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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
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銀座万惣・フルーツサンド~シーちゃんのおやつ手帖129

2010年03月19日 | 味わい探訪
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さすらいー若葉のころ8

2010年03月19日 | 投稿連載
若葉のころ 作者大隅 充
     8
「トミーよりアドレス聞いたぞ。恋多き乙女だって?
マジメがセーラー服着ていたすみれがねえ・・ところ
で成清先生、かなり悪いみたい。この週末、弘前へ行
ってみない?」
 またまたトミーの奴、すぐにデマ飛ばすんだから・
・・慌ててオマツにメールを返す。
「とんでもない離婚して有閑マダムやってるトミーと
一緒にしないで。こちらは地道にパートで働いていま
す。オマツこそ弘前で何してるの。」
「子供二人に振り回されている主婦に決まってるでし
ょ。近所の設計事務所で私もパート。それよりどうす
るの?成清先生のお見舞い。お城の西堀沿いにある弘
前がんセンター。知ってるでしょ。今なら会えるらし
いの。来週から頭の放射線治療に入るとその先はどう
なるかわからないって先生の奥さんから言われたの。
行こうよ。」
「わかった。土曜代理を頼んでみるわ。できたら金曜
の夜弘前に帰りたいな。」
「金曜いいね。島津君のスナック予約しとくわ。トミ
ーは私から連絡しとく。」
 ここでメールは終わったが最後のオマツからのメー
ルには小学生の息子の頬にキスしているふっくらした
中年の女の写真が添付されていた。あの高校生の時宝
塚に憧れてバレーを習っていたスレンダーな松本早苗
の面影は粗い画素の写真では想像すらできない。
 まだマリエントでのレジの〆作業でメールでしか会
話できなかったけど、帰り八戸港によってフィットを
埠頭に停めて夕日に映えた春の海を見ながら、今度は
声を聞きたいくてオマツのケイタイの番号を聞こうと
メールを送ってみる。
 しかし仕事か家庭の用事か返事はいつまで待っても
返って来ない。仕方ないのでとりあえずトモミへ電話
したら、金曜日の夕方弘前でもう合流することになっ
ていた。
「知ってる? 島津君ってまだ結婚してないんだって。
あのバスケ部のキャプテンで下級生のアイドルだった
スターが・・」
 トモミは、含みのある笑いを噛み殺してつづける。
「それがねえ、もうすっかりハゲてるの。」
「ハゲてるって頭が・・・」
「そう。オデコからずるりと・・。私、ちょっと期待
してたんだけどがっかりよ。」
「何を期待するの・・・」
「まあ、いいじゃない。私は立派な独身者なんだから」
「はい。はい。トミーこそ恋多き女よね。間違いなくー」
 トモミはオマツに私のことを勝手なウワサをしたこ
とがもうバレたか、まあまあ、冗談だから。堅ブツの
すみれがそんなわけないだろ、とケラケラいつまでも
笑う。
 トモミの背後で音楽がかかっていて、笑い声が止む
とその音楽がウィリー・ネルソンのカントリー曲だと
わかる。どこかで聞いた覚えがあるなあとぼんやり思
っていたら、ふと海岸に面して建っていたログハウス
の「テキサス」の映像が浮かんでくる。
 昨日「テキサス」でかかっていたBGMだと気づい
た。トミーは今日もあの店に行ってバンダナの店員に
抱かれているのだろうか。
「すみれ。すみれー。どうしたの?黙って。怒ったの。
オマツに言った冗談ぐらいで。」
「・・・う、ううん。」
「金曜日は他に吹奏楽部の男子も集まるらしいから。
プチ同窓会ね。」
「うーん。それよりわたし、ナリキヨ先生のこと心配
だわ。」
「肺がんで頭に転移するって末期も末期でしょ。私た
ちのこと、わかるかしら。」
トモミの後ろで舌打ちの音が微かに聞こえる。
「・・・ナリキヨ。いい先生だったね。」
トモミは、背後の相手に何か信号を送ってから急にし
んみりとした声で私の電話に戻ってくる。
「本当にいい先生だった。」
「厳しかったけど、よく世界無賃旅行の話なんかして
夢のある先生だった。」
「よく怒られた。すみれは、特にね。」
「私はトロかったから・・・」
私は、成清先生の若い五分刈りのハンカチでいつも汗
を拭く顔を思い出していた。
 また電話の向こうで舌打ちの音がする。今度は少し
遠くから発せられたようだ。そしてそれは明らかに男
の口から出たものだった。
「あの、もうそろそろスーパーで夕食の材料買わない
といけないんで・・・」
と私が言うとああ、ごめんごめんとトモミは素直に謝
って早口に用件を言う。
「じゃ、金曜日の六時。西高の門の前で。」
「正門ね。わかった。じゃー」
電話はウィリー・ネルソンの裏声と共に切れた。
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