【書評など】
1)「買いたい新書」の書評に、No.288:高橋幸春「だれが修復腎移植をつぶすのか」(東洋経済新報社)を取りあげました。副題は「日本移植学会の深い闇」となっています。「人工透析業界」と日本移植学会が癒着しているために、日本の臓器移植が進展しないのだということを鋭くえぐり出した、衝撃のノンフィクションです。
9年前の10月,愛媛県宇和島市で日本初の腎臓売買事件が摘発された。事件そのものは単純で,人工透析を続けていた会社経営者の男と内縁の妻が、友人の女性と共謀して「妻の妹」と詐り,病院で腎臓を移植に提供したものだ。医者がだまされた事件だ。翌月,内部調査に基づき宇和島徳州会病院が自主的に「過去に病気の腎臓を移植に用いた例がある」と公表したので,大騒ぎになった。
嵐のような大バッシング報道が,テレビ・新聞・週刊誌に氾濫した。「STAP事件」では,マスコミは最初に異常に加熱した称賛報道をし,ネットで論文不正が暴かれると手のひら返しで,バッシングに走った。「修復腎移植」事件ではまったく逆で,移植にかかわった瀬戸内グループの医師たちは「悪魔の医師」とさえ報じられた。<臓器売買=悪、病腎移植=悪>という単純な思い込みのままメディアは突っ走った。修復腎移植は小径腎がん(直径4cm以下の小さな腎臓がん)などのため,全摘を望む患者から腎臓を摘出し,病巣を楔形に切り取り,縫合修復した後,がん再発のリスク(1%以下)を承知した透析患者に移植する。大新聞と日本移植学会と厚労省が三位一体となった、報道・広報・行政措置により「第三の移植」は原則禁止され,「臨床研究」としてしか行えなくなった。これで多くの移植希望患者が死亡した。患者側が学会を訴えた裁判は高松高裁で進行中だが,ともすれば事件そのものが忘却されようとしている。
本書は,麻野涼の筆名で海外渡航移植をテーマにした小説『死の臓器』を書いたNF作家が,事件の発端から今年前半までの経過を詳しく描いたもので、サスペンス手法によるノンフィクションだ。新聞では「北海道新聞」がオリジナル書評をしている。以下はこちらで、
http://www.frob.co.jp/kaitaishinsho/book_review.php?id=1442070404
No.285: 渡邊昌「<食>で医療費は10兆円減らせる」(日本政策研究センター, 2015/7)
http://www.frob.co.jp/kaitaishinsho/book_review.php?id=1439947347
は9/27(日)「毎日」読書欄に書評が掲載された。他者にも評価されると、評者の自信にもつながり、嬉しく思います。年間2000件の修復腎移植が可能になれば、普通に働くことができるので、それだけ労働生産人口も増え、個人のQOLも高まります。
こんな当たり前のことが、日本移植学会の指導部に分からないなんて、巨額の「透析利権」に眼が眩んでいるとしか思えません。
2)東広島市の開業医(内科・小児科)で、永年、不審死の死体検案やダニが媒介する病気について、警察への協力や研究を重ねてこられた、医学部後輩の本城典彦先生が「日本医師会最高優功賞」を受賞されたことを知りました。これまでに書かれた論文やエッセイの別刷を沢山頂きました。お祝いとお礼を申しあげます。
私は大学教養部時代に、ドイツ語のテキストで「ダニは赤外線を検出する能力を持っており、樹の枝の上に待ち構えていて、哺乳動物が通りかかると、ポトッと落ちて動物に取りつく」という内容の話を読まされた記憶があるくらいで、ダニについてはほとんど知りません。
暇を見つけて、論文別刷を読もうと思っています。ご当人は「虫医学」の専門家を目指しているそうですが、農学系には国見裕久・小林迪弘「昆虫病理学」(講談社)というような専門書があるが、医学系の本には「寄生虫学」の一部にしかない。養老孟司が書くとよいと思うが、解剖学者の彼は病理学を知らないだろうな…。ぜひ本城先生に成書としてまとめて欲しいものだ。
1)「買いたい新書」の書評に、No.288:高橋幸春「だれが修復腎移植をつぶすのか」(東洋経済新報社)を取りあげました。副題は「日本移植学会の深い闇」となっています。「人工透析業界」と日本移植学会が癒着しているために、日本の臓器移植が進展しないのだということを鋭くえぐり出した、衝撃のノンフィクションです。
9年前の10月,愛媛県宇和島市で日本初の腎臓売買事件が摘発された。事件そのものは単純で,人工透析を続けていた会社経営者の男と内縁の妻が、友人の女性と共謀して「妻の妹」と詐り,病院で腎臓を移植に提供したものだ。医者がだまされた事件だ。翌月,内部調査に基づき宇和島徳州会病院が自主的に「過去に病気の腎臓を移植に用いた例がある」と公表したので,大騒ぎになった。
嵐のような大バッシング報道が,テレビ・新聞・週刊誌に氾濫した。「STAP事件」では,マスコミは最初に異常に加熱した称賛報道をし,ネットで論文不正が暴かれると手のひら返しで,バッシングに走った。「修復腎移植」事件ではまったく逆で,移植にかかわった瀬戸内グループの医師たちは「悪魔の医師」とさえ報じられた。<臓器売買=悪、病腎移植=悪>という単純な思い込みのままメディアは突っ走った。修復腎移植は小径腎がん(直径4cm以下の小さな腎臓がん)などのため,全摘を望む患者から腎臓を摘出し,病巣を楔形に切り取り,縫合修復した後,がん再発のリスク(1%以下)を承知した透析患者に移植する。大新聞と日本移植学会と厚労省が三位一体となった、報道・広報・行政措置により「第三の移植」は原則禁止され,「臨床研究」としてしか行えなくなった。これで多くの移植希望患者が死亡した。患者側が学会を訴えた裁判は高松高裁で進行中だが,ともすれば事件そのものが忘却されようとしている。
本書は,麻野涼の筆名で海外渡航移植をテーマにした小説『死の臓器』を書いたNF作家が,事件の発端から今年前半までの経過を詳しく描いたもので、サスペンス手法によるノンフィクションだ。新聞では「北海道新聞」がオリジナル書評をしている。以下はこちらで、
http://www.frob.co.jp/kaitaishinsho/book_review.php?id=1442070404
No.285: 渡邊昌「<食>で医療費は10兆円減らせる」(日本政策研究センター, 2015/7)
http://www.frob.co.jp/kaitaishinsho/book_review.php?id=1439947347
は9/27(日)「毎日」読書欄に書評が掲載された。他者にも評価されると、評者の自信にもつながり、嬉しく思います。年間2000件の修復腎移植が可能になれば、普通に働くことができるので、それだけ労働生産人口も増え、個人のQOLも高まります。
こんな当たり前のことが、日本移植学会の指導部に分からないなんて、巨額の「透析利権」に眼が眩んでいるとしか思えません。
2)東広島市の開業医(内科・小児科)で、永年、不審死の死体検案やダニが媒介する病気について、警察への協力や研究を重ねてこられた、医学部後輩の本城典彦先生が「日本医師会最高優功賞」を受賞されたことを知りました。これまでに書かれた論文やエッセイの別刷を沢山頂きました。お祝いとお礼を申しあげます。
私は大学教養部時代に、ドイツ語のテキストで「ダニは赤外線を検出する能力を持っており、樹の枝の上に待ち構えていて、哺乳動物が通りかかると、ポトッと落ちて動物に取りつく」という内容の話を読まされた記憶があるくらいで、ダニについてはほとんど知りません。
暇を見つけて、論文別刷を読もうと思っています。ご当人は「虫医学」の専門家を目指しているそうですが、農学系には国見裕久・小林迪弘「昆虫病理学」(講談社)というような専門書があるが、医学系の本には「寄生虫学」の一部にしかない。養老孟司が書くとよいと思うが、解剖学者の彼は病理学を知らないだろうな…。ぜひ本城先生に成書としてまとめて欲しいものだ。
しかし、そういうテキストを使うドイツ語の講義を受けてみたいものだ。