約20年前に出版された本に、
宮柊二の家族詠の評論がある。
まだ、介護が今ほどの重要性を持たなかった時代、
宮柊二は、両親、妻、子どもという3世代家族を統べていた。
育児、仕事、介護という三重苦は、かれが長男である故、
より大変な生活を強いられた。
……
この生活を続けるうち、本人は身体を壊して入院し、
常に床に臥す父を介護していた母が、吐血して倒れる。
こどもも、病が絶えない。
忙しさに耐えられなかった妻が、自殺未遂をおこす。
それでも、一家の大黒柱としての宮柊二と妻とは、
生活の折り合いをつけねばならなかった。
病気の両親と夫婦、子供3人の生活。
今の時代を先取りする父の介護の歌を、宮柊二は詠む。
そこに、現在の時代への取り組みのヒントはないだろうか。
いずれにせよ、現代、痛々しいとばかりはいっておれない歌たちである。
……
老父を抱きかかえつつ巷かへる生の敗残に入りしかも父
人の生さまざまにして泪持つたとへば病み臥すわが父も一人
昂りて夜に喚く父の晩年をわが守るべし吾は子なるゆえ
妻と子と老父母をかいいだきわが往かんとすす病みてはならず
病み床に日中ねむれば尖りたる父喉仏冬の日を浴ぶ
玄関に父の笑ふが聞こえ来る笑わせいるは末の夏実か(夏実は宮の娘)
枇杷むけば汁したたるを床の上ゆ眼放たず父が待つなり
下痢後を処理してくれて嬉など感謝記せし父の日記はや
……
3世代住宅に住みながら、涙ぐましい努力が続く。
父の逝去前後のことは、改めてまとめたい。