求に関しては医業停止3ヶ月というのが科せられるというのが常識的である」と2病院の医業停止と修復腎移植に関係した万波誠医師らの保険医登録の取消を迫ったのである。
「聴聞会中断」のいきさつを知る厚労省担当官は困り果てて、移植学会の問い合わせに対して「個別事案に関しては本省としては答えられない」と回答している。高原=福嶌は「知らぬが仏」、大阪のコンタクト眼科汚職事件の主役住友克敏がその原因だとは気づいていないのである。
この福嶌の「役人もどき」発言を聞いた長谷川議員が憤激し、「今日はこれだけの話ですか?こういう話だったら厚労省の方からレクチャーを受ければ十分にわかる話。どうも個々の病院攻撃という感はぬぐえない」と前置きして、「勉強会の趣旨から、移植医療に対する国民の不信感が増大したのはなぜか、色々考えたのですけども、移植が行われた当時、「病腎移植は医学的根拠なし。容認できない」と2007年に移植学会が声明を出しているわけです。ところが去年の11月28日に、学会から恐らく高原理事長が参加されたであろう、ブエノスアイレスでの国際臓器提供確保学会で、修復腎移植の臨床研究の演題が、学会賞を受けている。つまりこの5年のうちに、海外でこういった修復腎移植というものが、世の中の大きな世界の流れになりつつある時に、日本の移植学会が世界の流れに、全く追いつこうとしていない。その現状に国民の不信感は増大しているんだ、と私は思いますよ。だからまず世界の流れはどうか、自分たちが出した学会声明は正しかったのかどうか、それを勉強する会だと思いますよ、今日は。しかし、そういう事ではなく個別の話を出してくるというのは、全く勉強会の体をなさない。」と反論して、福嶌の態度を問題とした。
ここでレセプターのない福嶌は、さらに失策をおかした。
「高原理事長は確かにブエノスアイレスに行った。世界の潮流はむしろ小腎癌がある腎移植はやらない方向になっている。ただやっている所もあると思うが、メジャーな病院でやっているということは決してない。ブエノスアイレスでの学会には私も行きましたが、小径腎癌の移植は絶対ない。宇和島の腎臓移植をしたあとの生着率、生存率は、発表しておりますが、普通の腎がんに比べて成績がいいわけではない。腎癌が再発している例もある。事実なんです、それは。それとブエノスアイレスで賞をもらうなんて、最終的には却下されていますから、そういう事にはなってないです。」と見てきたようなウソを述べたのである。
ウソの羅列に激怒した議員たちにやり込められて、福嶌は立ち往生し、理事の剣持が平謝りに謝ってやっと会は散会した。張本人の高原理事長は欠席し、その一の子分である吉田克法准教授は終始、沈黙したままだった。
市立宇和島病院と宇和島徳洲会の医業停止処分、万波誠らの保険医資格取消処分をねらった、学者にあるまじき移植学会幹部らのもくろみは、かくして恥を残して挫折したのである。
【お願い】本文書の一部は裏付けが完全でありません。以下についてご存じの方は情報をお寄せ下さいませんか?
1. 住友暴言の日付と場所
2. 寺岡と原が関係医師に対する聞き取りを行った日付(場所は宇和島徳洲会病院と思います。)
3. 石橋宇和島市長は市立病院の開設者でありながら,「5年間の保険医療指定機関取り消し」という「病院潰し」処分になぜ断固として闘おうとしなかったのか?当時の署名活動の状況から見て,市民の圧倒的支持が予想されたにも関わらず。これは事件の七不思議のひとつです。これと闘わないから「1億5000万円」の診療報酬返還を要求されたので,算盤勘定から見ても合わない行為です。
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