彼はヴァイオリニスト。小学5年生の時に心臓の手術をして、たぶん麻酔のミスで目が見えなくなった。中学3年のときにお母さんがいなくなり、実業家だったお父さんが男の子2人のお弁当を毎日作り、一生懸命育ててくれた。そのお父さんは事業が傾き、彼が20歳の時にいなくなり、住み慣れた家を債権者から逃れる様に、ヴァイオリンと身の回りの物だけを持ち、ひとり家を出てこの5年間生きてきた。彼の家は今、東京のある街の駅のすぐ近くにあるマンションの4階。4畳しかない部屋に、ピアノ、本棚、テーブル、琴、ヴァイオリンなどきちんと整理されて、収まっている。私は彼の家を訪れたとき、自分が恥ずかしかった。目の見えない彼がこんなにもきちんと生活している。彼の名前は穴澤雄介。2枚目のCDが、年内には発売される、今回は彼の作曲集だ。ぜひ多くの人に聞いてもらいたい。彼の生き方が伝わったら素晴らしい。彼に絵の展示会でご案内をした。私の説明を脳裏のキャンパスに描いていた。後に、あの絵を描いた何々さんですと紹介すると、作品の話で会話がはずんだ。彼は言う。目が見えない分、記憶力が発達しましたね、と。
(高崎市民新聞 2000年11月02日号より転載)
(高崎市民新聞 2000年11月02日号より転載)