【人生をひらく東洋思想からの伝言】
第85回
「千日の稽古を鍛とし、万日の稽古を練とす。能々(よくよく)吟味有るべきもの也。」(五輪書)
宮本武蔵の『五輪書』は、晩年の武蔵が剣の達人としての極意をまとめたものである。
極意と言っても、たんなる抽象的な奥義を述べたものではなく、
実践的な構え方や視線のおきどころや 相手の隙の突き方などや、
意識の置き方など具体的なものに満ちています。
そのひとつが、今回の言葉になります。
鍛錬というのは、もともとは金属を火や水を通して鍛え練り、
刀剣に仕上げていくことを意味していまして、
武蔵はこれを具体的な練習日数の単位として鍛と錬の二語にわけて意味づけしなおしています。
一般的に技の習得にとって、具体的な目安でもあります。
スポーツや芸事でも千日(約3年)の練習を経た動きは
一生の技として身につくと言われています。
万日という10年単位の稽古が積み重なると、
千日の稽古で得たものより格段に質的にも高い技術と認識が生まれ、
それを重ねたことによって、質的にも深い変化が起きると言われています。
それが、量から質の転化といわれているもので、
そのことを武蔵はこの極意の中で伝えているように感じました。
続けることによって得られる気づきや感性が重なり合うことで、
より深い認識力が生まれて、新たな境地に達していくのではないかと感じます。
「継続は力なり」ですね。
参考文献
『声に出して読みたい日本語』齋藤孝著 草思社