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ちゅう年マンデーフライデー

映画にはない将軍たちの戦後が描かれているH.H.キルスト「将軍たちの夜」

 ハンス・ヘルムート・キルスト著『将軍たちの夜』(角川文庫)を読む。この原作がなぜ今新訳なのか不明だが、そしてもちろん、これを原作としたアナトール・リトヴァク監督、ピーター・オトゥール主演の「将軍たちの夜」がよく知られており、原作を読めば読むほどタンツ将軍役はピーター・オトゥール以外にないと思ってしまうのだが、こちらも、つい「新訳」の惹句に釣られて読んでしまった。

 映画と小説との違い、小説では戦後の物語があるということが大きな違い。小説自体が戦後になって当時の事件を回想するという構成で、裁判記録だとか、当事者の回想録の抜粋やコメント、日記などがたびたび引用されるのだが、果たしてこういう手の込んだ手法が煩わしい。そうした意味で、映画は原作の無駄な部分を排除して実にうまくまとめている。さらにいえば、ここに登場するタンツを除く将軍たちがヒトラー暗殺計画、件の「ワルキューレ」にかかわっているというサブストーリーも邪魔といえば邪魔で、映画くらいあっさり扱った方がよかった。

 では、原作の面白さはどこにあるのか。あたかも、映画にはない、戦後のお話が本当はあったのですよということを喧伝するために、この新訳を出したのではないかと思われる終章の部分だ。将軍たちは、皆戦後も生き延びていたのだ。タンツに至っては東ドイツで軍事顧問をし、権勢をふるっている。この小説はここがポイントだ。うまく立ち回ったものは戦犯にもならず戦後も生きていたという点だ。そして、東ドイツの都市ドレスデンで、ワルシャワやパリと同じような娼婦殺人事件が起きる。ここからいかに犯人を追いつめるかが面白さだが、ひとまず、面白さは映画に軍配をあげよう。
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