いい日旅立ち

日常のふとした気づき、温かいエピソードの紹介に努めます。

東京裁判に思う~宮柊二のたじろぎ~

2019-06-19 20:14:14 | 短歌


戦後短歌のエース、宮柊二と近藤芳美。
近藤芳美は、あらかじめ、新しい短歌を提唱しており、
それゆえ、戦後の歌壇に自らの力を注ぎ込んだ。
それに対し、宮柊二は、伝統的な精神を受け継ぎつつ、
自らの作品をもだえ苦しむように作らなければならなかった。

東京裁判についても、連作「砂光る」を発表したが、
なにか、割り切れぬ、魂の底がゆらいでいる、
そういう歌たちであった。
25名のA級戦犯、そのうち7名の死刑確定、
という判決を、複雑な思いでラジオを通して聴いたのである。

……

重ねこし両手を解きて椅子を立つ判決放送の終わりたるゆゑ
二十五名の運命をききし日の夕べ暫く静かにひとり居りたし
硝子戸越しわが胸板に射して来つ淡淡し霜月十二日の夕陽
放送をききゐしあひだわが視野に花小さく立ちてをりし向日葵
苦しみていくさののちを三歳経し国のこころを救ひたまはな
金色に砂光る刹那刹那あり屋出でて孤り立ちし広場に
こころ深くなれば聞きゐつこの夕べわが耳もとにあそぶ風あり

……

とくに、第5首の「国のこころを救ひたまはな」というフレーズは、宮の
実感を詠ったものであろう。
国の苦しみは、敗戦後三年たってもかわらないし、宮自身が、救われる思いをもっていなかったことが感じられる。

そこを、どう突破できるか、ということが、
宮の悩みであり、思想の萌芽でもあったのだろう。


























新・短歌鑑賞②~とどまらざらん~馬場あき子

2019-06-19 18:04:55 | 短歌


馬場あき子。
昭和3年東京生まれ。「かりん」主宰。元「朝日新聞」歌壇選者。
歌集「桜花伝承」「葡萄唐草」など。
歌壇を代表する歌人である。
……

夜半さめて見れば夜半さえしらじらと桜散りおりとどまらざらん

夜中、たまたま目覚めて外を見ると、そこには激しく花を散らす桜のひと木が。人の営みとは異なる時間の中で、いつまでも限りなく散り続ける花。花が散るという儚いはずの時間が、結句の「とどまらざらん」によって、永遠に続く時間であるように錯覚させる。馬場あき子には桜を詠った名歌が多いが、桜と時間が、分かちがたく結びついている歌が多い。次の一首も桜の巡りの中に、人生時間をしみじみ感じとるという構成になっている。

……

さくら花幾春かけて老いゆかん身に水流の音ひびくなり









新・短歌鑑賞①~3000の髪そよぐ~

2019-06-19 17:35:15 | 短歌


福島泰樹。
昭和18年東京生まれ。「月光の会」主宰。
歌集「バリケード・1966年4月」「茫漠山日誌」など。

福島泰樹は、学生として、60年代の学生運動にかかわった。
その経験から、多くの短歌を紡ぎ出した。

……

一隊をみおろす 夜の構内に3000の髪そよぎてやまず

60年代学生運動のさなか、指導者として、バリケードを築き、体制に抗した。
校舎の上に立てば、眼下には「構内」を埋め尽くした同志たちの「3000の髪」がそよいでいる。「髪」といえば、普通は、「美」や「やわらかさ」を表すが、ここでは「たたかい」や「意志」を象徴している。夜の中の髪、黒の中の黒、そこに青春の高揚と不穏な詩情があふれている。

………

その日からきみみあたらぬ仏文の 二月の花といえいヒヤシンス

学生運動の旗頭で会った作者に、同志がいた。ところが、いつもは講義に出るのに、今日もその姿が見えない。恋心とも詩情ともつかぬ思いが、頭をよぎる。

……

二日酔いの無念極まるぼくのためもっと電車よ まじめに走れ

激しい戦いの中で、傷つき、疲れている。そのような中でも、ユーモラスな感慨がわいてくる。何も感じてくれない電車にやつあたりしているのだが、いくら騒いでも、暖簾に腕押し、の当局へのいら立ちを言いたいのかもしれない。