毛津有人の世界

毛津有人です。日々雑感、詩、小説、絵画など始めたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

母を慕いて

2025-01-19 18:53:56 | 貧乏について

油彩 26x36㎝ 2016

僕が男版シンデレラの境遇に甘んじたのはこんな秘密があったからだった。若い母親は良く台所でエプロンの前の布を目に押し当てて泣いていることがあった。鼻歌を歌いながら台所に立っていたこともあるが、悲しそうにしているときもあったのだ。それを僕は母親が死にゆく不治の病に冒されているからだと独り合点していたからだった。というのも何回も僕は母親が便所を使った後に鮮血の塊を残していたのを目撃していたからである。そのようなときには落し紙と一緒に大量の脱脂綿も置いてあったからだ。僕は母親が毎月血を流しながらそれを口にせず僕たち子どもへの愛にその身を捧げていることを想って、母親を助けたいという観念に強く囚われていたのである。だから幼い時から薪でご飯を炊くのをたすけ、七輪で魚をあぶったりする女仕事を進んで買って出ていたのである。その母親は今96歳で老人施設に入っているがすこぶる元気でよくしゃべる老婆になっているらしい。

 


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