終戦直後、
宮柊二は、復員(戦争から帰る)して、黒部に遊んだ。
次の5首をつくっている。
たたかひを終わりたる身を遊ばせて石群れる谷川を超ゆ
河原来てひとり踏み立つ昼時の風落ちしかば砂のしづまり
砂分けて湧き出づる湯を浴まむとしつぶさに寒し山のはざまの
山川の鳴瀬にむかひ遊びつつ涙にじみ来ありがてぬかも
めぐりたる岩のかたかげ暗くして湧き清水ひとつ日暮れのごとし
ここでは、戦争が終わったという安心感も、解放感もない。
また、平和な生活がまっているという喜びも感じられない。
むしろ暗く、くぐもっている。
次のような歌人の歌とは、一線を画している。
戦争を肌身に感じて戦ってきたからだろうか。
聖断はくだりたまひて畏くもあるか涙しながる(斎藤茂吉)
戦ひに果てし我が子も聴けよかしかなしきみことをくだし賜うなり(釈超空)
あなうれしとにもかくにも生きのびて戦ひやめるけふの日にあふ(河上肇)