先週、藤井財務相が辞任した。鳩山首相は予算について明確な基本方針を示さず、予算編成が迷走したが、その疲れが響いたのであろう。小沢幹事長との確執も有ったかもしれない。とにかく、お疲れ様と申し上げたい。
後任は、菅副総理兼経済財政政策担当相の兼任となった。また、菅氏が務めていた国家戦略担当相と科学技術政策担当相は、仙谷行政刷新担当相と川端文部科学相がそれぞれ兼任するとされた。
しかし、これらの人事には若干首をかしげたくなる部分がある。もちろん、沢山のポストを兼任すれば多忙になる心配もあるが、もっと大きな問題が2つあると思われる。
1つは、内閣府の存在意義を忘れていないかということだ。内閣府設置法では「内閣の重要政策に関する内閣の事務を助けること」(3条)が任務とされ、その所掌事務の目的は「行政各部の施策の統一を図るため」(4条)とある。即ち、省庁横断的に、政治主導・国家戦略的に政策を推進しようというのが内閣府の役目なのだ。同法18条はその考え方に基づいて、首相が議長を務める経済財政諮問会議と総合科学技術会議の設置を規定している。特に前者は、過去の「大蔵支配」の解消の為に設けられたとされる。にも関わらず、今回の人事では、財務相と経済財政相、そして文科相と科学技術相が兼任するという組み合わせになっているが、これでは「政治主導」ではなくて、各省庁が官邸に口出ししやすくなる危険性があるわけだ。
もう1つは、仙谷氏が国家戦略相と行政刷新相を兼任することだ。これまでの民主党の主張では、予算の基本方針等を決定するのが国家戦略局(現在は室)であり、予算の無駄をチェックするのが行政刷新会議であったはずだ。この2つのポストを同一人物が兼任するというのは理解し難い。鳩山首相はこの兼任を見なおす可能性を示したとの報道もあったが、可及的速やかに兼任を解くのが筋であろう。
3人の大臣には、以上の懸念に対して十分に気を張って職務に臨んでいただきたい。
ところで菅財務相は、初っ端から批判を受けた。それは、「円安誘導発言」だhttp://www.asahi.com/business/update/0107/TKY201001070402.html。ご承知の通り、円安は輸出企業にとって不利であり、輸出の減少はGDPの減少にもつながる。政府や日銀はこれを防ぐために、為替介入を行うことが出来る。
その意味から言えば、財務相が円高傾向に懸念を示し、介入の可能性に言及すること自身は十分理解できる。また、藤井前財務相が当初「円高容認」とされた発言を行い、批判を受けたことへの反省もあったかもしれない。
しかし、「90円台の半ばあたり」と具体的に望ましい水準にまで口出しするのは、行きすぎではないだろうか。財務省のトップがあまり円高不安を強調しすぎると、消費者や企業が不安を感じ、逆効果になる危険性もあるからだ。一昨年の金融危機以降、円高傾向なのは事実であるが、物価を考慮した実質レートで見れば、極端な円高とはいえないという伊藤元重氏らの指摘も有るhttp://sankei.jp.msn.com/economy/finance/091006/fnc0910060310003-n1.htm。伊藤氏が「『貨幣錯覚』に陥るなかれ」と述べるように、物価変動を考慮するのが経済学の一般的な常識だ。だが同氏が例に挙げるように、物価が下落していても名目賃金を下げようとすると労働者が反発して困難になる(ケインズ的には「賃金の下方硬直性」)など、現実社会ではしばしばこの錯覚が起こる。
財務相は消費者や企業を貨幣錯覚に陥らせたり、自身が錯覚することのないように、十分気をつけて発言して欲しい。もちろん、円高が急激に加速された場合は、手をこまねいて見てはならず、積極的に介入すべきなのは言うまでもない。
後任は、菅副総理兼経済財政政策担当相の兼任となった。また、菅氏が務めていた国家戦略担当相と科学技術政策担当相は、仙谷行政刷新担当相と川端文部科学相がそれぞれ兼任するとされた。
しかし、これらの人事には若干首をかしげたくなる部分がある。もちろん、沢山のポストを兼任すれば多忙になる心配もあるが、もっと大きな問題が2つあると思われる。
1つは、内閣府の存在意義を忘れていないかということだ。内閣府設置法では「内閣の重要政策に関する内閣の事務を助けること」(3条)が任務とされ、その所掌事務の目的は「行政各部の施策の統一を図るため」(4条)とある。即ち、省庁横断的に、政治主導・国家戦略的に政策を推進しようというのが内閣府の役目なのだ。同法18条はその考え方に基づいて、首相が議長を務める経済財政諮問会議と総合科学技術会議の設置を規定している。特に前者は、過去の「大蔵支配」の解消の為に設けられたとされる。にも関わらず、今回の人事では、財務相と経済財政相、そして文科相と科学技術相が兼任するという組み合わせになっているが、これでは「政治主導」ではなくて、各省庁が官邸に口出ししやすくなる危険性があるわけだ。
もう1つは、仙谷氏が国家戦略相と行政刷新相を兼任することだ。これまでの民主党の主張では、予算の基本方針等を決定するのが国家戦略局(現在は室)であり、予算の無駄をチェックするのが行政刷新会議であったはずだ。この2つのポストを同一人物が兼任するというのは理解し難い。鳩山首相はこの兼任を見なおす可能性を示したとの報道もあったが、可及的速やかに兼任を解くのが筋であろう。
3人の大臣には、以上の懸念に対して十分に気を張って職務に臨んでいただきたい。
ところで菅財務相は、初っ端から批判を受けた。それは、「円安誘導発言」だhttp://www.asahi.com/business/update/0107/TKY201001070402.html。ご承知の通り、円安は輸出企業にとって不利であり、輸出の減少はGDPの減少にもつながる。政府や日銀はこれを防ぐために、為替介入を行うことが出来る。
その意味から言えば、財務相が円高傾向に懸念を示し、介入の可能性に言及すること自身は十分理解できる。また、藤井前財務相が当初「円高容認」とされた発言を行い、批判を受けたことへの反省もあったかもしれない。
しかし、「90円台の半ばあたり」と具体的に望ましい水準にまで口出しするのは、行きすぎではないだろうか。財務省のトップがあまり円高不安を強調しすぎると、消費者や企業が不安を感じ、逆効果になる危険性もあるからだ。一昨年の金融危機以降、円高傾向なのは事実であるが、物価を考慮した実質レートで見れば、極端な円高とはいえないという伊藤元重氏らの指摘も有るhttp://sankei.jp.msn.com/economy/finance/091006/fnc0910060310003-n1.htm。伊藤氏が「『貨幣錯覚』に陥るなかれ」と述べるように、物価変動を考慮するのが経済学の一般的な常識だ。だが同氏が例に挙げるように、物価が下落していても名目賃金を下げようとすると労働者が反発して困難になる(ケインズ的には「賃金の下方硬直性」)など、現実社会ではしばしばこの錯覚が起こる。
財務相は消費者や企業を貨幣錯覚に陥らせたり、自身が錯覚することのないように、十分気をつけて発言して欲しい。もちろん、円高が急激に加速された場合は、手をこまねいて見てはならず、積極的に介入すべきなのは言うまでもない。