2018年5月の寺だよりに掲載しました。
先月4日に、アニメ監督の高畑勲が他界した。「火垂(ホタ)るの墓」の監督と言えば、お判りいただけるか?
火垂るの墓の原作は、1967年に発表された野坂昭如の自伝的短編小説。三宮駅の構内で一人の少年が行き倒れる。腹巻きから出てきたドロップの缶から、季節外れの蛍と小さな骨が出てくる。神戸大空襲で家と母を失った14歳の清太と4歳の節子は、西宮の親戚宅に仮住まいする。しかし、戦時体制に従う叔母達になじめず、やがて叔母の家を出て防空壕で暮らし始める。幸せな生活は長く続かず、二人は次第に衰弱し、ついに節子は他界する。節子を荼毘(ダビ)に付し、その遺骨を古いドロップの缶に入れた清太だが、彼もまた終戦直後に三宮駅で息絶えた。
高畑アニメは原作をほぼ忠実になぞりながら、一つの仕掛けを施した。映画の冒頭と末尾に、現代(映画が作られた1988年)の神戸を描いたのだ。これによって、野坂の原作を、未だ成仏できない清太が、40年以上繰り返し思い起こす悔恨(カイコン)の物語に仕立てた。時代に逆らって生きようとして、未熟さ故に妹を死なせてしまった清太は、今も神戸を彷徨(サマヨ)っている。