(承前)
②
何かお酒の肴は、とみるとアジの唐揚げを二杯酢につけたもの、子芋のたいたもの、「和田八」のカマボコの頂き物、みな秋らしくおいしそう、これではブランデーなんか飲んでられない、「剣菱」を熱燗にして、これも頂きもののスダチを絞り込んでスダチ酒。「でも、女はそう重視しませんよ。なんでやろ。忘れちゃいますよ。男の作家の中にはよく、女言うものナニにことばっかり考えてるように書く人があるけど、あれ、ウソ」
と私は匂いのいいスダチ酒を含んでいった。
「朝、コトがあったって、すっかり忘れてるのがオンナ。昨日はナニしたって、翌日すっかりわすれて、この前はいつだったっけ、なんでおもうのが女」
「しかし、その場その場では、相応によろこんではりまっしゃろ」
「そうとしても、女はすぐ忘れるんですよ、台風一過、快晴の空がもどるようなもの」
「ウーム。男は台風一過を相手に、えらい目をしてふんばっておるのか」
おっちゃんはしばし、感慨無量の面持ちであったが、気を取り直す如く、スダチ酒をぐっとあおり、
「それはそれは人の女房の場合でっしゃろな、つまり、ミセス、人妻、この手合いは傲りたかぶり、慣れてしもうて感激が薄い、男の獅子奮迅の働きを、屁とも思うておらん、ああ有難い、勿体なやと感謝の気もおこらん、それゆえ、台風一過、ケロリとするが、そういう傲慢な思いあがったミセスやヨメハンはさておき、ミスとなれば、うれしいと思うでしょうなあ」
「それはあるかもしれません。ミスにもいろいろあるけれど、男と同棲みしていない人には1回1回に感激があるかもしれません」
と、私はおっちゃんの夢をこわさないように言ってあげた。
こんな話をオトナがしてると知ったら、暴走族のジャリ、よけい当てつけのように走り回るやろなあ。
(終わり)