――――茶番だ。
金髪赤目の少年は内心で呟いた。
なぜなら少年は一見レトロな雰囲気を出す喫茶店の正体。
そして、本来合うはずも無い人間と出会い、話すことができることに違和感を覚えない現象。
その全てを少年は知っていたため、少年は茶番と断じた。
何せ神秘側の人間や化け物共が続々と入店してきては仲良く喫茶店で寛ぐ光景など本来はありえない。
それも現代の二流三流のものではない。
少年がかつて生きていた時代にも劣らない水準の異能を有する人材が来るのだ。
例えば先程から随分と騒がしいテーブルに座っている、眼鏡の青年は一見ごく普通の学生に見える。
しかし、掛けている眼鏡は一級品の魔眼殺しである。
そしてその眼は、かつて神代の時代の神々の物とどこと無く似たものを感じ取った。
おまけにそれが一緒のテーブルに2人座っており、女性の方もまた別の奇跡を体現した存在と来た。
奇跡の存在は1人だけでない。
対面に座っている少女3人の内、黒髪の少女は奇跡の杯を再現した存在と思われる。
残りの銀髪白人の少女は人造人間、銀髪褐色肌の少女は魔力で出来た存在と実に個性豊かだ。
少し視線をずらせば一心不乱にカレーを食う人蛭。
もとい吸血鬼だが、血を吸わずにカレーを食べることに少年の好奇心をくすぐる。
何せかつては、英雄として数多の魔を倒して来たがああも常識が飛んだ存在は初めてである。
さらに視線を動かせば、他にも片腕がない青年、眼鏡を掛けた地味な少女。
紫色の髪を有する2人組の少女、栗毛の学生服の少年と赤毛ツインテールのペア。
等などと実に多彩な面子が揃っている。
その全ての正体を少年は知っており、こんな場所で一緒にいてはいけないものだと知っていた。
魔は魔を引き寄せる。
神秘は神秘を引き寄せる。
と俗に言われているが明らかに限度を超えている。
正直な所よくまあこの場で殺し愛、ならぬ殺し合いが起こらないとは、と少年は感嘆するほどだ。
――――まぁ、皆知った上で楽しんでいるのでしょうけど。
そして少年は思う。
恐らく、この場にいる皆はこの異常事態を認知している。
だが、同時にこれが夢、あるいは幻のようなものだと知っている。
だからこそ、無用な争いをせず今この時間を過ごし、楽しむことを優先しているのだ。
「ギル君?」
「なんでもないですよ、由紀香」
自分も同じだ、ゆえに精々この喜劇を今は楽しむのみ。
古代ウルクの王にして最古の英雄で英雄王のギルガメッシュは現在、神代の薬で子どもの姿になっていた。
この状況を壊すことは今の状態でも十分可能であったが、今日はこのアーネンエルベの1日を楽しむことを優先した。
※ ※ ※
カオスな喫茶店アーネンエルベの中でも特に目立つ組。
両儀式、遠野志貴、イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
クロエ・フォン・アインツベルン、美遊・エーデルフェルトの5人は相変わらず談笑していた。
「で、型月の主人公2人がロリコン、
という事実を確認したわけだ。ああ、こっちに近寄るなよロリコン絶倫眼鏡」
Fateの主人公である衛宮士郎、月姫の主人公である遠野志貴。
両者は型月における代表的な主人公で、多くのSSでも主人公として活躍している。
公式の見解によれば両者の相性は大変悪い、と言われているが今回目出度いことに共通点としてロリコンであることが判明した。
「ご、誤解だ!両儀さん!!」
「そうよ!お兄ちゃんはロリコンじゃなくて、私の事が好きなだけなんだから!
あ、でも遠野さんは近づかないでください、というか私に話しかけないでください」
「同意、話しかけないで」
「な、なんでさーーー!!」
完全にロリコン絶倫眼鏡と認定された遠野志貴に味方は存在しなかった。
とはいえ、これ以上ロリコン談話をしてもしょうがないとクロエが口を開いた。
「遠野のお兄ちゃんがロリコンなのはもういいわ、軽蔑するだけだし。
秋のリメイク版FateのPVがまた新しく出たわけだけどみんなどう思う?」
今年の秋に放送が予定されているUfotable版リメイクFateを議題として持ち出す。
【Ufo版】Fate Stay night PV2
「すごかった!というか、お兄ちゃんカッコイイ!!」
「士郎さんの服装も新しくなっていた……すごく期待している」
そして大好きなお兄ちゃんが絡んだ話なだけにイリヤ、美遊の順で食いついた。
『空の境界』『Fate/Zero』と極めて評価が高いあのUfotableが製作しただけに2人に期待は高かった。
「俺はアーチャーとランサーの戦いが良かったかな。
ゼロでも戦いの描写が凄く良かっただけに今回もそうしたシーンが凄く楽しみだね」
アーチャー対ランサーのシーンはPVゆえに僅か数秒しか出ていなかった。
しかし、その数秒だけでも一体何人のアニメスタッフが屍となったのだろう?
そんな感想が出てしまうほど、精巧で完成度の高い描写であったため志貴は今後に期待を膨らませた。
「あれ、よく考えてみれば両儀さんはずっとUfotableで出演していましたよね?」
「ん、ああ。そういえばそうだったな」
イリヤがふと疑問を口する。
考えてみればここにいる全員はアニメに一度は出演したことがある。
しかし、Ufotableで出演したのは唯一人両儀式だけであった。
「でも、オレはゼロみたく怪獣を聖剣でなぎ倒したり、固有結界を展開なんて派手さには欠けていたけどな」
「戦闘シーンとかそこらのアニメよりもずっと写実的で動きまくりだったじゃないの!
というか、行き成り銀幕デビューだったし!!……っく、これが銀幕ヒロインの余裕ね……」
クロエが式の言葉に激しく突っ込みを入れる。
確かにゼロほど派手ではなかったが、見事に再現された型月世界。
そして、ファンも大満足な丁寧な描写は全7章を好評を共に見事に完結した。
「大丈夫だよクロエ。遠野さんなんて『アレ』だったし、わたし達はまだ希望が持てるよ」
「……うっ、そうだったわね。
たしかにそれを考えると恵まれているわ」
「あれは、悲惨」
「型月は世界観が難しいからな……」
イリヤの慰めにクロエが自分が如何に恵まれているか確認する。
美遊、式の順で型月の黒歴史を思い出すと、同情と哀れみの視線を月姫の主人公である志貴に向けた。
「あ、うん。
イリヤちゃん、そして皆言いたいことはわかるけど、
アレ呼ばりされると地味に傷つくから、あと同情の眼でみないで、お願いヤメテ」
実は月姫はFateよりも先にアニメ化していた。
だが、原作の設定を無視したもの、例えばシエル先輩がカレーではなくスパゲティを食べる。
と、原作ファンに納得できない描写が多々あり、製作に原作スタッフが携わらず。
おまけに監督が原作つきアニメに対し独自路線を展開しがちなスタンスを持っていたため賛否両論を巻き起こした。
とはいえ、当時の技術水準と原作物のアニメ化の水準を考えれば特に悪くはない。
元々1クール全12話で収めよ、ということ事態ボリューム的に不可能であり、全てを描写しきれない。
ある程度の短縮、そして改変は原作物アニメでは間々あることだ。
また、原作未体験者、海外コミュニティなどでは単体のアニメ作品として、そして良質なBGMで高く評価されている。
だがそれでも、原作ファンにとっては納得しにくいのは事実だ。
型月世界は世界観設定に細かいことが売りにも関わらず、それをぶち壊してしまった。
ゆえに型月ファンの原作至上主義的な性質もあいまって今日では「アニメ化なんてされてないよ」と黒歴史扱いされてしまった。
なお、作者第三帝国の感想として、当時型月に関する予備知識がないまま一通り鑑賞したが「???」な状態であったことを記す。
型月に嵌ったのは友人に進められて鑑賞したDEENの運命の夜の方からである。
以後、ゲームをプレイし、漫画の月姫、メルブラも読み出しウェブ小説の存在を知るとそちらにも熱中。
読んでいく内にやがて自分も書きたい。
と思い「弓塚さつきの奮闘記」を執筆、5年の時間を掛けて今に至った。
「オレの『空の境界』2010年の『Fate/Zero』
今年の秋の『Fate/stay night』の全てはUfotableが担当しているから、そのうち月姫もUfotableがリメイクするかもな」
「だといいですけど両儀さん、俺の場合はPCのリメイク版が先に出てほしいです」
「でも、遠野さん。きのこはダークソウルに忙しいから、当分先だと思いますよ」
志貴の願いを打ち砕くように、イリヤが無慈悲な現実を突き出した。
原作者がゲーム、ダークソウル2に忙しい事実は4月のエイプリールフィールネタの路地裏ラジオにて。
弓塚さつきが「ダークソウルで忙しいからー、三体の黄金のゴーレムに囲まれているからーまた弓塚さんに丸投げー?」
と呟いたように創造神たる原作作者は絶賛自分の趣味に邁進している。
そもそも、1月の時点で原作者は下のように記していた。
とまあ、そうはいっても月姫もガシガシやってるからそこは大目に見てほしい。
らっきょも終わったし、具体的には週五月姫・週二Fateぐらいの割合。ホントだって。
……ホロウの収録とかEXTRAまわりとかあるけど、そこはそれ、一週間を九日ぐらいに増やせればなんとか……なる……さ……
「そうは言うけどよキノコ! もしダークソウル2が出ちまったらどうするんんだい!?」
「その時は―――笑ってごまかすさぁ」
仕事しろコノ野郎(泣)といいたくなるのは自分だけだろうか?
「ま、ゆっくり待つしかないさ。
『魔法使いの夜』といい先延ばしはいつものことだから」
「年単位で既に待っているんですけど!
……くっ、これがシリーズを完結させたヒロインの余裕なのか!?」
『未来福音』でどう見てもハッピーエンドを迎えた式の余裕な態度に、思わず志貴が突っ込みを入れた。
「でも、遠野さんは私達と同じく漫画版があるし完結している」
「あ、遊美。それって佐々木少年のね!あれは、よかったわよねー」
美遊が漫画版の「月姫」を持ち出すとクロエが同意を表明する。
通常、アニメやラノベ、ゲームの漫画版は大抵途中で打ち切られるものであるが。
同人誌時代には型月物を描いていたという作者の佐々木少年の原作に対する愛もあって見事に完結させ、今日でも極めて評価が高い。
原作に忠実に再現しているためテンポが遅い、という批判がありながらもコアなファンを満足させ、原作スタッフすらも絶賛する出来に至った。
実に7年半の時を経て見事に完結した実績は、同じ型月シリーズの「月の珊瑚」の漫画版執筆に携わったのは決して偶然ではない。
「けど、私達は今年の夏に3DSのゲームに出演するけど、月姫に新作は出ないのは事実」
美遊の一言で再度志貴は格差社会の現実を思い知り、再度絶望の淵に立たされた。
月姫はスピンオフのメルブラこそあっても月姫そのものを題材とした新作のゲームは「歌月十夜」以降未だ登場していない。
悲しいかな、現在型月の主力商品はFateシリーズであるため、原作者の遅い仕事ぶりと相俟って新作の話はない。
しかもエクストラでは式は普通に出演し、アルクェイドもサーヴァントとして出たが志貴は名前すら出ていない。
「……ええと、なんだ。どんまい」
式が慰めてくれたが、まったくありがたくなかった。
そして、この時間もまたグタグタでネタネタな、いつも通りのアーネンエルベの茶会であった。