いい日旅立ち

日常のふとした気づき、温かいエピソードの紹介に努めます。

「かきつばた」の歌~技巧を凝らして~在原野業平

2019-06-05 21:25:05 | 短歌

唐衣きつつなれにしつましあればはるばるきぬる旅をしぞおもふ

分かち書きすると、

唐衣
きつつなれにし
つましあれ
ば はるばるきぬる
たびをしぞおもふ

古今集に採られた歌だが、
伊勢物語第9段に出てくるので有名である。
当時の短歌手法を、ふんだんに使っている。
各行の先頭を並べると「かきつばた」になるという趣向である。

「唐衣」は「着る」の枕言葉である。
「唐ころもきつつなれにし」は、
「つま」を引き出す序言葉になっている。
さらに「つま」は着物の「褄」(裾の端の部分)と
「つま」を掛けた掛け言葉である。
同様に、
「つま」は、着物の「褄」(裾の端の部分)と「妻」をかけた掛け言葉である。
同様に、「なれ」は「馴れ」の、
「はるばる」は「張る張る」と「遙々」の,掛け言葉である。
さらに「唐衣」「着つつ」「熟れ」「張る」が着物にかかわる
「縁語」である。

そして、2つのことを、
同時に歌っている。

<衣を着古したので裾を張って整えている>
<慣れ親しんだ妻をおいて出てきてしまったこの旅が悲しく思われる>

これだけ手が込んでいるのが、
当時の貴族たちには、戦いの手段として、極めて重要であった。







新つじどう会の作品⑦~6月の詠草~

2019-06-05 18:13:02 | 思い出の詩


つじどう会は、地域の短歌サークルである。
月1回、辻堂図書館で開かれる。
現在会員5人。

今回は、6月分詠草から、6首挙げてみる。

……

なりわいに何をし選ぶ二十歳の君は 十年失いいまひとり居て

赦したし 障がいゆえのもの言いに 思わず応えて錐でもまるる

なべてみてやさしきひとのよにありてなぜにあらそうなぜにあらがう

ホームへの入居を促されいし独居の友の応答なければ別れと決める

「嘆き節」と老い人短歌を評せし人の心計りつつ詠むは虚しく

訪ねたる嫗は声に力ありて「百歳越え」を宣言したり


















iris(カキツバタ)と業平とピーター・マクミラン

2019-06-05 17:25:55 | 短歌


今は、短歌が英訳されることも多い。
このブログでも、俵万智さんの短歌の英訳を載せたことがある。
詩人で翻訳家のピーター・マクミランさんが、
在原業平の次の歌を
英訳した。

……

からころも着つつなれにし妻しあればはるばるきぬる旅をしぞ思ふ

現代語訳
<着なれた衣のようになれしたしんだ妻をおいてきているので、はるかとおくに遠くに来てしまったこの旅を思うよ>

これは折句で、各語の頭をならべると「かきつばた」となる。
マクミランさんは、これを英訳するとき、「折句」を英訳でどう生かそうかと心を砕いたそうだ。

結局、次のように訳した。

In these familiar lovely robes I'm
Reminded  of the beloved wife
I have left behind, stretching far-
Sadness, the hem of journeys.

これで、各行の頭を並べると、iris(カキツバタ=アイリスの花)となるので、
安心したとのこと。

この歌は、「伊勢物語」第9段にある。

詳しく説明するときりがないが、
この歌は、
枕詞
序詞
縁語
等の技法を駆使し、複雑な意味と内容を持つ。

当時の日本語の粋を集めた傑作である。

なお、この記事は、朝日新聞に載ったものに、
解説を加えた文章である。