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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

さすらいー若葉のころ20

2010年06月11日 | 投稿連載
若葉のころ 作者大隅 充
      20
 私は、輪竹さんと口に出して呼ぶ時いつでもあの
大ハクチョウの渡来地で私の目を見つめた彼の真っ
直ぐな笑顔を思い出す。
「すみれさんって。ときどき夢見るような目をしま
すね。」
 輪竹さんは、野辺地の帰り道私にぽつんと言った。
そしてこの言葉がいつまでも私の中でリフレインし
て彼の微笑んだ白い歯の輝く口元と一緒に残響とし
て残っている。私は生まれて今まで自分の目につい
てそんなこと一度も言われたことがない。
 この輪竹さんの微笑むストップモーション写真の
一コマとその音楽(BGM)としてのセリフ(問い
かけ)が一日一回とか二回ふとしたことで甦る。も
しかしたらこの輪竹さんの絵と音が夏の夜の外灯と
蛾のように私をこの一人の青年に惹きつけて離さな
い仕掛けになってしまったのではないだろうか。だ
から外洋調査に出航していなくなった八戸港の宿舎
に毎日巡礼するみたいに帰りを寄り道して見に行っ
てしまう。一度輪竹さんと口にすると灯りに引寄せ
られる蛾のように輪竹さんの面影を求めてあの宿舎
に吸い寄せられる。気がつけば毎日そんな奇妙な行
動をしていたことに我ながらこんな面があったのか
とハッとする。
 私は、明らかにどうかしている。トミーのことな
んか言えた義理ではない。この訳のわからない狂お
しい気持ちを誰にどうすることもできない。でも私
はこの気持ちに正直に従っても輪竹さんにはこれ以
上のことは望まない。私は夫のカズマに不満はない
し、自我に目覚めはじめたハルカのことも愛してい
るし悲しませる勇気はない。
 そう。私は、ただもう一度輪竹さんが帰って来た
ら、あの北の大ハクチョウを一緒に見に行きたい。
それだけ。
 輪竹さんの声と白い歯にもう一度会いたいだけ。
たとえ彼が帰港して東京へ永久に戻ることになった
としてもいい。
 もう一度だけ会って「おかえり」と一言声をかけ
てあげられるだけでいい。
おかえりー、と。
     × 
 目が覚めるとペンライトの光が私を窺っていた。
それは、長い長い海底トンネルの彼方に小さく見え
る出口の明かりのようにぐんぐん近づいて来る。
「もう大丈夫ですよ。すみれさん。すみれさーん。」
眉毛が白い老年の医者が私の瞼を指で開いて右手の
ペンライトで覗き込んでいる。
「瞳孔がちゃんと反応してる。もう目を開けてもい
いですよ。」
 今度は両掌で私の鼻先でパチンと手を叩く。天井
の蛍光灯が目に入って、私のすぐ横に点滴の装置が
立てかけている。老年の白眉の医者は、白いマスク
を取ってニンマリと笑う。
「ママ。わかる。ハルカよ。ママー」
 点滴の容器とチューブの後ろからハルカが真っ赤
なホッペで覗き込む。
 私は、ここが病院であることはわかった。でもな
んで自分がこんなベッドで寝ているのかさっぱりわ
からない。
「ああ!ハルカ!夕ご飯、まだでしょ。ごめんね。
遅くなって・・・」
「起きた!・・ママったら・・夜が明けてもうすぐ
お昼よ。」
 私は、ゆっくりと首をふって部屋の中を見回す。
白眉の医師は、包帯だらけの私の腕をそっと持ち上
げて手首で脈をとっている。若い看護婦が病室のレ
ースのカーテンを開ける。二階なのか外のプラタナ
スの枝と葉の頭が見えて、その風に揺らぐ葉っぱに
小降りの雨が当たっている。確かに雨空でも真昼ら
しく薄明るい光が窓から入って来て蛍光灯の灯りと
入り混じってパステル画みたいに滲む。
「パパ、さっきまでいたのよ。心配してハルカと一
緒に来たの。いま下のロビーにタバコ買いに行った」
「パパ、八甲田から帰ったの?」
とカズマの顔をようやく思い出して私はほっとする。
「猿越峠であんな土砂崩れが起きるなんてびっくり
した。」
「そうね。二十メートル尾根下まで車が滑り落ちた
にしては、骨折もなく擦過傷と脳震盪で済んだとい
うのは、運がつよいってことかな。」
 白眉先生は立ち上がって、脈が正常なことを看護
婦に告げると少しおどけて私の無傷の顔をしげしげ
と見て言う。
 私は、豪雨の中、峠道の土砂崩れにフィットに乗
ったまま巻き込まれたことをやっと思い出した。
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風月フーズの雪うさぎ~シーちゃんのおやつ手帖139

2010年06月11日 | 味わい探訪
博多風月フーズのホームページ
このホームページでは雪うさぎの歌が聞けます。
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