ちゅう年マンデーフライデー

ライク・ア・ローリングストーンなブログマガジン「マンフラ」

青くたっていいじゃないか。ひさびさのシミタツ節「青に候」

2009年10月16日 | 
 「青に候」(志水辰夫・著/新潮文庫)、志水辰夫初の時代小説が文庫になったので、早速読んだ。時代小説ならもしやあの「裂けて海峡」「背いて故郷」の頃の興奮が蘇る、ハードボイルドな時代小説が読めるのではないかと。一読、志水ファンなら誰もが帰ってきた「シミタツ節」と賛辞を送りたくなる。そんな小説だ。そして、おそらく時代小説の先達としての藤沢周平、とりわけ「蝉しぐれ」を意識したのではないかと思った。あえてシミタツ版「蝉しぐれ」といってしまいたい。

 お家騒動、藩主の側室となった密かに恋心を抱いた幼馴染との脱出劇、藩の中堅として主人公を助ける無二の親友、一目置かれる剣の腕前など、物語のポイントとなるモチーフはよく似ている。だが、武家のしがらみやお家の事情の中で正義を貫きながら格闘する武士の物語にしてしまわないところがミソ。まず、現代小説の視点で「蝉しぐれ」を解体し、それを幕末に置き換えて再生させた、志水辰夫のハードボイルドなのだ。スタンダードをモーダルに解体して新しいクールな叙情を表現したマイルス・デイヴィスに近いといえばいいか。主人公、神山佐平の青さは、どこか自分の居場所はここではないと自分探しをしている若者を思わせるが、組織の事情に従わねばならぬ心情を理解しながらも、孤立を覚悟でそれに背を向ける清さ、潔さがある。しかも、それが最後に一人の女性によって救われるのが、この小説の心地よさだ。そこで一句。(花の時期はすぎたけれど、本を読んだのが9月なので)

 蒼茫の海屹立す曼珠沙華

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 秋の夜はJ・ヒックスのソロピ... | トップ | 何も起きないアクション映画... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

」カテゴリの最新記事