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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

フランス製菓のタヌキケーキ~シーちゃんのおやつ手帖146

2010年08月20日 | 味わい探訪
板橋区赤塚・フランス製菓のタヌキケーキ
フワフワのスポンジの上にバタークリームを載せ、
全体をチョコレートでコーティングしたタヌキ型
ケーキ。
昔懐かしいバタークリームが絶妙に美味しい、
レトロで愛らしいケーキです☆1個250円。
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さすらいー若葉のころ30

2010年08月20日 | 投稿連載
いよいよ「若葉のころ」はラストです。
 
若葉のころ 作者大隅 充
               30
 海がどんどん遠ざかって行く。
  もうウミネコの声も聞こえない。そしてあの、
青春に誘惑してしまう潮の香りも掻き消されて、
排気ガスと長い日照りでカラカラになった土埃
とが渋滞の道路をつつむ。私の現実は、この道
の先にある。今しっかりと私と夏と帰路の確か
な重さを実感する。甦った潮騒の戸惑いを隠さ
ず、自分の本能に従い、少し大人になった分こ
の現実を迷わないで選択するのだ。
八戸市街地への分かれ道で渋滞が切れて私は、
高速のインターチェンジへつづく道に向かう。
右にあったマリエントへの分かれ道を振り棄て
るように私はアクセルを踏む。午後遅くのラジ
オからむかしのヒット曲が流れる。渚のバルコ
ニー。カラオケでも滅多に歌わない私が松田聖
子の声を真似して口ずさんでいる。登りの八戸
自動車道は、青い空への滑走路のように延びて
いる。曲が転調して間奏になった時私は歌をや
めていた。忘れた筈の潮騒が私を春へ引き戻し
てしまった。声がいつの間にか涙に溺れている。
あるのは、青い空と白い雲だけ。私のフィット
は羽根が生えたみたいにスピードに乗っていく。
私の青春は終わった。長い眠りから目覚めて
はげしい恋をした。その炎は瞬く間に燃焼して
消えていった。でも目覚めた春は私の中で息づ
いている。それは私というヘンテコな女の生き
ている横顔となっておそらく誰にも内緒で若葉
のころから乙女だったすみれちゃんの仮面を被
ってひたすら心の鏡台の裏に仕舞われるだろう。
高速を走る車の上を青い空がいつまでもつづく。
そろそろ夕方に近いのにいつまでも青い。時が
止まったように青空はひとりの私をただひたす
ら導いている。
 あの人は行ってしまった。私に素敵な笑顔を
残して。たぶんこんな烈しい想いはそう何度も
人生にないだろうし、これでよかったと思う。
私は人を愛することを悟った。それもこんな中
年になって。あの人にそのことでは感謝しよう。
私はこのさき年をとって死ぬときにこの苦しい
愛を誇りに思うだろう。手も触れぬ愛がこの世
にあるということを。そしてそれを海が広く空
が青いように真実として心に刻もう。
 その夜。ハルカが学校の体験学習で十和田湖
へ行っていないペンションで久しぶりにカズマ
に抱かれた。私は体の喜びを足の爪先まで感じた。
そして夫の胸に顔を埋めながらほっとして眠る。
しあわせな涙が一筋流れた。
 外でアオゲラの朝森を飛び立つ羽ばたきが聞
こえている。私は涙の意味がわかった。幸せの
温かい涙のなんと優しいかということがー。
 
                                       終わり
             補記
 
仙台港に陸中海岸沖で海洋調査船と衝突事故を
起こした室蘭フェリーが停泊している。船首の抉
られた損傷の応急処置をして本格的な貨物船修理
は、横浜のドッグで行われるという。
この港に入港した当初は、報道陣も見物人も連
日押かけていたが、今もう誰もいない。ドッグに
仮揚げされている船首の溶接補強作業も終了して
室蘭フェリーは、静かな夏の午後を迎えている。
どこかで小学生の声がする。
「駿ちゃん。チャータがいなくなったんよ。」
「うそ!事件ぞ。それって。」
「本当よお。朝まで家の庭でエサ喰ってたのに・
・・昼から探してるけどどこにもいないよ。」
「マジかよ。チャータ。可愛かったのに・・」
と小学生六年の男の子がふたり、ドッグの見え
る桟橋を走り回っている。
そこへマルハ食品のロゴ入りの作業服を来た青
年が二人のうち太った方を捕まえる。
「浩太。どうしたんだよ。こんなとこで。」
「マルハのオジちゃん。チャータがいなくなった
んよ。なあ!駿ちゃん。」
駿と呼ばれたチビは、怖がって腰を引きながらう
ん、と頷いた。
「ああ。あの三カ月前のフェリー衝突事故のあっ
た頃、海を泳いでいたという犬か。」
「そう。せっかく助けて家で育てたのに」
浩太は、弱虫なのかもう泣いている。
「夜になったらきっと帰って来るよ。」
と駿が浩太の背中をさする。
しかしそのチャータと名付けられた犬は、帰っ
て来なかった。
青々した稲田の畝道を走る仔犬。いやもう立派
な褐色の成犬だ。四肢の筋肉は逞しく耳を立てて
走る姿は野生そのものだった。
首輪にチャータの文字が見える。
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