ORGANIC STONE

私達は地球を構成する生命を持った石に過ぎないのですから。

灰と贋札:ヒトラーの贋札(2007)

2008-02-01 21:46:57 | 映画:ミニシアター系
DIE FALSCHER / THE COUNTERFEITER(2007)

第2次世界大戦中、技術を持つユダヤ人が収容所に集められ、ナチスの為に外貨を偽造させられるという実話を元にしたドイツ・オーストリア制作のヒューマンドラマ。紙幣を偽造することでナチスに加担するか、それを拒否して殺されるか。歴史的事実を元にしたストーリーの重みに際立ったキャラクター設定、無駄を一切省いた緻密な緊張感を持たせた、映画として一級のエンターテイメント。

贋札つくりのサリー(カール・マルコヴィクス)はドル偽造の罪で逮捕され、ナチスの収容所に送られます。そこには隔離された棟があり、外貨の偽造を行っていました。それはベルンハルト作戦と呼ばれる史上最大の国家による贋札偽造。ポンド札の偽造を成功させるよう命じられたサリーは、英国銀行も見破れない精巧な贋札を作ることに成功します。しかし、妻を殺されナチスに加担することを拒否する印刷技術者ブルガー(アウグスト・ディール)は、次の課題であるドル紙幣の偽造を遅らせるよう細工をします。収容所所長に3週間後にドル偽造に成功しない場合は5人を射殺すると宣言された彼らは・・・



ストーリーは贋札作りの犯罪者サリーを中心に進みます。サリーは絵心はありましたが、芸術家では無かった。芸術家に必要なものは才能と情熱、そして己の芸術に対する信念だと思います。彼はしかし、職人でした。己の才能を最大限に使い、精巧なポンド紙幣の偽造に成功する彼。札の偽造は難しいだけに、その手の技術に興味を持つ者にとっては究極の目標です。完璧な贋札作りに成功したサリーは皮肉にも、今までに無い満足を感じたに違いないと思うのです。高度な技術を持ってはいるけれど、惨めな外見に卑屈な笑みを浮かべ生き残るためなら何でもする。しかし心の底から悪人ではないこのサリーのキャラ、思い出したのはダスティン・ホフマン。ダスティンは年齢的に無理ですが、この映画は近いうちハリウッドリメイクされるんじゃないでしょうか。


サリー(カール・マルコヴィクス)。いかにも一癖ありそうです。

家族や同胞を今この瞬間にも殺しているナチスに少しでも加担することは、まともな神経の者なら耐えがたいはずです。しかしその一方、協力を拒否すれば間違いなく殺される。そんな状況下彼らの出来ることはただ一つ、命令にしたがっているように見せかけて少しでも偽札の完成を遅らせること。塀の外では同胞がいとも簡単に殺され、自分たちは塀の中で優遇される、でもそれは単に利用価値があるからであり、価値が無くなれば殺される。誰でも生き延びたいと願ったはずです。ロセック(レン・クトヤヴィスキ)を除いて・・・彼らがナチスから開放された時、同時に彼らの命を支配する力からも解放されました。自分の命の支配権を自らの手に取り戻した時、彼はやっと自分の望む運命を選ぶことが出来たのでしょう。各キャラクタが際立つ中でも非常に印象的なこのロセック、ロシア生まれのドイツ人俳優レン・クトヤヴィスキ。


ブルガー(アウグスト・ディール)、鬼気迫る熱演です。青い棘のお兄さんですね(ダニエル君しか見てなかったんで・・・)。

もしこの映画が、自分の感情に正直で信念に命を掛ける覚悟を持ったブルナーを主人公にしていたら、全く違った映画になったかもしれません。もちろんこのブルナーは物語の要の人物ですが、アウトロー的なサリーを主人公にした事で、第2次世界大戦下の収容所のユダヤ人の物語という悲惨で絶望的な物語でありながら物語的奥行きと映画的エンターテイメント性をもつサスペンスに仕上げることに成功していると思います。後味は決して、悪くない・・・

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6 コメント

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仰るとおりですね (ptd)
2008-02-06 20:35:01
ひよさま

>レビューを読まさせていただいて、益々この作品に興味が湧きました。
>こういう作品が映画館で観られないのが田舎の辛いところ。
そちらでは公開していませんか。
地味な作品ではありますが、見ごたえのあるいい作品です。
レンタルになったらぜひ見てくださいね!

>こういう作品を創る国(ドイツ)って凄いなぁって。
>きちんとした未来予想も過去の検証も出来ない国ってなんなんでしょうかしらねぇ・・・・
仰るとおりですね。
国としてあの戦争で行ったことの反省をし、自分の悪いところを認めてその上で軍隊を持ったドイツ。
もちろん悪いのはドイツではなく「ナチス」だ、という認識の違いはありますが・・・
対照的に国として反省の色を見せれば不利になるとでも言うように、
かたくなに過去に目をつぶり曖昧にしてきた日本。
残念ながら、過去被害を与えた国から信用できる相手と思ってもらうことは難しい、と思います。
返信する
こういう作品・・・ (南半球贔屓)
2008-02-05 23:56:33
ptd様
レビューを読まさせていただいて、益々この作品に興味が湧きました。
こういう作品が映画館で観られないのが田舎の辛いところ。
こういう作品を創る国(ドイツ)って凄いなぁって。
きちんとした未来予想も過去の検証も出来ない国ってなんなんでしょうかしらねぇ・・・・
ひよ
返信する
お兄さんですよ (ptd)
2008-02-05 00:08:44
ラルフさんこんばんは。

この映画は公開中です。アカデミー賞外国語部門映画ノミネートですね、大変おすすめです。ああ面白い映画を見たなあ、て思いました。
実際サスペンス映画として面白い、よく出来た映画ですよ!

>青い棘のお兄さん!
そうです、でこの広さは凄いです(笑)。神経質そうな、思い詰めた感じが上手ですね。
>あの映画はよかったですね~あの女優さん
>「善き人のためのソナタ」のオジサンの娘さん
そうだったんですか!あの映画見たかったんですけど結局見れなかったんで・・・

>言っておきますが、ダニエル君は私のものですよ!
な、なにぃ~!取られたぁ(涙)
よおし、じゃあガエル君は私が貰ったっ!
返信する
おひさです! (ラルフ)
2008-02-04 21:02:58
ptdさん、こんばんは~!
私は知識は無いけど勉強する意味で
こういう映画、興味あります。
これはDVDですか?劇場ですか?
絶対観てみようと思います!!
青い棘のお兄さん!
あの映画はよかったですね~あの女優さん
「善き人のためのソナタ」のオジサンの娘さん、って
最近知りました。名前が出てこない…w

あ、言っておきますが、ダニエル君は私のものですよ!
((*´∀`))ヶラヶラ 
返信する
せめてストーメアおじさんに (ptd)
2008-02-04 17:43:47
豆酢さま

おなかの具合はどうでしょうか。
ちいとばか(←少々の意味)元気になりましたか?
こういう時はおいしいおかゆが食べたいですねぇ。

>的を射た鋭いレビューをありがとうございました。
いいたいことはもっともっとあるのですが・・・
でも、今読み直すと、当たり前のことしか書いてないような気もしますねぇ。

>ロセックの気持ちも理解できるだけに、彼の最期は観ていて辛うございました(涙)。
普通「どうして・・・開放されたのに・・・・」って思うんですけれどね、
あのエピソードで映画に物凄い奥行き出てません?一種のどんでん返し。
あれも事実なのでしょうか。結構来ました、ぐぐっと。
コーリャも可愛そうなんですけどね。

>ハリウッド・リメイク…絶対して欲しくないんだけど(笑)、
こんな作品、見逃すはずがないですよね。
サリー役はニコケイなんて決ったら・・どうしよう・・。
私としてはせめてストーメアおじさんに(笑)。

ではでは。
返信する
まったくです。 (豆酢)
2008-02-03 19:46:46
ptd先生ならではの、的を射た鋭いレビューをありがとうございました。

そうなんすよね、ロセックの気持ちも理解できるだけに、彼の最期は観ていて辛うございました(涙)。
アツェもコーリャもブルガーも、もちろんサリーも、みんな素晴らしい描写だったと思います。

ハリウッド・リメイク…絶対して欲しくないんだけど(笑)、やっぱりされるよねえ…(ため息)。

TB宅急便いたしました。ハンコ下さい。
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