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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

さすらいー地球岬 12

2009年10月16日 | 投稿連載
地球岬 作者大隅 充
      12
ウミネコは数を増して上空高く廻っている。
あの鳥たちは、オレが死ぬのを待っている。
あるいは目の前の海峡に投げ込まれれば、無数の魚
たちがオレの肉を食らうだろう。
オレは、早くあいつらの胃袋に入りたいと思った。
首なしがケイタイを切るとオレの顎に手をやり血だ
らけのオレの口を舐めた。
「おまえ。可愛い顔して悪党だったんだな。親をやっ
ちゃいけねえな。地獄に落ちるぞ。親不孝は人間じ
ゃねえ。」
首なしは、まじめに怖い顔した。それは又ウミネコの
顔にも似ていた。
「で、社長はなんて言ってるねえ?」
赤髭のロシア人が近づいて来て葉巻に火をつけながら
首なしに聞いた。
「ミセシメで海に沈めようって言ったんだけど、お尋
ね者じゃ具合悪いって言うんだ。」
「そりゃそうだ。もし足がついたらこっちが面倒なこ
とになるかあ・・・」
「まあ、そう言うけど社長にもう一度言ったんだよ。
こいつが盗んだ金は、店の裏金で奴はそれを知ってい
て警察に垂れ込めないとわかってやったんだ。それも
白井を傷つけてよ。それってなめられてんじゃないの
か。俺はオトシマエが必要だって強く食い下がったさ」
「でもあの社長は面倒なことは嫌いだろ。」
「何かいい考えがあんのかっていうから・・任せてく
ださいってね。一応預かったわけよ。俺が。」
「人ひとり消すってトルードナ、難しいよ。ロシアじ
ゃないんだから。」
「しかしよ。俺は親を殺すような奴は生きている資格
がねえって思うんだよ。指名手配されて逃げて苫小牧
まで来て思いあまって、岬から海に身を投げた。って
のは、いいストーリーだと思うんだ。」
「まあ・・・インテリアスナア(面白いっていえば面
白い)」
 オレは、この首なしの野郎が嫌いだ。なんでも勿体
つけて言う癖がある。御託はいいから早くオレを海に
投げ込んでくれよ。
すると首なしがオレの靴を剥ぎ取って車の荷台に投げ
捨てると、赤髭とオレを抱きかかえてベンツに又乗せた。
 ベンツは、走り出した。
「兄さん。でも身投げにいい岬って地球岬まで行かな
いとない。ちょっと遠いなあ・・」
髭面がギアをトップにして面倒臭そうに言った。
「今日夕方テレビでワールドサッカーがあるよ。ロシ
アとスペイン。」
後ろの席で肉団子のロシア人がビンビールを飲みなが
ら噛み付いた。
「わかったよ。ハンドルを逆に切りな。海じゃなく列
車に飛び込んだって同じストーリーになるさ。日高本
線との合流がいい。列車の運ちゃんから見えにくいか
ら。勇払へ。港を回ってくれ。」
首なしは、助手席でナビのタッチパネルに目的地を入
力した。
車は、苫小牧のフェリーのりばを過ぎて、沼の端駅の
手前で室蘭本線と日高本線が合流している線路を海寄
りに曲がって行った。すっかり日が暮れて港の北電と
日本軽金属の建物の燈りが流れていくのが見えた。巣
に帰るのか海鳥が赤い夕日に連なって飛んでいった。
しかしその絵本の挿絵のような美しい眺めがみるみる
薄れていく。
何か首なしが座席越しに言っているが、聞こえない。
肉団子の赤ら顔がニタニタ笑っている。いつの間にか
運転席台のカーナビがテレビに変わっていて、サッカ
ーの試合を中継している。だんだん耳が聞こえなくな
ってまるで昔深夜テレビで見た無声映画のように色も
なくなってきた。オレは、一生懸命眼を開けようとす
るが眠くて仕方ない。瞼がすごく重い。又肉団子がケ
タケタ笑った。オレの右腕に針が刺さっている。その
針の先が注射になって中の液体がみるみる無くなって、
オレの中へ入っていく。肉団子は、注射器を抜くと何
やら呟いた。
アルコール・・・・
オレは、眠くてたまらない。もう眼が開けてられない。
するとやった!という声がして肉団子も首なしも赤髭
もカーナビのテレビに眼を向けた。ロシア選手がペナ
ルティー・キックからゴールした。小さな液晶画面の
中で観客が肉団子と一緒に発狂して叫んでいる。
オレは、プツンと記憶が途切れた。
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わたしのすきなもの~杉浦さやか(祥伝社黄金文庫)

2009年10月16日 | Bookっり箱
イラストレーター・杉浦さやか氏の人気コラム
「つれづれダイアリー」を書籍化した文庫本。
優しい色使いの可愛らしいイラストをふんだんに
加えながら、彼女独自のセンスで選んだ様々な
「お薦め」が綴られています。
例えば・・・クラシック・ホテルを訪れて内装の
美しさを堪能したり、美術館のレトロな装飾に感
嘆したり、下町の古い老舗料理店を巡ったり。
少し足を伸ばして、熱海に残る昭和の風情を楽し
んだり、江ノ島の少し寂れた土産物店に懐かしさ
を感じたり・・・。
どれも「最新流行」とは縁の無い、むしろちょっ
と古風な視点で選ばれた場所やモノたちですが
「うんうん、その良さ、よくわかる」と深く共感
してしまいます。
杉浦氏の同じ文庫シリーズで「よくばりな毎日」
も読みやすくお薦めです。
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