とらえもん日記 6/15

わし今、抜け毛の季節。
抜けるわ抜けるわ、ごっそりと。
日に数百、いんや数千は抜けとるな。
ごっつ痒いんねや、これがまた。
痒いから掻くやろ。掻くとごそっと抜けよる。
抜けるとまたその付近が痒なる。掻くやろ。
ほなまたごそっと抜けよる。
ネヴァーエンディング抜け毛や。
自分でもようハゲんと思うわ。

ほんで問題なんが あほゆぅや。
あんだけ自堕落な生活しとるくせして、
ヘンなとこ神経質なんや。
わいの抜け毛が部屋に落ちるのんが
気になって気になってしゃーないらしい。
ちぃとでも体掻こうもんなら、
『あっ・・・ああ・・・・・』
この世の終わりみたいな声出しよる。
そんな洒落た部屋の主やないやろが、自分。
ビールの空缶やら、吸い殻山積みの灰皿やら、
丸めて放りっぱなしのパンツやら、
そういうのん片付けてから文句言うてくれる。
それにな、言うとくけども
わいの抜け毛なんてまだ可愛い方なんやで。
角のマンションのチェリー嬢なんか
半端やないでぇ。なんせペルシャやから。
集めて毛糸玉にしたらセーター編めるやろな。
まぁもっとも、あんな高級マンションじゃ
もちろんフローリングやろうから
掃除は楽やろうけんど。
このおんぼろアパートとちごて。んな。

んでな。現在あほゆぅと冷戦中。
あほゆぅが悪いんやで。
あまりにも毛が落ちるから言うて、
今さっき下の駐車場でわいのボディを
ブラッシングしてくれようとしとったんや。
その心がけはホメたるけども。
けどもな。
あんまりやないか。
使用済みの歯ブラシなんて。
しかも使い込みすぎて先の広がった。
猫用のとは言わんから、せめて
ヘアブラシくらい持ってないんかいな。
毛先が球やって何だって
嫌なもんは嫌やっちゅーねん。
このデリカシーの無さには
我が主人ながら呆れてモノも言えんかったわ。
ほんまに情けない・・・。

・・・おっ。あほゆぅや。
『とぉ～らぁ～。さっきはごめんよぉ～』
なんやしおらしいやんけ。休戦かいな。
ま、反省しとるなら許したってもええで。
あっ。なんや われ。
後ろ手になに隠し持ってんねや。
『今度のはすごいぞぉ。
あっという間に綺麗にとれるからね～』
・・・なぁ、あんた・・・。
それ、ころころカーペットやんけ・・・。

とらえもん日記 6/9

熱だしよったで。あほゆぅが。
『馬鹿は風邪ひかん』ゆう定説は
出鱈目やったんかいなぁ。
こないだからげほげほやっとったけど、
ついに起き上がれんくなりよった。
それにしても・・・。
こんなおとなしいあほゆぅ、初めて見たわ。
なんやえらい重病人みたいやなぁ。
ぜぃぜぃ、はぁはぁ言うて。
目ぇはうつろやし。
『と・・ら・・。とら・・ちゃぁ・・ん・・』
なんや。なんや用かいな。
『俺・・・死ぬかもしれない・・・』
あほらし。こいつほんまにあほや。
ちぃとばかし熱だしたくらいで
何ぬかしとんのや。
あんたは死なん。殺したかて死なんやろ。
あほくさ。
可哀相やけどわい、看病したれんで。
なんせ猫やから。
悪う思わんといてや。な。
ほな、わい寝るで。ふぁ～・・・。

・・・あー。よう寝た寝た。
なんや腹減ったなぁ。
あほゆぅ、わいの御飯のことなんか忘れとるやろし。
あほゆぅの様子はどないなもんかいな。
・・・ああ。よう寝とるわ。熱もそろそ・・・
おっ。なんやなんや。あほゆぅ。
頭の上になんかのっけとるでぇ。
なぁなぁ。その袋ん中なに入っとんの？
ぶにょぶにょしたその袋の中。
デコにのせとるその半透明の袋やて。
気になるやんけ。なぁ。
・・・触ったろ。
・・・触ったった。
おほ。むっちゃ気持ちええやんけ。
このぶみょぶみょ具合。
この肉球に伝わるひんやり具合。
この爪の引っ掛かり具合。
おほ。うほほ。引っ掻いたれ。
たの。たのし。うひょひょ。
止められな・・・あっ。
なんや出てきた。汁出てきたで。
あっ。これ水かいな。あっ。こっちからも。
あっあっ。だばだば出てきよる。水びたしや。
あ。あほゆぅ。起きてもうた。
わいやない。わいがやったんやないでぇ。
おかあちゃーん。

とらえもん日記 6/7

あほゆぅがそわそわしとる。
朝からずっと落ち着かん様子や。
部屋ん中うろうろ歩き回って
わいのミルク皿ひっくり返したりして
日頃の間抜けぶりをパワーアップさせとる。
なんでかは分かっとる。
原因は隣の部屋や。
ずぅっと空いとったのに、昨日ついに
誰だかが越して来よったらしい。
でっかいトラックの中から、威勢のええお兄ちゃんらが
えっほえっほ荷物運び出しとった。
あほゆぅが言うには、今日あたり
『引越しのご挨拶』に来るのんが
人間界の習わしらしい。
わしらにもあるで。そういうの。
『ご挨拶』も『挨拶返し』も。
ちと暴力的になりがちやけどな。

ま。そんなわけであほゆぅは、
どんなべっぴんさんが顔見せに来るのか
朝からわくわくしとんのや。
まだ女と決まったわけやないのんになぁ。
仮に女だとしても、あんたの好きな
『おねいちゃん』やないで
『おばちゃん』かもしれんし。
あんまり期待せん方がええんとちゃうのん。

・・・ドアがノックされた。
猛ダッシュで玄関に向かうあほゆぅ・・・
と、わし。
あは。あはは。なんやわいまで走ってもうた。
ええやないけ。
わしかて気になっとったんやから。
『ちわーす。新聞は何をお読みですかー』
なんや。新聞の勧誘かいな。
『要りませんっ！』
いつになく怒鳴り返すあほゆぅ。
ま、その気持ちは分かるわ。
・・・数時間後。ドアがノックされた。
猛ダッシュで玄関に向かうあほゆぅとわし。
『こんにちはぁ』
おっ？おっ？可愛いらしい声やんけ。
やったで。おねいちゃんや。
興奮しつつドアを空けるあほゆぅ。
『聖書はお持ちですかぁ』
今度は宗教かいな。あほらし。
ふん。わい寝るで。つきあっとれんわ。

・・・数時間後。
なんや撫でられとる感触で目ぇ覚めた。
ん？誰や・・・
誰なんや。このおっさん。
なんでわいを撫でとんねん。
『猫ちゃ～ん。
隣に越してきたおじちゃんでちゅよぉ。
おじちゃんねぇ、猫ちゃん大しゅきなのぉ。
遊びに来るからよろちくねぇ～』
嗚呼・・・・・。

とらえもん日記 6/2

痛い。
むっちゃ頭痛い。
痛すぎて目ぇ覚めてしもたがな。
おんや。なんやいつもと様子がちゃう。
んー？なにがおかしいんやろかいな。
直下型大地震の後みたいなこの部屋の乱れようは…？
いつも通りやし。
ベッドから半分ずり落ちてウシガエルみたいなイビキかいとる
このむさくるしい男は…？
いつも通りやし。
なんや。みないつもと変わらんがな。
なんでこんな違和感あんのやろなぁ。
あ。痛い。
また痛なってきたで。
かなわんなぁ。
ま、ええわ。寝とったらじき直るやろ。
しゃーない。もいっぺん寝直して…
あ。
わかったで。なんやおかしい理由。
もうお天道さん出とんがな。
これ。あほゆぅ。起きんかい。
あんた今日会社ないんかいな。
起きぃや。なあ。
わい知らんで。今度こそクビやで。
爆睡欠勤ばっかしとってからに。
あー。あかん。ちいとも起きんわ。
こんだけ猫パンチしとんのになぁ。
あ。せや。
思い出したで。あほゆぅ。
あんた ゆうべ酔っ払って
わいに無理矢理バーボン飲ましたやろ。
いやや言うて抵抗するわいを力ずくで押さえ込んで。
ああ。なんて可哀相なわし。
ほんでこないに頭痛いんかいな。
あーいた。痛いで。
あんたのせいや。あほゆぅ。
どないしてくれんねん。ほんまに。
わいがこんなに苦しんどんのに
ようそんな平和な顔して寝とられんなあ。
え。まったく気楽なもんやわ。
人間はええのぉ。
わいそろそろパトロール行かなあかんねんけどなあ。
ま。しゃーないわ。
あほゆぅが起きるまで もいっぺん寝たるか。
あーいたたた…。

とらえもん日記 6/1

あほゆぅがご機嫌さんで帰って来よった。
『とぉ～らっちゅわぁ～ん♪』
やめてんか。通りの向こうから叫ぶのんは。
恥ずかしなぁ。みんな見とるやないけ。
あっ。くさ。酒くさ。ごっつ臭いで。
こっち来んといてぇや。あー。
顔寄せんでぇな。
あーあ。足ふらふらやないけ。
んもう典型的な酔っ払いや、こいつ。
わい待っとったんやで。ずっとずっと。
何時間も。待っとったんやで、わい・・・
あっ。そっちちゃう。ちゃうやんか。
家はこっちやで。もう。
なにが可笑しい。なにげらげら笑っとんのや。
大丈夫かいな、ほんま。
こんな泥酔状態で
ようここまで帰って来れたわ。
あっちゃこっちゃで他人様に
迷惑かけとったんちゃうやろな。
情けないわ。ほんま・・・。

ふぃ～。
はい、ただいま。やっと着いたわ。
あ。こらこら。あかんて。
まだ呑むんかいな。もうやめとき。
さんざ呑んできたんやろ。
・・・・はいはい。つらいのね。
色々あるわな、生きてるとね。
分かるわあ。
猫社会でもね、いろいろあるんよ。
兄さんも苦労してはるのね。はいはい。
はぁ。しんど。
なんや今度は泣き上戸かいな。
あほくさ。わいもう寝るで。
やっとれんわ。
あっっ。なんや。なにすんねん。
いらん。いらんて。堪忍。
わい酒なんてよう飲まんて。
ちゃうがな。
『俺の杓じゃ呑めんのか』言われたかて。
そな無茶な。
やめ・・やめよし。こら。
堪忍。堪忍や。あ。
おかーちゃぁーん。