2010年12月の忘年会の席で、会員それぞれの本年のベスト本の発表がありました。
一年間、涙あり、笑いありの読書生活、みなさんのお読みになった本も、この中にありますか?
では、発表、いってみましょ~~~~!
自分にしては珍しく、すべて新刊書です!
い)ポール・トーディ『イエメンで鮭釣りを』(白水社)
その絶妙なるユーモアと、現実離れした夢を追う男の姿がこの上なく美しい
ろ)辻原登『許されざる者』(毎日新聞社)
ロマンティックな作品世界にどっぷり
は)ジェラルディン・ブルックス『古書の来歴』(武田ランダムハウスジャパン)
歴史を越えて現在に伝えられた稀覯本にまつわる歴史の香りを胸一杯に嗅いで
キイワードは「ロマン」でした。オイラとしたことが、なんという一年だ!
華恵『小学生日記』(角川文庫)
TV番組で著者のコメントが若いのにするどいことから興味を持ち、エッセイストということで作品を読んでみました。
とにかく小学生の書いたものとは思えないほどきれいな日本語で文章構成が上手いのに驚きました。エッセイの内容は子供の日常ですが、そこから拾い上げられたテーマは普遍的な胸にじんわり と響きわたるものです。才能って恐ろしいです。。。
星野道夫『Michio's Northern Dreams』全6巻(PHP文庫)
1「オーロラの彼方へ」/2「ラブ・ストーリーズ」/3「最後の楽園」/4「森に還る日」/5「大いなる旅路」/6「花の宇宙」
説教くさくなく、明解で、かつ美しい。日常の物事を視野を広げる事により、世界すら変えられる事が出来るのはでないかと思わせる。
道徳的・政治的な方向性へも思考が移行する。オラクルなようでいて、実はリアリスティックで厳しい。
畏怖、峻厳、けれど、優しく、ふくよかな写真。星野道夫の優しい眼差し。極北の動物たちが特に麝香牛が好きです。
北方謙三『林蔵の貌』(集英社)
強いていえばです。
道尾秀介『プロムナード』(ポプラ社)
「光媒の花」と迷ったのですが、エッセイにしました。写真のイメージと違って、なんだか硬派な感じ。
いろんなことに興味があって行動力もあるところがかっこいい!
浅田次郎『終わらざる夏』(集英社)
劇的な感動とまではいかないのですが、浅田次郎のいいとこどり、な小説でした。上手すぎて余計なところもあるんだけど唸らされました。
・・・で〆るつもりでいたら、その後読んだ伊坂幸太郎『バイバイ、ブラックバード』が、久々にきましたよ。
恩田陸『月の裏側』(幻冬舎文庫)
舞台は、九州の水郷の街、日本的な情緒を含んだS、F。圧倒的な文章力が素晴らしい。
恩田陸は、私的には、出来、不出来がかなりある作家だと思っていますが、「月の裏側」は「夜のピクニック」と共に傑作だと思っております。
小川洋子『海』(新潮文庫)
短編集です。「博士の愛した数式」は別にして、小川洋子の短編には、すんなり入り込めない個性的な作品もありますが、これは、とても読みやすい作品集です。表題作「海」もですが、「ひよこトラック」や「ガイド」も、とても素敵な作品だと思います。
佐々木譲『警官の血』(新潮文庫)
課題本でも取り上げられた道警3部作とは、違っていますが親子3代にわたる警官の物語。自分自身が会社組織に縛られているのに、この人や横山隆夫氏の警官物になぜか共感を覚えます。今野敏氏の「同期」という作品もこれかれ読む予定です。
内田和成『仮説思考 BCG流 問題発見・解決の発想法』(東洋経済新報社)
人の感想を聞いて読んでみました。そして、自分の感想を人に話しました。
~本の内容について会話する~私にとって稀有なこの出来事は、おもしろ本棚に参加するきっかけの一つになりました。
ベスト本の紹介にはなっていませんが・・・。
桐野夏生『ナニカアル』(新潮社)
桐野夏生は嫌いですが、自分の中で全く意識されていなかった林芙美子という作家を再認識、再評価させてくれた作品だったので。
木村元彦『社長・溝畑宏の天国と地獄―大分トリニータの15年』(集英社)
7月に読んだのに、未だにこれを越える興奮はない今年。この本がすごすぎたのか、後半戦の読書生活が貧しかったのか…。すごすぎと思いたい。
サッカー不毛の地、大分でW杯の試合をする!と決めた自治省官僚が中央&地元の政界、財界、スポーツ界を巻き込んで、Jリーグカップ優勝チームを育て上げ、さらに、そこから転落していくダイナミックノンフィクション!
政治力学本で、マーケティング本で、スポーツ経営学本ですが、なんたって山あり谷ありジェットコースターストーリー本です!サッカーに興味のない方にもおすすめ。溝畑さん、今は観光庁長官でベストドレッサー賞受賞の注目の人物だし。
次点はクレア・キーガン『青い野を歩く』(白水社)。
静かでひたひたと怖おもしろい連作短編でした。
菅野雪虫『天山の巫女ソニン』(講談社)
1~5巻あります。巫女としてはおちこぼれのソニンですが、一人の人間としてはなかなかの者かと。児童書とあなどって読むと、結構考えさせられます。そして何より、おもしろかったです。
エリザベス・ムーン『くらやみの速さはどれくらい』(ハヤカワ文庫SF)
SFですがあまりSFぽくない主人公のルウは自閉症者ですが、感受性の強い聡明な青年です。彼の視点から見た周囲の人間像や社会のありようが細かに書かれています。ダニエル・キースの「アルジャーノンに花束を」に近いかも。
デイヴィッド・ベニオフ『卵をめぐる祖父の戦争』(ハヤカワミステリ)
第二次世界大戦中のロシアから見たナチスが語られています。ロシア内部での階級問題、外では残酷なナチスという状況ではありますが、なんともまったりとした冒険小説でした。最後のシーンは予定調和か?
最後のシーンといえば、評判の高い「ラスト・チャイルド」(ジョン・ハート/ハヤカワ・ミステリ文庫)の手紙の最後の1行には泣けました。
百田尚樹『錨を上げよ』(講談社)
今年読んだ小説で一番長い(1200ページ)。
江國香織著『抱擁、あるいはライスには塩を』(集英社)
実は今年のベスト本は上半期に読んだ「小さな村の小さなダンサー」(リー・ツンシン/徳間文庫)と確信していたのですが、つい最近読み終わったばかりのこの作品に。
「抱擁~」は登場人物も多く、年代があっちこっちに飛び、読みながらも振り回されるのですが、読み終わったときに、「この小説好き」と思いました。
好きなものは欠点も気にならず、理由も言い表せないと実感した一冊です。
稲垣進一・悳俊彦『江戸猫 浮世絵 猫づくし』(東京書籍)
歌川広重、歌川国芳など江戸のトップ絵師による猫の浮世絵が満載。猫好きには嬉しい一冊、オールカラーです。
定年退職なさった大先輩からのプレゼント本、大事にします。
足立倫行『妖怪と歩く―ドキュメント・水木しげる』(新潮文庫)
水木しげるに、3年間密着取材し、ノンフィクション作家の目から、客観的に観察している点が、リアルで、本人の本質に迫っていて、読みごたえがありました。今年は、「ゲゲゲ~」にはまった一年でした。
中森明夫『アナーキー・イン・ザ・JP』(新潮社)
明治・大正のアナーキスト大杉栄と、平成のパンクキッドとの接近遭遇。ともに昭和を知らない二人が、2010年を駆け抜ける、この疾走感、高揚感。「NO FUTURE NO CRY! 未来はないけど、泣いちゃダメだ!!」
室生犀星『蜜れ』(国行会講談社・など)
品がよくエロチックでした。室生犀星も変態か。でも女性におモテになったとか。
岸惠子『巴里の空はあかね雲』(新潮文庫)
キップがよく淡々としていて読んでて楽しかった。早く「雪国」が観たい。
笠井潔『サマー・アポカリプス』(創元推理文庫)
実は夏から読み切っていないのだけども。どんなラストになるにせよベスト本に入ります。
あぁ『哲学者の密室』を読めるのはいつになることやら。
アイリーン・キャディ『フィンドホーンの花』(日本教文社)
一応ノンフィクションと言うカテゴリながら、フィクションとしても読める。筆者が自身の数奇な人生に対して、葛藤し罪悪感を感じながらも信念を持って生きていく姿に感動しました。私はあんな風にはきっと生きられないから、より心に刺さりました。
カズオ・イシグロ『日の名残り』(ハヤカワepi文庫)
課題本になった「わたしを離さないで」もわたしはとても気に入りましたが、それを超える印象を受けました。
暮れゆくひととき(主人公自身も執事という仕事も大英帝国も)を肯定的にとらえる価値観が合っているのかもしれません。
①姫野カオルコ『リアル・シンデレラ』(光文社)
月並みな言葉ですが、主人公の心の綺麗さに、胸を打たれました。姫野カオルコ流、シンデレラ。3つの願いの3つ目を読んだ時には涙がでました。
②佐藤正午『身の上話』(光文社)
「えっ、この話ってそういう話なの・・?」という、途中からの急転に、少し大げさですが、小説というメディアの奥行のようなものを感じました。私はあまり推理小説を読まないので、推理小説としての評価はわかりかねますが、題名に副った小説だと思います。
③絲山秋子『妻の超然』(新潮社)対象期間終わりぎりぎりに読んだ本です。読みやすいけど奥深くて、近いけど遠く、暖かいようで冷たい、普通のようでどか変読み終わた後にうまく言葉で表現でき。っ、ないようなゴリゴリとしたものが心に残りました。
【番外編(ベスト課題本)】
課題本の「大番」(獅子文六/小学館文庫)と「わたしを離さないで」(カズオ・イシグロ/ハヤカワepi文庫)、課題本に取り上げられなければ読むこともなかった作家でしたが、同じ作家の別の作品も読みたいと思ったほど楽しめました。
織田作之助『青春の逆説』(角川文庫)
ダメ男の青春遍歴だから。
森鷗外『興津弥五右衛門の遺書』
ほかに加えて世田谷文学館「鷗外と娘たち」展もともと「森茉莉かぶれ」ですが、最近縁あって鷗外づいています。書くと長くなりますので。
カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』(ハヤカワepi文庫)
課題本をあげるのは面白みがないようですが、やはりこれです。初めて読んだカズオ・イシグロ。今までに出会ったことのない作品世界に魅了されました。
濃密で緊迫感あふれる物語は、読み終わったあとも深く胸に残っています。
貫井徳郎『空白の叫び』(文春文庫)
暗い話なのに読まされてしまう。重い題材なのに物語として最後まで読ませる筆力に感心しました。決して楽しい話じゃないのですが。
伊坂幸太郎『SOSの猿』(中央公論新社)
ハイペースで書き続けているこの若い作家の一つの節目となる大事な作品だと思ったから。
森見登美彦 『夜は短し歩けよ乙女』(角川文庫)
今年は全体的に不作。私と先輩の目を通して語られる日常に癒された。一方の主人公である先輩に共感。
湊かなえ『告白』(双葉文庫)
色々悩みましたが、映画化された話題作で。ラストに向けて綱渡りで全力疾走してる感じが印象にのこりました。
ウィリアム・トレヴァー『アイルランド・ストーリーズ』(国書刊行会)
同じ著者の「密会」を読んでアイルランドにハマった。イギリスではなくアイルランドの素朴で湿っぽいのに妙に過激な所が有る感じが良かった。
裏本は 荻上直子『モリオ』(光文社)
映画も好きだけど小説も同じ香りがします。もっと書いて欲しいけど小説家にはならないだろうなぁ・・と。
追悼井上ひさしということで、読む前から今年のベストは「一週間」(新潮社)にしようと心に決めていました。
深いことをやさしく、重いことをおもしろくという作者のモットー(正しくはちょっと違う言い方だったと思いますが)どおり、重いテーマを井上流に書いています。独特の形容など、それだけで笑えるし、会話部分はまるで井上芝居の舞台を観ているようで、舞台上で登場人物がしゃべっている場面が、くっきりと浮かんでくる。
「一週間」は別格のベストということで、それ以外では去年の本ですが、松井今朝子の「円朝の女」(文藝春秋)が印象に残っています。泣けました。
村上春樹『1Q84 BookⅠ』(新潮社)BookⅠ~3
話題の本が読めた満足感!
『光待つ場所へ』(辻村深月/講談社)の短編「しあわせのこみち」
主人公が一番出会いたい「感性を共有でき、好きなことを好きなだけ話せる人」に出会うまでの日々にほほえましく共感できたら。
辻村深月の作品は、奇をてらわないところが好き。全作品を読破するのが当面の目標。
窪美澄『ふがいない僕は空を見た』(新潮社)
第8回「女による女のためのR-18文学賞」大賞受賞作品
「ミクマリ」から始まる5編の連作短編集。「コスプレ性愛小説」と称される「ミクマリ」はいわばキャッチーなつかみみたいなもので、さしておもしろくもなかっだが、続けて読んでいくとぐいぐい引き込まれた。
登場人物たちが、世の中に蔓延する肥大した好奇心と悪意の中で、それぞれ自らの中にどうしようもなく重いものを抱えながら、もがくように無様に生きている様に感じ入ってしまった。重い小説でもなければ、泣ける小説でもない。思わずため息をもらして天を仰いでしまうような小説である。
川本三郎『いまも、君を想う』(新潮社)
妻の追想記。カポーティ、荷風に通じる静かな境地を窺わさせる。今でも心の中で生き続ける妻をいとおしく想う「悲しみ」がコラージュされている。
ライムスター宇多丸・前原猛・高橋芳朗・古川耕・郷原紀幸『ブラスト公論 誰もが豪邸に住みたがってるわけじゃない 増補新装版』(シンコーミュージック)
(どちらかといえば非モテな)男の鬱屈を不必要なまでに掘り下げて熱く語り合う濃密な座談会本。実際には彼らは別に非モテってわけじゃないんだろうけど、なんだかすごく「わかる」ものがあります。
ドラマ化されて話題になった久保ミツロウの漫画『モテキ』の主人公の心境を論理的に知るための副読本としてもおすすめ。
【次点】コニー・ウィリス『リメイク』(ハヤカワ文庫SF)
伊藤計劃『虐殺器官』(ハヤカワ文庫JA)
アレン・カーズワイル『形見函と王妃の時計』(東京創元社)
澤田ふじ子『深重の橋』(中央公論新社)
歴史の谷間で時の権力の理不尽さに耐え、職人魂や芸への真摯な態度を貫いた無名の人々を描いてきた"橋シリーズ"の最高傑作である。
連綿と命脈を保ち続ける日本文化の基層がどんな人々によって支えられてきたか、通説に惑わされず丁寧な論考を重ね、それを想像力で豊かな物語として再現。特に、悪評の高い足利義政の人物造形は見事な出来栄えである。
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